海外に出ていかない日本人アーティスト
野茂英雄がロサンゼルス・ドジャースと契約して海外に渡ったのが1995年なので今から27年前も前のことだ。
そこから歴史が始まり、イチロー、松井、ダルビッシュ、大谷翔平など60名以上の日本人メジャーリーガーが生まれた。
その中にはメジャーで辛酸を舐めた選手もいれば、現地と水が合って想像以上に活躍できた選手もいる。
もちろん各選手にとっては、スピード、パワーといった実力だけでなく、現地に溶け込んで力を発揮できるタイプであることも重要なポイントだろう。
さて、アートについて考えてみると、メジャーリーガーと同様に考えることはさすがにできないものの、海外で活躍している日本人アーティストの数は格段に少ないと言えるだろう。
現地で活躍しているアーティストとしてはニューヨーク在住の松山智一、山口歴がいる。また、オランダ、ドイツを経てポルトガルに在住するロッカクアヤコといったところが有名であるが、いずれにしても日本人アーティストの海外在住者は貴重に思えるほど少ない。
村上隆、奈良美智、草間彌生といった現代アートの巨匠は、現在は日本に在住して作品を制作しているが、いずれも海外の経験者であり、海外のメガギャラリーを通してそのステイタスを上げていることが共通している。
アートについては野球やサッカーなどのスポーツとは違って必ずしも現地に行く必要はないのだが、日本という狭い世界だけを自分の守備範囲をしているアーティストが多すぎるのは気になるところだ。
日本のアートマーケットは世界の1%にも満たず1人当たりのアートの購入金額では先進国で最低レベルであることを考えると、もっと大きな可能性のために視野を広げることは必須であろう。
それはアーティストだけではなくアートを販売する業者にも言えることであり、日本国内にとどまらずアートを積極的に海外に発信する必要があることは間違いない。
日本人アーティストが海外で活躍するには
大谷翔平がメジャーリーガーとして活躍するように、日本人が海外アーティストと伍して戦うためにはそのための環境づくりが必要であろう。
例えば、取り扱いギャラリーはもちろんコレクターなどのパトロン的なサポーターによる海外向けプロモーションや、現地で生活する資金のバックアップなども考えられる。
そのために、クラウドファンディングを積極的に活用したり、アーティストを支援するプログラムを企業のCSRとして行うなどやれることはいくらでもあるだろう。
国の行政による補助金や支援金などはあまり期待できないからといって、あきらめる必要はないのだ。
さて、日本のギャラリーが海外の市場でアート作品を売ろうとする場合に、現地のアートフェアに出展するまでで終わっている場合が多い。
数年かけて現地のアートフェアで結果を作っていければ、現地にギャラリーを出店するということも考えられるのだろうが、そこまでするギャラリーはほぼない。
そうすると、365日のうち3-4日間しか現地にいないギャラリーが現地のギャラリーとまともに戦えるはずはなく、フェア出展はまるで「行商」のように作品を売り歩く業者にすぎないのだ。
タイミングよく作品を買ってくれる顧客がアートフェアに来てくれればよいが、そうでないとまた来年まで待たねばならないということになる。フェア出展が顧客の当たりはずれに左右されるようでは安定した海外展開は望めないだろう。
本気で海外展開をやるのであれば、事前に現地でのプロモーションやマーケティングが必須であり、とりあえず行ってみて現地の反応を確認するといったことの繰り返しでは負け戦になりかねない。
現地のメディアの注目を集めるには、事前に現地でのプレスリリースや、写真映えする作品画像の提供、動画の提供といった準備なしには進めることはできない。
現地のコレクターが偶然に買うことを期待するのではなく、売れることを前提としての戦略を立てなければ拡販は望めないだろう。
そのためには、現地のマーケットに精通したコンサルティングや綿密な市場調査が必要であろうし、現地のSNSやオンラインメディア、インフルエンサーの活用は必須条件となるだろう。
しかしながら、日本のように海外の入国制限が厳しい鎖国状態ではなかなか将来の海外進出を進めづらいのが現実である。
6月から制限を緩和するらしいが、一日2万人という人数はコロナ前が1日10万だったと考えると、わずか2割程度に広げただけであまり代わり映えはしないだろう。
7月の参議院選挙までは大胆な制限緩和は先送りされるだろうから、すぐには期待できないのだがいつまでも待っているわけにはいかない。
来るべき時期までにじっくりと戦略を練って準備をしておく必要があるだろう。