デジタルアートの販売がNFTによって変わる
NFTが世の中に出てくるまで、デジタルアートはディスプレイに表示したり紙に印刷する形で販売をしており、デジタルデータのままで販売されることはなかった。
それはデジタルデータだと誰でも簡単にコピー・複製できるので、どのデータがオリジナルであるかを証明できなかったからだ。
NFT(Non Fungible Token)はブロックチェーン技術を応用することでデジタルアートのオリジナリティが唯一無二であることを証明できるので、最近になってようやくNFTとしてデータのまま売る市場が作られたのだ。
つまり、NFTという新しいアートのカテゴリーが出来たのではなく、デジタルアートの新しい販路ができたということだ。
NFTアート市場は2021年に一気に拡大し、2020年の400億円市場が40倍の1.6兆円へと膨れ上がった。
まさにバブルの状態である。
NFTアートの熱狂は今年に入って一段落したと同時に暗号資産のイーサリアム(ETH)の相場も1ETHが昨年11月の53万円台から今年6月には15万台へと70%以上も暴落したことが追い打ちとなって、今年後半はNFT市場が昨年の反動で冷え込むことが予想されている。
NFTクラブのようなBAYCの出現
バブルからやや落ち着いてきたNFTアートの市場ではあるが、オンラインコミュニティが内在しているNFTアートは比較的好調に推移している。
それは何かというと、投資・アート・コミュニティを合体させた新たな「NFTクラブ」のようなものだ。
Cryptopunksと並ぶ高額NFTアートの代名詞であり、世界中のNFTコレクターが注目するコレクションであるBAYCがそのひとつであり、今回はそれについて説明しよう。
2021年5月あたりから、Twitterのアイコンを「サルのアバター画像」にする人が増えたことを知っているだろうか。
これは米国マイアミにあるYuga Labs社によって昨年4月に発足した「BAYC(Bored Ape Yacht Club:退屈したサルのヨットクラブの意味)」というNFTアート作品であり、単なるデジタル画像のデータだけでなく、購入者はBAYCというヨットクラブの社交場に入るための会員証にもなるということが他のNFTアートと違うところだ。
TwitterのアイコンをBAYCのサルのアバターにすることは、BAYCのコミュニティの一員であることを示すステイタスシンボルとなっている。
このBAYCのアバターの意味であるが、暗号資産の世界では、リスクを負ってNFTを購入する行為を「Aping in」と言い、それがApe(サル)という言葉を使ったジョークとしてサルのアバターが作られたとのことである。
昨年4月の最初の販売価格は2万円程度で1万点が数日で完売となった。
この作品が今では、1点がなんと1400万円を超えている。(一時期は4,000万円を超えることもあった)
1万点のBAYCのアバターはアルゴリズムによって体・頭・衣服などを組み合わせたランダムな画像を自動生成して作られるのだが、販売当初はコレクターが支払いを行うまで画像は表示されず、支払後に画像が表示される仕組みになっていた。その面白さも人気に火がついた原因だろう。
BAYCのコミュニティはDiscordとよばれる「LINE」のようなチャットアプリの中でBAYCのアート保有者だけが参加できるネット上の交流のほか、現実世界でのオフ会なども活発に行われている。
例えば、BAYCの所有者は自分が持っているBAYCのゲームやグッズなどを販売して利益を得たり、新たなビジネスも生まれているようだ。
つまり、このBAYCの会員は皆、1千万円以上でデジタルデータを買える財力のある有名人や起業家、投資家であると言ってもよいだろう。
この上流階級のみが集まるコミュニティこそが、BAYCの魅力である。
これまで、ネット上のデータそのものには希少価値やブランドといった概念がなかったが、BAYCの登場によりネット上のデータにも、希少価値が生まれ、スタイタスシンボル化することとなったのだ。
NFTアートの進化
BAYCの成功を受けて多くの人がNFTクラブを創設するようになっていくだろうが、NFTアートというデジタル作品にびっくりするような価格が付くのをみると、それだけで完全にバブルであると思うのは一般的な感覚であろう。
一方で、非常に高価なNFTアートを買う人とは我々の想像を超えた裕福な人であり、そのような人が多く存在するということも忘れててはいけない。
そして、その裕福な人々というのは、ステータスシンボルのためにいとも簡単に多額を投じるものなのだ。
単なるデジタルアートに数千万円、数億円の値が付くことは一時的なことかもしれないが、NFTの本質であるデジタル所有権の証明という概念は今後も続くことは間違いない。
現在のNFTアートは美術品として鑑賞に堪えうるものであるかということではなくて、ステイタスシンボルとして、社交場の会員証として、さらにはその社交場で繰り広げられるあらゆるビジネスチャンスとしての価値を考えるほうがよい。
NFTアートがステイタスの利用法として価値が上がり、再販するときに利益が獲得できるといううま味があればこそ、これだけ多くの人がわざわざ高いお金を払ってまで購入しているからだ。
これは、かつてアンディ・ウォーホルが著名人のポートレート作品を作り、アートを社交に利用することによって価値を上げたことにも通じている。
BAYCがウォーホルと同様に結果として歴史上に残る作品になる可能性も十分にあるということを知っておこう。
Open SeaのBAYCの販売サイト
https://opensea.io/collection/boredapeyachtclub
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