作家情報の公開
前回のコラムでも書いたのだが、アート市場の拡大に必要なのは情報の公開である。
具体的にどのような情報かというと、作家プロフィール、制作方法、作品コンセプト、作品価格などである。
一般的なギャラリーのウェブサイトに掲載されている作家情報は、略歴(学歴、賞歴、展示歴)くらいで、あと作品画像が数枚というところで、これだけでは十分とは言えないだろう。
たとえ作品コンセプトがウェブに掲載されてあっても、説明が難解であり一度読んだだけでは頭に残らないことが多い。もちろん作品の価格も明記されていないため、顧客が実際に買える作品であるかどうかさえ分からない。
つまり、一般のギャラリーにある作家情報だけではどの作品を買えばよいのか見当もつかないので、今のところは不便ではあるが気に入ったアーティストの展覧会に自ら訪問するしか方法はないのだ。
事前に様々な情報を仕入れておけば、どのアーティストを買うべきかのあたりを付けることはできるのだが、現在のギャラリーのサイトでは情報が少なすぎて、真っ暗な中を手探り状態でさまよっているような状況だろう。
まずはアーティストを知ること
さて、アートを買うためには作品そのものの情報も必要だが、それと同じくらい重要なのが作家自身の情報だ。
特に、学歴、賞歴、展示歴といったもの以外の、より詳細な作家の横顔を知っておいたほうがよい。
作家が現在の作品を作るに至った理由、どのように作品を作っているかの手法や技術、これまでどのような人生を生きてきたか、伝えたい世界観、共感できる考え方は何かなど、作品を買ううえで知っておくべき情報は多い。
実際にタグボートがアーティストを自社の取り扱いにするかどうかを決めるときは、作品の良し悪しだけではなく、個々のキャラクターをかなり重要視している。
本人と面談して、その人となりの考え方、長く付き合っていけるかの相性、理解しやすい世界観とそれを世の中に伝えられるか等、様々な視点で作家を見ていく。
ほかにも、社会に対して柔軟で敏感なアンテナを持っているか、コミュニケーション能力があるか、決して最後まであきらめない忍耐力と向上心を持っているかといった3つの要件も重視する。
そのような内容は作家と向き合ってじっくり話をすることで得られる情報であり、それなしに作品を買うのは情報不足と言ってもよいだろう。
もちろん、アーティストの個展初日に行って、作家から個別にじっくりと話を聞ければよいのだろうが、オープニングは多くの人でにぎわい、作家も様々な人と応対するのでなかなか時間がとれないのが普通である。
だからこそ、ウェブで作家のインタビューや動画、SNSなどでその作家の持つキャラクターを知ることのメリットは大きい。
さて、タグボートでは、各作家のインタビュー記事、動画、どのように作品を作っているかのコンテンツを作っている。
成長する作家は常に自分自身をアップデートさせていくので、視点の変化、新しいコンセプトなど、それを知ることで作家の将来に期待することができるのだ。
誰でも入手可能な一次情報だけでは十分ではなく、より詳細な二次情報を知ることで我々はよりアートのもつ面白さと魅力にはまっていくことになるだろう。
例えば、タグボートでは100名以上のアーティストのインタビューのコンテンツがあり、ここまでやっているギャラリーは他にはないだろう。
これを読むだけでアーティストの持つキャラクターを知ることができるのだ。
また、具体的にどのように作品を作っているかを説明する「How to make」のコーナーでは、制作ノウハウや技術についてが詳細に書かれてある。
さらには、実際に購入者が作家や作品のどの部分を気に入って購入に至ったかを知るためのヒントとして「購入エピソード」のコンテンツもある。
このようにアーティストに関する情報を読みこむことで、購入者が自分の嗜好を明確にすることができる。
アーティストの持つ思考方法を理解することで共感できるアーティストの作品の購入を考えたり、自分にはない部分を持つ作家のファンにもなりえるのだ。
さて、タグボートではなるべく「アーティストの顔」が分かるようにして匿名性を消すようにしている。
Banksyのような覆面アーティストでない限り、自分自身を知ってもらうことのほうがメリットは多いからだ。
作品購入を決定づけるのには、好みの作品であることや価格も重要であるが、長期にわたりアーティストを支援していくのであれば、作家のことを深く知っておくべきだ。
作品は作家からしか生まれてこないのだから、購入を考えるのであれば、まずは作家と自分自身との相性から始めてみるのも賢いやり方だと言えるだろう。