制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの林恭子さんにお話を伺いました。
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林恭子 Kyoko Hayashi
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アーティストステートメントについて教えてください。
自然界での季節の移り変わりに敏感で、暮らしの中でその変化を楽しんでいます。
風が少し冷たくなったとか、雨が降って木々の色が濃くなった、など
日常にひそむ自然の変化を「岩絵の具」という日本と深く繋がりある画材を使用し表現していきたいです。
岩絵の具自体が鉱物を削って作られるもので質感が強く、そのままでも美しい素材なので、あまり手を加えず絵の具が一番美しく見えるような表現で絵を描いていきたいです。
今回制作工程をご紹介いただく作品は何ですか?
この夏から秋にかけて、新たに制作した作品です。
それぞれの作品について、コンセプトを教えてください。
24.2 x 33.3 cm, 木製パネルに布張り/岩絵具
6月末日の梅雨の時期、雨に混ざって少し夏の香りがして、その香りを描きました。
元になったdrawing
23 x 23 cm, 木製パネルに布張り/岩絵具
雲の流れを描いています。
7月初め、雨の多かった時期の雲を写しとりました。
「Transition S/A」
38.5 x 61 cm, 木製パネルに布張り/岩絵具
季節の移り変わりの空気を描いています。
ふわふわとした抽象的な画面の形は空気を型どっていて
タイトルのS/AはSummerからAutumnの頭文字をとっています。
夏から秋への季節の移り変わりを描きました。
10月初め金木犀が香る時期で、 金木犀の香りが漂う瞬間を描いています。
元になったDrawing
「Bouquet」
27.5 x 22 cm, 木製パネルに布張り/岩絵具
「Bouquet 」シリーズ
花屋さんでBouqutを選ぶところから始まります。
描きたい花を何点か選び花瓶に活けて、デッサンして観察して、側に置いて描いて、枯れるまでアトリエで一緒に過ごします。
絵をみた人がいつでも華やかな気持ちになるように。
花の一番美しい時の香りや色を絵に写しとり、枯れないBouquetを描きたいと思っています。
今回の絵のモチーフとなったBouquet
カーネーション(キャラメル)
バラ(ケンジントンガーデン)
オランダセラム
エリンジウム
制作過程、技法について教えてください。
描きたいテーマをノートなどにメモし言葉にします。
そのテーマに沿ってドローイングを複数枚描いてそのドローイングを元に制作します。
下描きなどはせずパネルの周りにドローイングを並べて、その時の感覚で色を選んで描いていきます。
絵具の滲み大切にしているので、支持体は布(ポリエステルや綿など)を使用しています。和紙などの紙より滲み具合が柔らかくなるので、布を選択しています。
筆のストロークなども重要なので別の紙に筆跡を試して本描きに挑んで行きます。
主に自然光にて描きつつ、完成直近に明るい照明の元、画面のチェックをして完成させます。
作品の前にはどのようにドローイングを描かれるのですか?
Bouquetシリーズは、花束を描く前に、色鉛筆やクレヨンなどでそれぞれの花をデッサンしています。
実際の作品を描く前にデッサンし、観察する時間を設けて、本描きに入る前にイメージを膨らませています。
こちらは水彩絵具を使用していて、日々の出来事を書き溜めています。
日記的なものです。
作品制作で困難な点や苦労する点を教えてください。
絵の具のにじみなどを利用し構図などは描きながら決めていきます。
偶然に頼る部分も大きいので、失敗作が多いところに苦労してます。
描き始めが大切なのですが、そこで違和感が生じると早々に絵を剥がしてしまいます。
そしてまた布を貼って一から描き始めます。
絵を剥がすたびに、反省ノートに何が悪かったのかき出して分析してその繰り返しです。
もっと良い表現が生み出せるように、絵具により起こる偶然もコントロールしていきたいです。
ご自身の中で、失敗と成功の線引きはどこにあるでしょうか。
失敗したと思う時はもうこれ以上手を入れても良くならないな、と思った時です。
それは描いて初めの頃の時もありますが、8割完成して気づく時もあります。
画面の余白、筆の勢いなどを大切にしていて、重ねたり、消したりが余り向いていないため1発勝負的なところがあります。
習字の感覚に似ているかもしれません。
ですから制作時は失敗しないよう、一筆一筆を慎重に画面に残して行きます。
林恭子のスタジオ
これまでの活動について教えてください。絵を描き始めたきっかけはありましたか?
小学校1年生の時の写生会で賞をもらった時は今でも覚えています。孔雀がモチーフだったのですが、クレヨン全色を使って描きました。賞をもらった時はすごく嬉しくて、その後毎年開催される写生会の時は人一倍張り切って絵を描いていました。
アーティストを目指そうと思った経緯を教えてください。
アーティストを目指そうと強く思ったのは、大学卒業した頃だろうと思っていました。
ですが実際には、卒業後にしばらく続けていた作家業を2~3年お休みした後、また制作を再開した時のほうがはっきりしていたかなと思います。
休んでいた時期は何を描きたいか、絵を描きながらどのように生きて行くのか迷いが生じて、一旦描くことから離れていました。
また自然と絵を描きたいと思えた時、覚悟を決めて絵を描く道へ進んでゆきました。
現在の作風はどのように確立していきましたか?
具象と抽象の両方を描いていた時期があります。
当時は描きたい作品と求められている作品が違う気がして、制作に迷いがあり一旦描く事をお休みしました。
しばらくギャラリーで働きながら、様々な作品を見てきました。多くの作品を見ることで、本当に描きたい作品が明確になり、現在の作風に至ります。
現在は岩絵具を使用しながら絵具の滲みや筆のストロークを生かした抽象画を描いています。
作品を発表し始めたのはいつ頃ですか?発表するまでにどういった経緯がありましたか?
大学4年の頃、学内のコンテストで賞をいただいて、副賞が個展の開催でした。
在学中に個展を経験出来た事は幸運でした。卒業後はお金を貯めて貸し画廊にて個展を開催し、その後は同じ画廊で複数回グループ展や個展などを開催する機会をいただきました。
今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
素材は金箔・銀箔を使用してみたり、色々な筆を試し筆のストロークに焦点を当てて、
描いていきたいです。また自身でデザインした変形パネルを使用してみたり、挑戦したい事は沢山あります。
一つ一つの挑戦事項を丁寧に形にして柔らかい雰囲気を保ちながら強度のある作品を目指していきたいです。
林恭子 Kyoko Hayashi
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1983年 生まれ
2007年 多摩美術大学造形表現学部 日本画専攻卒業
個展
2013 「paradise」 … Gallery 空/ 東京
2012 「1/365」 … Gallery 空/ 東京
2011 「1/365」 … Gallery 空/ 東京
2007 「Kyoko Hayashi EXHIBITION」… ギャラリーいわさ堂/ 鎌倉
アートフェア.グループ展
2013 2014 2016 2017 Young Art Taipei/ 台湾
2015 池袋アートギャザリング
2014 リキテックスアートプライズ/ 東京
2014 TDWアートフェア/ 東京
2012 Emerging Director`s ART FAIR “ULTRA006” / 東京
2011 Emerging Director`s ART FAIR “ULTRA005” / 東京
2011 Contenporary Art「分岐点 2011」/ 埼玉
受賞歴
2006 「佐藤太清賞」特選受賞
「art44」多摩美術大学造形表現学部展示 グランプリ受賞
2007 国際瀧富士美術賞受賞
「FUKUI サムホール美術賞」奨励賞受賞