前回のコラムでは、ベンチャー投資とアート投資がその性質上、よく似ていることを述べた。
従って、アートを投資の側面で購入したいと考えている人にとっては、エンジェル投資家になった気持ちで買えばよい買い物ができるということだ。
さて、今回はさらにベンチャー投資とアート投資を比較して見ていくことでアート投資の本質に迫っていきたいと思う。
段階ごとの投資
一般にスタートアップ企業の投資には投資ラウンドというものがあり、企業の成長ステージに合わせて、エンジェル投資家やベンチャー・キャピタルなどが段階的に投資をすることが多い。
その中でも、投資ラウンドが「シリーズA」といった初期段階の場合、「Product Market Fit」というものを起点として投資をすることが一般的だ。
Product Market Fitとは、スタートアップ企業の提供する商品やサービス(Product )が市場(Market)で支持されている(Fitしている)状態をいう。
その段階で顧客の数は多くはなくても、一部の顧客には着実に刺さっている状態なので投資可能性があるというこだ。
投資家が資金を投入するタイミングとしては、今後も製品やサービスが市場で顧客を獲得できることの「仮説検証」を行う場合、または「仮説検証」で問題がないとされる製品やサービスの売上を一気にスケールアップさせる場合が多い。
つまり、サービスが顧客にフィットしそうであることが実験段階で見えてきたら、プロモーション費用に大金を投下した場合にその反応が拡大することが見込めるということである。
つまり、どうなるかはまだ分からないが、ある程度マーケットが反応し始めているのであれば、そのチャンスに早めに賭けておこうということだ。
しかしながら、シリーズAの段階で実証結果が見えてきても、実際には投下した資金に見合った事業拡大に失敗するスタートアップ企業のほうが圧倒的に多く、そこからスケールアップして成功できるのはごく一部に過ぎないということは事実として知っておこう。
アートの投資は個別の顧客を見よ
このような段階的なスタートアップの投資の考え方は、アート投資にも当てはまる。
まだ駆け出しのアーティストの場合、個人の目利きではどれくらいそのアーティストが評価されるかは分からない。
したがい、最初の展覧会での顧客の反応や、オンラインでの販売状況がポジティブであれば、積極的に作品を買ってみるということだ。
ただし、最初からいきなり完売という新人アーティストが多いわけではない。
ほとんどの場合は展示の経験を積む中で人気がじわじわと出てくるものだ。
現在では巨匠と呼ばれる作家であっても、最初の展示では酷評されたり、人気が芳しくないことはよくある話である。
特に、作品が前衛的すぎる作品や難解なコンセプトの作品は、一般顧客への浸透に時間がかかることから、将来的な人気が初期段階では測りがたいところがある。
しかしながら、やはり購入顧客が「通」な人で、きちんと売れる作家を見極めている方でいれば、最初はあまり売れなくても今後の活躍に期待できるであろう。
特にアートの場合は、ターゲットとする富裕層にフィットするかどうかがカギであり、そのためにはどのような顧客が買っているかを見極める必要がある。
過去に売れっ子となる前にアーティストの初期作品を買っていた富裕層コレクターがいるかどうかを見極めれれば、そのアーティストの評価が将来的に上がる可能性も高いかもしれない。
伸びるアーティストとの出会い
将来的に価値の上がるアーティストに出会えるようにならなければ、その存在に気が付いた時にはすでに価格が高くなって買えなくなることが多いだろう。
オークションで値が上がり始めたころには、一般的な購入希望者にとっては高嶺の花となっているのだ。
まだ価格が安い段階ではアーティストの評価はメディアなどの表(おもて)には出てこないし、それに事前に気付くのは容易ではない。
Instagramに出ているアート作品の画像を眺めたり、目的もなくギャラリー巡りをしているだけでは、将来の巨匠に出会える可能性は低いだろう。
一方で、富士山にこれまで登頂したことない人がどのように富士山に登るかのガイドはできないように、売れっ子アーティストだからこそ分かることもある。
今後は、有力コレクターだけではなく、実際に作家として成功した経験のあるアーティストの意見も重要となってくるだろう。
また、今までの経験に基づく知識や知恵でスタートアップ起業を支援しつつ応援することができるのが、エンジェル投資家が投資をすることの醍醐味でもある。
これはアート投資にも同様のことが言えるため、アート業界の大物コレクターや美術館のキュレーターを紹介したり、サポートをしてくれるコレクターに支えられているアーティストは今後も伸びるということだ。
さらには、起業家と同じで、自分自身が世界を変えてやろうというくらいの意気込みのあるアーティストは自信にあふれているし、挑戦を最後まであきらめないので、いつか評価が上がる時がくると考えて様だろう。
そのようなアーティストであるかどうかは本人と直接会わない限りは作品を見ただけではわからない。
また、すぐに結果を期待するのではなく長期的な視点でアーティストの作品を見定めることがアート投資には必須であり、少しくらい売れない時期があるアーティストであっても、がっかりする必要はないのだ。
スタートアップ投資とアート投資の最も大きな違いは投資回収までの時間感覚がアートのほうが圧倒的に長いと考えてよいだろう。