2018年の現代アートは、海外ではバンクシーのオークション作品シュレッダー事件をはじめ、様々なことが起きたが、総じてマーケットは堅調だった。
今回は2019-2020年といった比較的近未来において、どのような市場の変化があるのかを予測したい。
様々なトレンドがあるが、その中で以下の4つの潮流を2回にわたってピックアップしていく。
1)中国のマーケットは拡大し、北京、上海、といった都市だけでなく、他の大都市にも波及する。
2)米国は大手ギャラリーの寡占が進み、中堅ギャラリーが淘汰される中、全体としての市場規模も拡大。
3)株価不況の影響を受け、長らく活況であったセカンダリー市場は影響を受ける, 台湾アート市場は復活
4)日本市場もセカンダリーは振るわず、奈良、草間、村上人気に陰りがみられる。台頭する名和晃平、五木田智央などが強い。
1.中国マーケットの拡充
中国のアートマーケットが活況であることはすでにご存知であろう。
なかでも美術大学が多くあることが理由で798芸術地区をはじめ多くのギャラリーの集積地である北京がこれまではアートマーケットの中心であったが、ここ最近になって上海がマーケットの中心の地位を奪うこととなった。
上海は国際的な貿易の中心地ということもあり、海外からのアート作品が入ってくる窓口としては北京より優位にあるからだ。
そのためここ10年で上海市内だけで大小含めて20以上のプライベート美術館が開設されており、富裕層がアートを買うキッカケにもつながっている。
数年前からART021やWest Bund Art Fairといった国際的な一流ギャラリーが出展するアートフェアが上海で開催されるなど、官主導ではなく民間の力と外資の両方によってアートマーケットを作っていることはいかにも上海らしい。
と、ここまでは上海、北京の二大都市が主な現代アートのマーケットであったのだが、ここ最近は中国内の他の都市へと拡充している。
深圳、広州といった香港に近い広東省の大都市はもちろん、成都、重慶、大連、天津、寧波、瀋陽など多くの都市の美術館やアートセンターで現代アートの展示が増えており、コレクターの数も増えてきている。
この傾向は中国においてスマホとSNSの普及率が高いことが要因であり、以前は香港や上海などのトレンドが地方都市まで広がるのに時間がかかっていたのだが、ここ最近はほぼ時差なしで流行が普及するようになってきた。
地方にいても情報が容易に入手できることから、資産価値としても人気の高い現代アートのマーケットがさらに拡散していくことは間違いない。
この中国の状況と同じように、東アジア各国でもこの動きが始まっている。
資産としての価値を持つアートにいち早く気づいた華僑からシンガポールを中心にインドネシア、マレーシアへと飛び火した現代アート熱は、タイやフィリピンにも広がっている。
来年以降、株価の下落などによって景況が悪くなったとしても、全体としてのアート熱の拡大がアジアのマーケットを下支えしてくれるものと予想している。
米国の大手ギャラリーの寡占
米国では、大手ギャラリーがアートフェアに出展するごとに力を増してきており、マーケット全体を牽引している。
逆にアートフェアは中堅ギャラリーにとってはますます厳しい状況となっている。
中堅ギャラリーは自分のお得意様をアートフェアに招待しても、その人たちが大手のギャラリーの作品を買うこととにつながってしまい顧客を奪われる結果となっている。
高いフェアの出展料は中堅ギャラリーにとって費用対効果が合わなくなっているが、逆に大手からしてみると安い出展料で大きな成果が上がる仕組みとなっている。
まさに弱肉強食の世界が繰り広げられているのだ。
特に、Gagosian、David Zwirner、Hauser & Wirth、Paceのニューヨークを拠点とする4大ギャラリーは怖いものなしの状況となっており、著名なアートフェアの中で最もおいしい部分を牛耳っている。
コレクターもこの4大ギャラリーが推すアーティストであれば、間違いなく価値が上がるということで、競ってこちらのギャラリーの作品を買って重要顧客リストになるよう努めているのだ。
このような大手による寡占の状況はますます強まっており、勢いが収まるような気配は見えない。
ギャラリーの巨大化はスター化するアーティストを独占する傾向にもつながっていく。
すでにGagosian一社だけの売上高は日本の現代アート市場全体よりも大きくなっている。
大企業化すると新しいイノベーションを興しにくくなるため、そのときに新興のギャラリーからまた新しいトレンドが生まれてくるだろう。
そこには、従来のアートビジネスとは 異なるIT技術やコンセプトが出てくるのかもしれない。
巨大化するアートビジネスにおいて新しい芽が出現することが期待されている。