PROFILE
2015年 武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻 卒業
2017年 武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース 修了
現在、武蔵野美術大学大学院博士後期課程在学中
今、期待のコンセプチュアル・アートの旗手。
シェイプド・キャンバスなども用いながら、主にパネルに、アクリル絵具や油絵具などで絵画を中心に制作している。
渡辺佑基 Yuuki Watanabe
作品ページはこちら |
誰もが目にしたことのあるものをモチーフに描く渡辺佑基。親しみやすいモチーフを作品として切り出す視点は隙をつくような鋭さがあります。余計なものを省いた精緻で写実的なモチーフ表現に対し、そのシンプルな輪郭線で切り取られた空間には無機質さが漂います。自ら作るというシェイプド・キャンバスは、平面上に創造された世界から視点を引き離し、二次元と三次元を行き来することで観る者の現実空間の認知を揺るがします。
渡辺さんに作品や制作の秘密について伺いました。
離れ業の描写力
こちらの作品をご覧ください。表面に凹凸があるように見える絵ですが、どうやって描いているのでしょうか。
「凸凹」27.3 x 27.3 cm,パネルにアクリル
実は、こちらは面相筆によって極微細な点描で数カ月かけて描かれています。モチーフはスポンジ。
柔らかくでこぼこした物体を思わせますが、平面な絵画です。その精細さは作品を間近で見ても信じられないほどです。
「untitled」 18 x 18 cm, パネルに油・アクリル
思わず触れたくなるような肌と、滑らかな曲線。
こちらは人の肩を描いていますが、キャンバスの右上角と左下角を「く」の字のアウトラインで結ぶ、という絵画にモチーフを落とし込む時ならではの構図の切り取り方も魅力です。
よく制作に用いるというマスキングテープを、マスキングテープを使ってアクリル絵の具で描いた作品。
極限まで要素をそぎ落とした構成が、本物のように見える緻密な描写を引き立てる、シンプルながらも渡辺のセンスが凝縮された作品です。
妥協を許さない姿勢が生み出す筆致は、実際に作品を見ると驚きの繊細さで描かれているのです。
シンプルだけど奥深いコンセプト
作品に登場するゲームは、渡辺本人が実際に嗜んでおり、その腕前はかなりのもの。根っからの頭脳派です。
シンプルで奥深いゲームが好きだといい、自身の作品でも重要な要素のひとつとなっています。
「棋聖決定七番勝負 第40局第2局」42.5 x 45.5 cm, パネルに油・アクリル
こちらの作品は囲碁がモチーフとなっていますが、囲碁のゲームとしての魅力である「間」のせめぎ合いと、絵画の古典的なテーマである「間」、両者の攻防を作品の中でオーバーラップさせています。
誰でも一度は遊んだことのある迷路。パネルに絵画として落とし込まれると、シンプルな美しさを感じさせます。
「35段目」 パネルにアクリル 52.5×7.5cm 2021年
あの有名なゲームをモチーフにしたこちらの作品。複数の面に絵が描かれた多面的な絵画作品です。
実際にゲームで遊んでみて、崩れた時の形を記録して描いています。
それぞれの面を正面から見ると整合性がとれていますが、立体として斜めから複数の面を一度に見ると、違和感を覚えます。
一面一面が写真のようにリアルに描かれているからこそ、実際に立体として捉えた時との差を感じさせるのです。
強固なコンセプトと、それに拮抗するように視覚に鮮明に訴えかけてくる描写の両立が、渡辺作品が誰にも到達できない領域にまで高められている理由と言えます。
ありふれたモチーフの中にある意外性
渡辺がモチーフに選ぶのは、誰もが知っているもの。
サンドウィッチ、かまぼこ、テープ、迷路、ゲーム…
コンセプトは作品ごとに異なりますが、並べてみてみると不思議と共通した世界観を感じさせます。
自身で作るオリジナルのシェイプド・キャンバスは、実際のモチーフの形を真似て作られていますが、極端に単純化されています。またある時は、現実ではありえない配置や角度で設置されています。
慣れ親しんだ色と形が特定のモチーフを連想させますが、空間の中で作品によってすっぱりと切り取られる輪郭が、頭の中のイメージと目の前にある現実のズレを生み出します。
普段は板の上に鎮座しているかまぼこですが、壁から生えています。
いろんな角度から見てみると、どのように感じるでしょうか。
「しょくぱん一斤」パネルに油・アクリル 21.6×12.5cm (5点組) 2021年
ドナルド・ジャッドのスペシフィック・オブジェクトを参照しているという作品「しょくぱん一斤」。
アプロプリエーションを意識しつつも、ごく身近なモチーフに置き換えるのが渡辺流です。
こちらは食パン1枚。パネルに描かれているとは思えない「ふわっ」と触りたくなるような作品を、壁に掛けてお楽しみいただけます。
渡辺佑基の時代に捉われない発想と、圧倒的描写力とコンセプトを兼ね備えた稀有な才能を、是非間近で目撃してください。
渡辺佑基 Yuuki Watanabe 作品ページはこちら |