アートを買ったり売ったりするときに税金のことを気にされる方は少なくない。
アートの税金について具体的なことを書いている書籍は少ないので、特に個人事業主や会社経営者はどのように対処したらよいか分からないだろう。
今回タグボートは、アートコレクターでもある船山公認会計士事務所の船山雅史氏の監修を受けて、アート購入の実際について基本的な税金の知識を2回に分けてお話したいと思う。
第1回目は税制を利用したアートの「賢い買い方」として購入時の税金と経費処理について説明し、来週の2回目は買った作品を売却したときの税金について説明する。
アート購入時の税金
経費処理できるアートとは、作品の価格だけはなく、購入時にかかる諸経費も含めた価格にすることが可能である。ここでいう諸経費とは、配送運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(輸入時)など、作品の購入のために要した費用であり、これを作品価格にプラスしてアートの取得価額とすることができる。
また、作品の取得額を「税込」あるいは「税抜」にするかについては、事業主が採用している消費税の経理処理方法によるのだが、ほとんどは税込みだ。税込経理を採用している事業主は通常通り「税込額」で判定すればよい。
アートは資産として減価償却できる
アートはそれまで30万円が減価償却の上限だったのだが、2015年以降は諸経費を含めた取得価額が100万円未満であれば減価償却によって費用化することが可能となった。
つまり、一点が100万円未満であれば数年に分けて資産を費用として損金処理できるようになったということだ。
減価償却の資産にすれば作品取得にかかった額をその年の費用とするのではなく通常は8年で配分してそれぞれの期に償却費として計上することができる。
また、20万円未満の作品であれば、8年も待つことなく一括償却資産として3年に分けて費用として落とすことができる。
少額減価償却資産の特例
さらには、中小企業(資本金の額が1億円以下などの法人)の場合に認められる少額減価償却資産の特例というものがある。
作品の取得価額が10万円以上30万円未満であれば、少額減価償却資産となり、その全額を損金(1事業年度あたり300万円が限度)とすることができる。
たとえば、「29万円の作品、計10点を期末の最終月」に購入して、少額減価償却資産として処理すると、290万円全額をその年の償却費として一括損金処理することができるのだ。
中小企業に限らず、青色申告をする個人事業主でも、このような減価償却資産のうち1点当たり30万円未満の作品を少額減価償却資産として、購入した年度に一括して費用計上することができるのだ。
もちろん、30万円未満の作品を費用計上するか固定資産として計上するかは事業主の自由であり、必ずしも一括で経費計上しなければならないというわけではない。
30万円未満の作品を合計300万円まで購入して一括で費用計上するのか、あるいは通常の固定資産として計上し8年で減価償却していくかは、自分の判断で決めることができる。
しかしながら、少額減価償却資産の特例を適用できるの取得価額の合計300万円までなので、それを超える分については一括での費用計上はできない。
たとえば、取得価額29万円の作品を1年で12点個購入した場合、そのうち、10点分は少額減価償却資産の特例を適用してその年分の経費として計上できるが、11点目以降(この場合は、残りの2点)については、合計金額で300万円を超えてしまうため、少額減価償却資産の特例を適用することができなくなってしまうのだ。
このように、アート作品は取得価額によって、一括減価償却できたり、8年かけて減価償却だったりと違うので、価格に応じた資産計上をすることで、上手に節税をすることが可能だ。
アートは作品そのものが将来的に資産価値を生むだけでなく、購入時にも節税ができるなど多くの購入メリットがあることをまずは知っておこう。
そのメリットを十分生かしながら、今度はアートを売却するときのルールを知ることで、上手な運用方法を学ぶのがよいだろう。
こちらの売却については来週あらためてお話をする。
【法人と青色申告事業主が利用可能な償却資産のまとめ】
法人:資本金金額1億円以下の中小法人の場合
個人:青色申告事業主。一方、白色申告事業主は「少額減価償却資産の特例」は適用できない
注)固定資産の税率は、東京都の場合1.4%