本気で街づくりをするためには
タグボートは3月19日からの53名のアーティストによる「アート解放区 EATS 日本橋」を皮切りとして、5月9日までのゴールデンを挟んだ52日間の長期にわたって参加アーティストを80名まで増やしていきながらアートによる街づくりを始めることとなった。
これまでも解体前の建物を利用したイベント展示などをやってきたが、それだけでは街づくりとして広げていくのは難しい。
アートを点と点で繋ぎながら、カフェや飲食、ファッションまでを含めた面展開が本当は必要だ。
それを構想するにあたり、場所としてはやはり日本橋であり、特に人形町、馬喰町といった東京駅の東側エリアが最適である。
このエリアだからこそアートによる街づくりが可能だと考えるのだ。
ニューヨークのSOHOを目指す
アートによる街づくりで成功しているのはニューヨークであり、我々の手本になる。
ニューヨークの中で最初にアートによる街づくりで成功したのは、かつて倉庫街だったソーホー(SOHO)である。
SOHOは1970年代からアーティストたちが集まる街として栄え、現在は個性派のハイショップやグルメが数多く並ぶ街となっている。
SOHOの特徴はニューヨークに約250あるキャスト・アイアン建築といわれる19世紀半ばに建てられた歴史的建造物がこの地区に集中していることだ。
外観の特徴は、窓が大きく柱が美しく装飾されて外側に非常階段が取り付けられているところだ。
1970年代にはキャスト・アイアン建築が多く空いており、賃料が非常に安かったとのことだ。
上層階にあるロフトは天井も高く大きな作品の制作ができるため、芸術家やデザイナーたちのアトリエとして利用されていった。こうして多くの芸術家がこの地区に流入してくることとなったようだ。
SOHOが最初にアーティストによる街づくりとして発展し、その後に地価の上がったSOHOからチェルシーへと移ったのだが、それは中心地からのアクセスがよい場所から少しずつ離れざるを得なかったからだ。
足周りの悪い場所はアーティストが敬遠するため、街づくりとしては都心に近くて家賃が比較的安いこと、天井の高い倉庫のような物件があることが必須条件となる。
またそれだけではなく、伝統的な老舗があったりと日本ならではの文化が混在した猥雑さも重要である。
日本の場合、飲食店などである程度賑わっていることも必要であり、現時点で飲食店が少ない場所は魅力的ではない。
さて、銀座がかつて画廊の街であったのにはきちんとした理由がある。
それは圧倒的な地の利である。
小さなスペースでも上顧客が買い物途中でふらっと来やすい場所に画廊が集まったのだ。
今では地価が上がりすぎて、老舗の画廊や小さな貸し画廊くらいしか残っていないが、それでも銀座と言えば画廊の街というイメージがまだある。
一方、六本木は地価が高くて若いアーティストやギャラリーがなかなか集まらない。
ある程度の大きなギャラリーでないと六本木で広いスペースを持つことは難しいだろう。
一方、人形町から馬喰町近辺にはすでに多くの若いギャラリーが集まってきている。
馬喰町が繊維の倉庫街であるところは以前のSOHOと同じであり、古い建物が残っていて都心からすぐの距離であるところもどんぴしゃりだ。
昨年も若手ギャラリーが集まって「EAST EAST」という小さなイベントを開いたりと、少しずつであるがこの一帯もくすぶり始めた。
このようにくすぶり始めた場所に着火剤を仕込んで大きな焚火をつくらなければならないのだ。
EATSという場所
雑誌 Hanakoは、2019年に「東京の未来が見える街」として、八重洲・京橋・日本橋から人形町・馬喰町・清澄白河までの広域圏を「EATS ( East Area of Tokyo Station(東京駅イーストエリア)」と名付け、世界に通用するエリアに成長していくとしている。
このようなポテンシャルが最高であるEATSという場所をアートで活かしていく方法としては、以下の3点が重要となるだろう。
1) アートの密集率が高いこと
2) イベントが定期的に開催されていること
3) 若者が興味を持つ場所になりえること
メイン拠点となる建物が必ずしも必要でないことは、ニューヨークを見ても明らかだ。
日本はどうしても街づくりをハコものから始めようとする嫌いがあるが、実は重要なのはハコよりも中に入るソフトのほうだ。
このエリアでアートを点と点で繋げ、定期的にイベントを開催して若者に来てもらうことが最優先される。
まずは長期的なあるべきイメージを作り上げ、それと現実とのギャップをどう埋めていくかを考えなければならない。
将来の姿としては
・ギャラリーが数多く集中している
・アーティストがスタジオとして使っている
という二つが実現することがベストであるが、今からこの地に一軒ずつギャラリーを説得して誘致していくのは正直言って時間がかかる。
しかしながら、我々が今出来ることとしては、コロナ禍で残念ながら店を閉めざるをえなかった場所を一時的にアートを展示販売する簡易ギャラリーとして利用するという手法を一般化すればよいのだ。
空きスペースはそのまま居抜きで何かに使われるとすれば壁に穴を空けるわけにはいかないので、我々の手でホワイトキューブを仕立て上げる必要がある。
それには可動型の木工リースパネルを安く活用すればよい。
このように様々な知恵を使うことで潜在的な可能性の高いこの地をアートの街として作っていくことに本気で取り組んで行きたいと我々は考えている。
アート解放区 EATS 日本橋の公式サイトはこちら
http://www.tagboat.com/artevent/kaiho-ku-eats-nihonbashi/index.php