日本には様々な美術メディアがある。
雑誌、オンラインなど多岐にわたり、長年にわたって日本の美術界の中で活用されてきたメディアは多い。
しかしながら、これらのメディアが国内のアートマーケットの拡大に関わっていないのはなぜだろうか。
日本が先進国の中でアート市場が極端に小さい理由のひとつとして、メディアとマーケットとの関わり方に何かヒントがあるのかもしれない。
メディアとマーケットの関係
日本の美術メディアの特徴として、展示に関する論評が少ないというのがある。
広告出稿者のメインがギャラリーであるためにタイアップの記事広告が多く、展覧会の論評自体がギャラリー側で書かれているのだ。
そうなると辛口評価どころか、展示を礼賛する内容ばかりになってしまい、そこには評論的な切り口が存在しなくなる。
広告主の意向を忖度するような展示情報では雑誌としての権威を保つことは難しく、提灯記事ばかりが並ぶこととなってしまうのだ。
これではマーケットの実態に反映されたメディアとしての存在は薄いだろう。
もうひとつ考えられる理由として、国内の美術メディアの広告媒体としての効果があまり期待できないことがあるだろう。
今のようにネットが人々の生活に入り込む前の時代は、雑誌というメディアが美術業界ではメインであった。
もしかするといまだに雑誌がメインであったりするのだが、、その中で雑誌の内容がオンラインと一元化されていないのが日本の特徴である。
一般的に専門メディアというものは、その業界を活性化させるために魅力的なコンテンツを作るのが普通とされる。
業界のプレイヤーと外部とをつなぐのがメディアの役目であり、新規顧客の獲得と従来顧客の囲い込みに利用されているのだ。
ところが、日本の美術界はそのような顧客と業界との接点を増やす手段としてはうまく活用されていない。
特に、「展覧会情報」というコンテンツがインターネットの出現によって誰でも無料で手に入れることができるようになってから様相が変わってきている事実に向き合わなければならない。
ギャラリーは展覧会のDMハガキを顧客に送らなくても、顧客はいつでもSNSでそれを知ることができるし、ネット検索することで簡単に情報を得ることができるのが当たり前の時代だからだ。
雑誌を買うメインの年齢層はすでに70代を超えており、新しいアートファンの獲得にはオンライン化が必須であるにも関わらずコンテンツのオンライン化が進まないのは業界にとってなかなか難しいものがある。
そのような状況においては、雑誌を読む層が少なくなると同時にギャラリーの新規顧客の集客も見込めなくなるのは当然だ。
SNS広告のほうが圧倒的に集客効果が高いことは明らかであり、美術専門メディアを活用することで売上が増えることは期待ができない。
スマホを駆使してアート情報を探しているコレクターにとって常に新しい情報を手に入れることが重要であれば、雑誌を買うために本屋に行く時間は惜しいだろう。
海外の実態
海外のアートメディアは、ファッションやラグジュアリーブランドとの広告と、ギャラリーの展覧会情報とそのレビュー(論評)をメインとする場合が多く、辛口な評論家による展示レビューが掲載される。
期待外れの展覧会は厳しく論評されるため、ギャラリー側も評論家が集まるような重要な展示には真剣勝負となるのは当然だ。
さらにはそのような雑誌のコンテンツがオンライン化されているのが日本との大きな違いだ。
雑誌の内容とネットの内容が一元化され、より詳しい情報をネットで得たければ年間購入というサブスクサービスにつながる仕組みだ。
一方、日本のネットメディアは時事ニュースがメインであって、雑誌のコンテンツと一元化されていないのが特徴だ。
このように欧米では、美術メディアのオンライン化が進む一方で、巨大ギャラリーの持つ威力との対決姿勢も増してきている。
海外のトップギャラリーは自社のウェブサイトやSNSをオウンドメディア(自社メディア)とすることでその発信力を強めているのだ。
彼らの持つオウンドメディアはますます巨大化しており、Instagramでは1社で100万人を超えるフォロワー数を誇るようになってきている。
美術メディアもコンテンツを充実させなければ、大手ギャラリーからの広告出稿を受け入れるのが難しくなるため、熾烈な戦いとなるだろう。
このように、美術メディアはマーケット拡大の原動力であるために、実態に即した論評のコンテンツとオンライン化がマストとなってくるだろう。
重要な役割を担っているメディアにはこれからの一層の努力を期待をしたいと思う。