藤子・F・不二雄のキャラクターが一粒の涙を流す作品(eyewater)で世間を騒がしてきた橋爪悠也の個展とインタビューがいま話題となっている。
橋本悠也のインタビュー内容を簡単にいうと、「世界的にも有名な漫画家の作品を模倣しそこに涙を付加することに特別な意味はなく、自分を売るための手段としてのアート作品である」ということだ。
こういうものを作れば日本ではウケが良いだろうということを、プロモーション側の視点で作品作りに活かしているということである。
確かに、アーティストは作品が売れないと食べていけないのだが、制作においてどこまでマーケットのニーズを意識するのかは非常に重要な問題だ。
世間のニーズとかけ離れた作品ばかりを作っていては売れないので、プロのアーティストを目指すならば売れる作品を作ることはある程度意識せざるを得ないだろう。
以下の図にあるように、アーティストが作りたいものとマーケットが望むことの重なる部分が売上に繋がるのである。
それぞれが重なる部分の売上をつくるために、マーケットのニーズに合わせて自身の作品の方向性さえもマーケットに委ねてしまうという方法もありえるのだ。
一方で、現代アートとはすでにある世間のニーズに応じて作るものではなく、世間が見たこともないあっといわせるようなセンセーショナルな作品をつくるべきだというアーティストの意見もある。
それはそれでアーティストが巨匠へと向かっていくために必要なことであり、一方でそこそこ食べていける安定性を求めるアーティストにはマーケットのニーズを重視したほうがよいのかもしれない。
つまりはアーティストの持つ目線の高さによって立ち位置が変わってくるのだと思う。
例えば、これまで世の中になかったiPhoneというスマートフォンを発明する企業なのか、またはそれをベースにした安価なスマホを作っていく企業なのか、という違いに似ている。
どちらの企業も売上を作って利益を上げる社会的行為であり、世の中を便利にしていくことに違いはない。
ただし、これをアートに置き換えた場合にはどうだろう。
有名な作家をトレースしたパロディ作品が多くの顧客のニーズに合致して売れていくのは仕方ないのだが、その作品の価値付けについてはマーケットの成熟度によって変わるだろう。
美術史の新しい文脈を残す発明品のような作品に高値を付けるマーケットなのか、需要があるからといって素人が競って高値を付けるマーケットであるかの差は大きい。
参加するコレクターの質がマーケットメイクに関わっていくのであれば、我々はオークションで高値が付いたからよい作品だという単純な評価に躍らさせることなく、そこの参加者の質も含めて考えたほうがよいだろう。
一発屋芸人のようなアート
一発屋というのは「ギャグ」といわれる一芸で低年齢層を対象とした笑いをとることをメインとしている芸人のことをいう。
話芸ではなく身体を使うものが多く、オーバーリアクションなどもそのひとつで誰でも模倣が可能だ。
しかしながら、一発屋はある程度世の中に浸透した時点で飽きられてしまうため、芸人としての寿命はあまり長くはない。
それでも世間に知られることを目指して一発芸に励む芸人は少なくない。
この一発屋芸人をそのままアーティストに当てはめるにはやや難があるといはいうものの、一般大衆に分かりやすいアートを広げるという行為自体は少し似ている気もする。
またそのようなアートが飽きられやすく、アーティストとしての寿命が短いのも事実だろう。
だからこそ、マーケットの短期的な動向に踊らされることなく、アートとしての本当の価値を見ていく必要があるのだ。
そういった面では、欧米の成熟したアートマーケットには学ぶべきことが多くあり、大衆の動向だけに振り回されないサザビーズ、クリスティーズという名門オークションがやってきたことを我々は学ばなければならないのである。
東京の夏の終わりの風物詩「Art Fair GINZA」
タグボートでは銀座三越の催事場を使ったアートフェア「Art Fair GINZA」が開催中である。リアルの会場とネットの両方による展開を行っており、すでに700点に及ぶ作品が公開されている。
Part2の作品のオンライン販売は9月7日(水)の21時からスタートだ。
Art Fair GINZA 特設ページはこちら
特に初日の内覧会や土日は人も多くなることから、事前に作品と価格を見ながら目星をつけておくのがよいだろう。
Part 2
AKIKO KONDO/Kamihasami/東菜々美/足立篤史/石井七歩/石川美奈子/オオタキヨオ/カワヲワタル/木村美帆/サイトウユウヤ/塩見真由/清水智裕/スガミカ/鈴木ひょっとこ/田村久美子/徳永博子/富田貴智/中浦情/ナカムラトヲル/額賀苑子/濱村凌/林恭子/廣瀬祥子/フルフォード素馨/前田博雅/松森士門/三塚新司/曄田依子/吉田樹保
開催概要
Part1:2022年8月31日(水) ~ 9月5日(月)
Part2:2022年9月7日(水) ~ 9月12日(月)
午前10時~午後8時 ※最終日は午後6時まで
- 各会期初日(8月31日と9月7日)21:00からタグボートオンラインでも販売開始
会場:〒104-8212 東京都中央区銀座4-6-16
銀座三越 新館7階 催物会場
タグボート代表の徳光健治による二冊目の新刊本「現代アート投資の教科書」を販売中。Amazonでの購入はこちら
タグボート代表の徳光健治による著書「教養としてのアート、投資としてのアート」はこちら