先日、タグボートの取り扱いアーティストでYouTuberでもある山口真人との対談がYouTubeにアップされた。
今週発売の「東洋経済」の特集「アートとお金」では、世界の緩和マネーがアート市場に流れ込んでおり、現代アートが驚異的な値上がり率であることが書かれてある。
それが行き過ぎたアートバブルなのかどうかについて、YouTubeでお話したことを以下の通り要約してみた。
アート市場の好調はセカンダリーに集中
1月末に開催されたSBIアートオークションでは、8億8千万円の落札額となり過去最高の盛り上がりとなった。
このニュースだけを聞くとコロナ禍の不況の中でなぜアート市場が過熱しているのかを不思議と思う人もいるだろう。
昨年の欧米のアート市場は36%も縮小し、実は日本もトータルでは20-30%程度はアート市場が縮小したと予想される。
しかしながら、その一方で現代アートのセカンダリー市場だけは特定銘柄が高騰しており、バブルのような盛り上がりとなっている。
この理由として、世の中の景気と投資マネーは連動しなくなっており、ジャブジャブに余った投機マネーは行き場を失ってその一部がアートの購入へと行っているということだ。
そういう状況の中で、アートを買えるお金に余裕がある30代の若者層が現在の日本のセカンダリー市場の一部を動かしているのだと言えよう。
特にどんなアートを買えば分からない初心者にとって、オークションハウスで最近上がっている作家を買えばとにかく当たり外れが少ない、ということで一気に盛り上がりを見せているようだ。
だからこそ、イラスト的な分かりやすい作品で、且つオークションで人気がある作品に集中して売れているのだ。
日本のアート市場はまだ始まったばかり
国内の一部のセカンダリー作品の人気が高騰したとはいうものの、実際にはまだ日本のアート市場は着火剤に火が灯った程度で、まだまだ成長余地があると考えている。
つまりこの程度ではバブルとは呼べないということだ。
オークションで一部の作家の作品が上がり過ぎているだけで、その部分だけを見て過熱というのは世界のアート市場を知らないのだ。
日本のアート市場は4~500億円に対し、世界は7兆円。
世界の0.6%しかない日本はアート市場がそもそも小さすぎるからこそ、成長余地があるともいえる。
作家や作品の情報が少ない日本
作家や市場のことについて知れば知るほど、オークションよりもプライマリーのほうが実は安く買えるということが分かるようになるまで時間はかからないだろう。
ただし、先日のSBIアートオークションでは、草間彌生、具体、もの派や海外の著名作家といった世界のマーケットに通じる作家は鳴りをひそめ、その代わりに情報が少なくても分かりやすく買える日本独自のイラストアートが勃興しているのが現在の状況だ。
まだサザビーズやクリスティーズのような巨大オークションハウスではイラスト系は評価されないが、これが海外で評価されるのかはこれからのやり方で変わってくるだろう。
さて、今回のSBIアートオークションでもとてつもない上がり方をしたのは20名くらいの作家であり、それはまだ情報量が十分でないからだ。
今後は情報の質と量が上がれば、もっと多くの作家が評価の対象になるし、まだ小さな日本のアート市場はもっと拡大する可能性があるだろう。
これからの作家の評価
さて、アートの価格は基本的には需要と供給で決定されるのであり、そういう意味で言えば、ギャラリーで最初に販売される作品の価格はお試し価格のようなものだ。
つまり作家の略歴、素材、かかった時間を加味してギャラリーは最初に販売価格を付けるのであり、作家の価格はそこから時間をかけて付加価値をつけていくものなのだ。
現在の市場が以前との評価方法で違うのは、これまでは国内唯一の美術評論誌であった「美術手帖」の情報や評価がそのまま、オークションハウスの価格に対応していたのが、今では直接結びつかなくなったことだ。
今回高騰したイラスト系の作品もこれまで美術手帖ではまったく俎上にも上がっていなかったが、一部のコレクター仲間のSNSや口コミで噂が拡散されたのは確かだ。
そのような投機マネーではあるものの、それは日本のアート市場が小さすぎるから価格が上がりやすくなっているのだ。
これから先はアート市場が拡大する黎明期にしっかりと情報を開示して、現在のような一部のセカンダリー作品の口コミだけでなく、もっと選択肢が広がり、その中からシビアに作品を選ぶコレクターが増えるだろう。
そうすると、業者もネットを通じて情報を公開するようになり、日本のアート市場もアジアの他国の背中を見ていたがもしかしたら射程圏に入るのかもしれない。