一般的に我々がアートを購入する目的というのは三つに集約される。
それは、インテリア、投資、社会貢献であり、あまり意識はしてなくてもほぼこの三つのいずれか、または組み合わせで作品を買っていると思ってよいだろう。
【インテリア】
主に部屋を飾ることを目的としたアート作品の購入であり、移転、新築など引っ越しの際に購入したり、部屋の雰囲気を意識した購入となることが多い。
ここでは好きな絵柄やデザイン性といったことが重要であり、自分の周りの環境を充実させるためにアートを購入することとなる。
【投資】
せっかく作品を買うのであれば、将来的に価値が上がる作品を選ぶということも含めて「投資」としての意味合いでアートを買うことは普通にあるだろう。
購入後に作品の価値が上がることを喜ばない人はいないし、部屋に飾ることを目的とした場合にでも作品の価値を意識した買い方をする人は少なくない。
株などの金融商品や不動産といったポートフォリオの中で長期的な資産運用の一部をアート購入に割くというのは賢い投資手法となりえるだろう。
特に投資を意識している方は、オークションのようなセカンダリー市場から作品を購入したりすることが多い傾向にある。
【社会貢献】
若手アーティストを応援したいというパトロン的な意味合いで購入するコレクターが最近増えている。
また、コレクションするということは「後世に残すべき作品を一時的に保管する」という意味に置き換えられるため、その行為は文化貢献につながることから社会的な意義があるのだ。
美術館やギャラリーで作品を鑑賞したり、画集やポストカードを買うだけでは、文化的に価値があるものを一時的に保管したり作家を支援することにはならないが、購入することは積極的に社会貢献に参加していることになる。
購入するという経済活動がマーケットを作り、そのマーケットがあるからこそアーティストが育つということを理解している人がこの買い方をする場合が多く、セカンダリー市場にはさほど興味がないことが特徴的だ。
将来有望な若いアーティストの作品を応援し続けて、購入した作品にいつの日か高い価値が付けられれば、投資と社会貢献の一挙両得ということになる。
ある意味でもっとも気品が高く財政にも優しい買い方となるのだ。
上記の3つとは別に、アートを買うことは「感性を磨く」という理由も聞くが、これはアートを買わなくても鑑賞するだけで成り立つので必ずしもアート購入の直接的な目的とはなりにくい。
また、アートには通常の社会生活とは隔たった「非日常性」や「非合理性」に魅力を感じるからアートを買っているということもたまに聞くが、これも感性を磨くといったことと同様に、鑑賞するだけでも成り立つので買わずしてアートに非日常性や非合理性を感じることは可能だ。
つまり、アートを買うということは、鑑賞するだけでは得ることができない何かを手にしていることになる。
だからこそアートが「最後の買い物」と言われる所以であるし、買った人でないと分からないことがあるのだ。
アートの教養は何のためにあるのか
アートの教養というものは、ビジネスには直接的にあまり役に立たないが、アートの購入には役に立つという面があることをここでは知っていただきたい。
一般的には美術史を学ぶことで文化的教養を積むことが欧米でのビジネスシーンにて役に立つと言われることがあるが、実際には欧米人が日本人との会食でその部分に期待していることはほとんどない。
アートに関する教養をパーティーの場でひけらかしたところで、感心されたりはあるかもしれないが、ビジネス自体はそんな薄っぺらいことで判断されるものではないことは明白だ。
また、アートの鑑賞によって右脳が刺激されビジネスの役に立つといった何のエビデンスもない「伝説」を信じている人もいるが、もしそれが正しいなら毎日大量のアートを見ている画廊オーナーのビジネスは成功しているはずであるが、実際には厳しいことのほうが多い。
さらに右脳はアートを鑑賞するために使うのではなく、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚とった五感に関する感情をコントロールするためにあるのであり、アート鑑賞なんて右脳全体の0.1%未満でしかないのだ。
それよりも、アートの教養はアートの購入にこそ活用するべきであり、その方が効果は何十倍も大きい。
どんな作品を持っているかということは、その人のもつ財力と教養の一部を示すことにもなる。
しかしながら、それをひけらかすのは逆効果となることもあるので気を付けた方がよいだろう。
結論として、アートを買う時には、何とはなしに買うのではなく、目的をはっきりと意識しながら買う方が絶対によい。
そうしないと、人に自慢することだけを目的としてアートを買って大怪我をすることになる。
美術史などの基礎的な教養を身に付けることは大怪我をするリスクを避け、投資と社会貢献の一石二鳥を実現させるのだ。
そのような賢いコレクターが日本でも増えいくことを我々は望んでいる。