常識を疑い改革をする
日本のアート業界にはあらゆる古い習慣がはびこっている。
習慣というものは常態化するとそれが業界の常識となっていくのが怖いところだ。
我々が知らず知らずのうちに奇妙なルールがいつのまにか業界の常識となってしまうのだ。
我々はアート界において社会が変わってしまうことを怖がるのではなくて、問題があれば社会を変えないといけないと思っている。
従来の習慣や業界に対して忖度をしているような余裕はなく、変えるべきだと訴えるよりも率先して自社から変える必要があると思っている。
つまり、俗に言う「ファーストペンギン」でありたいと考えているのだ。
「ファーストペンギン」とは、集団で行動するペンギンの群れの中から天敵がいるかもしれない海へ魚を求めて最初に飛びこむ1羽のペンギンのことである。
そういった勇敢なペンギンのように、リスクを恐れず挑戦するベンチャースピリッツを常に持ちたいのだ。
情報の隠匿性
さて、業界におけるもっとも悪しき習慣が「情報の隠匿性」である。
ギャラリーに行っても展示している作品の価格が分からなかったり、過去に販売した作品の価格も分からないのが実態だ。
アート業界で価格が公開されているのは、オークションハウスの落札価格くらいだと思ってよい。
実際にアート界ではギャラリーのようなプライマリー(一時販売)の価格は隠されているが、一方でセカンダリー市場では価格がオープンとなっているところがほとんどだ。
インターネットがアートの業界にも浸透してきてから、セカンダリー市場が現代アート全体を牽引するようになっており、これは日本に限らず世界的な傾向にある。
これはセカンダリー市場がインターネット黎明期より情報をオープンにしており、誰でもその情報を入手して分析したりすることができるようになっているからだ。
よって気軽にオークションに参加する購入者が増えているのだ。
他方、プライマリーの市場はいまだに情報を公開しないまま、セカンダリー市場の拡大に引っ張られる形となっている。
賢い顧客は先にセカンダリー市場の情報を得て、それを元にプライマリー市場でギャラリーから作品を買うようになってきている。
そのような状況が長く続くと、プライマリーの価格をオークションのようなセカンダリー市場がコントロールしやすくなっていくのだ。
事実として、プライマリー価格はオークションで落札されるセカンダリー価格に大きく影響している関係にある。
セカンダリー市場からすると、プライマリー価格はあくまで目安でしかなく、セカンダリー価格の情報を持っている顧客の動向によって大きく変化するものとなっている。
この傾向は特にインターネットが始まった1995年から始まっており、このままギャラリー側の情報公開が進まなければ、景気や顧客同士の競争によって簡単に上下してしまうオークションの落札価格に振り回され続けることになるだろう。
顧客のターゲット設定
日本は最も高齢化した国家であり、ドイツやイタリアを抑えて世界でダントツである。
政治も経済も高齢者を中心に回っているのが現実である。
実際に日本では現預金を保持しているのは70歳以上の高齢者が全体のかなりのシェアを占めている。
そういった高齢者にとっては理解しづらい現代アートを買うことにはかなりのハードルがあると思ってよいだろう。
年齢が高くなればなるほど保守的になるので、富士山や花鳥風月のような作品やこれまで慣れ親しんだ絵柄であれば喜んで買うが、よく分からないものに対してお金を出すのは難しいのだ。
そうすると、本来ならアートの市場では30-50代の層にターゲットを設定しなければならないということになる。
20代では実際にアートにお金を使える層は少ないと思われるのでそれ以上になるだろう。
つまり、単純にお金を持っている人にターゲットを絞るのではなく、これからお金を持つようになると思われる人への啓蒙活動が日本では必要になるのだ。
米国や中国では日本より年齢の中間値が10歳ほど低いし、30-50代の人々がお金を稼げる世の中になっているのでそのままでも問題ないのだ。
日本の場合は、まだ安い時に若い層に作品を買ってもらい、その作品価格が上がって売買益を獲得できるという経験を多くの人に積んでもらうことが重要だ。
その小さな積み重ねによって今のアートブームの火種が拡大できるかもしれない。
現在の日本のプライマリー市場は完全にオークションなどのセカンダリー市場に頼りっきりの状況にある。
我々がこれからの世代に対して門戸を開いていくにはギャラリーによる情報の公開が最も重要だ。
タグボートは2月10日より有楽町に続く2軒目となる新ギャラリーをオープンする。
ギャラリーがオフィスに近接する形での運営となるため、よりオンラインと現物展示との情報の差を縮めることができるだろう。
人形町に新しく出来るギャラリーは日本にはほとんど見られることのない天井高5メートルの空間で美術館級の大型作品を展示していく予定である。
タグボートはこれまでの日本でのギャラリー展示の常識をひっくり返していく。ぜひ初日(2月10日)のオープニングには誰でも入場できるので来てほしいと願っている。
小野海・三塚新司「curve」
2023年2月10日(金) ~ 2月25日(土)
*2月11日(土)は祝日のため休廊いたします。お越しの際はご注意ください
営業時間:11:00-19:00(休廊日:日月祝)
*オープニングレセプション:2月10日(金)18:00より
入場無料・予約不要 どなたでもご参加いただけます
会場:東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
http://tagboat.co.jp/kaiono-shinjimitsuzuka-curve/