今年で14回目のタグボートアワードが世田谷ものづくり学校にて開催された。
公募には合計270名のエントリーがあり、画像による一次審査で選出された30名のアーティストによる入選者グループ展が2月23、24日の両日に開催された。
審査員には日本を代表するギャラリスト・小山登美夫氏、美術家の天明屋尚氏、コレクターの塩入敏治氏にタグボート代表の徳光健治を加えて計4名で審査が行われた。
タグボートアワードの特長はこのように、美大教授のようなアカデミックな視点を敢えて外して、現実のアートのビジネスの中で役立つ方々を審査員として選出していることだ。
従い、難解なコンセプトよりも単純で分かりやすいコンセプトが好まれるし、精緻な技法よりも大胆でインパクトの強い作品が評価されやすい。
さらには新しいトレンドを含んでいることもアーティストにとって大切な要件である。
そのため、タグボートのアワードに応募するアーティストでは超絶技巧や写実の技術にこだわる方が少なくなってきた。
また、タグボートアワードはジャンルも絵画、写真、立体、インスタレーション、映像、パフォーマンスなど多彩だ。
メディアの多様化は時代の流れであり、いまだに平面に限定している公募が多い中、タグボートは多くのアーティストに対し門戸を広げている。
さて、タグボートアワードのもう一つの特長は賞金額ではなく、その後のフォローアップにある。
賞を獲得したアーティストに次のキャリアへのチャンスを与えることだ。
受賞者向けに海外でのグループ展の開催を行っているのはそのためだ。
今年はアワードとしては初めて上海という場所を初めて選んだ。
これまでは、香港、台湾といった場所がメインであったが、ここにきてメインランドの中国、その中でも上海を選んだことに意味がある。
中国の中でも特に上海は北京をしのぐほどにアートマーケットが拡大していることと、その成長速度が異常に早いことだ。
そのダイナミズムをアーティストに感じてほしいというのが今回の趣旨だ。
上海で開催されるShun Art galleryのオーナーであるshunさんにも、今回の入選者グループ展に来てもらった。
来日時期が確定しないことから審査員になっていただくことはいったん断念したのだが、今回は都合よく来日時期が重なったのでshunさんのギャラリーで展示する作品を自らの目で確認してもらったことと、直接アーティストと話をしてもらえたことは大きい。
グランプリには清水智裕、準グランプリにAiraが選出された。
偶然にもこの両名のペインターはタグボートがすでにオンラインで販売しているアーティストであったことから、タグボートが現在プロモーションしているアーティストの質の高さが証明されたこととなった。
さらに、審査員特別賞には、TETSUJIN AUDIO VISUALというほうきギターのパフォーマンスアートであったり、AI(人工知能)によって作られた作品など、最新のトレンドが反映されたアーティストが選出された。
そのほかペインティングのちぎらしょうこ、工芸的なセンス光る田中陽子と、総勢6名のアーティストが受賞し、上海行きの切符を獲得した。
さて、これらのアーティストが次のキャリアを形成するためには、上海に行って展示をするだけでは十分ではない。
展覧会で作品が売れればよいのだが、もし運よく売れたとしてもそれは一時的なものにすぎない。
また展覧会に参加した実績もそれは作家プロフィールの履歴に残るだけだ。
タグボートアワードでやりたいことは履歴を残してもらったり、賞金を与えることでアーティストの懐を温めることでもない。
我々が望むことは、作家の自助努力を側面から支援することだ。
つまり、国内にしか目が向いてないアーティストに海外のマーケットの現実を身をもって感じてもらうこと、現地に行くことで磨かれるコミュニケーション能力だ。
日本国内はアートマーケットが小さく、国内市場だけを意識した作品では世界に通用しないことを作家自身が知る必要がある。
大きな作品は売れないので小さいな作品を作った方がよいと言われるのは日本のギャラリーくらいだからだ。
また、現地のギャラリーがどのくらいグローバルな展開をしているか、コレクターの規模など、海外に行かないと気付かないことは多い。
そこから学んだことをどのように日本に帰ってから制作につなげるかが重要だ。
実際に海外の展覧会で、現地のマーケット実情に触れた後に、現地でのアーティスト・イン・レジデンスをすることの意味を感じて行動を起こすアーティストもいる。
彼らは見たこと、感じたことを躊躇せずに行動することで次のチャンスを確実にものにしている。
我々はそのようなアーティストを応援したいし、アワードを機会として自らが変わるアーティストが生まれることを期待しているのだ。