人間がアートを買いたいと思うのはなぜだろうか?
そして、なぜそのアートに価値があると判断するのだろうか?
個々の人間のアートに対する捉え方や考え方の集合によってアート市場が形成されていくのだが、まず今回はそのミクロにあたる個人がどのような人であるかということを理解した上で、さらに次回はその人が購入時にどのように考えるのかという科学的な視点でアプローチをしたいと思う。
ここにおいては、「作品のコンセプトがしっかりしているから売れる」とか、「表現力の強さがあるから売れる」といったような抽象的な議論ではなく、データや心理分析、さらにはそこから来る行動科学から、なぜ人がアートを買うのかについて考えてみたい。
どのような人がアートを買うか
過去のタグボートの購入者のデータとして20,000件ほどあるが、まずはそこからどのような人が買っているのかを分析してみよう。
あくまで大半はオンラインで購入した顧客のデータであり、一般のリアルスペースで販売しているギャラリーとは購入層が若干違うということは理解して頂きたい。
購入者の8割は男性である
美術館で並んでいる人を見ると50代以上の女性が多く、男性は少ないことが分かるだろう。さらに財布のひもを握っているのは主婦なので、女性の購入者が全体の2割とは意外と少ないと感じるかもしれない。
購入者の数の比率が男80:女20ということで、さらに購入額合計になると、男85:女15の割合になり、購入者は圧倒的に男性なのだ。
これは男性の持つ「収集癖」という部分が大いに影響している。
男性の購入のリピート率は女性の約2倍である。
女性は自分の部屋の壁が好きなアートで埋まってしまうと購入がストップするが、男性はそこから購入した作品データをエクセルに入力したりして収集そのものを楽しむようになるという違いがある。
また、資産形成に積極的なのは男性であり、価格の高いアートを買う層はほぼ男性で占められると考えてよい。
アートは見る人と買う人はでは全く違うのだ。
購入者の年齢層
年齢では30代、40代、50代が30%前後のほぼ同じくらいの割合で全体の87%を占め、購入者の平均は44歳だ。
全体のシェアでは30代は増加、40代は微増、50代は減少という傾向で購入者の若年化は進んでいる。
20代ではまだアートを買うほどの余裕はなく、60代では現代アートをネットでは買わないことを示している。
おそらくリアル店舗のギャラリーでは、購入者の年齢層はオンライン販売よりもグッと上がることだろう。
オンラインでの購入経験が多い人はアートでも躊躇なくネットで買うのだが、それはネットでしか買えないからではなく、情報がそろっているからネットで買うのである。
それは以下のことで証明される。
アートの情報が多いエリア
購入者の住んでいる地域別でみると、首都圏が64%と全体の3分の2近くを占める。
首都圏(東京経済圏)の人口は国内の33%なので、他のエリアと比べると約2倍のアート購買力があるということだ。
逆に関西圏は10%程度しかなく、人口比率15%からしても多くはない。
首都圏のうち東京都だけで購入者の40%と圧倒的であり、その中でも港区が人口比でダントツだ。
港区に次いで渋谷区、千代田区、世田谷区、中央区、目黒区、文京区なっており、これは東京都の区別の年間所得ランキング上位とほぼ一致している。
もちろん金銭的に余裕のある人がアートを買っているのだが、それだけではなく首都圏に集中しているのは常日頃、ギャラリーなどで現代アートに接している頻度が多いことを示している。
ギャラリー数は東京都が全国の半数を占め、オークション開催は都内のみということから分かるように、環境的には東京に住んでいるとアートと触れ合うことが圧倒的に多く、情報量も格段に違うということなのだ。
地方に行くと百貨店ぐらいでしかアートを売っておらず、好みの現代アートの作品が買えないからネットで買っているのではなく、そもそもアートに関する情報が少ないから買っているないと推察される。
アートを買う人の職業
職業で見ると、総務省統計データと比較して会社役員、自営業の2つが最も多く、それに次ぐのが医師などの医療関係者だ。
さらには弁護士/ 公認会計士、デザイナー、メディア/出版関連となっており、士業や自由裁量で仕事ができる人が多い。
製造/流通、政府/自治体等の公務員、銀行/金融関連、不動産といった職業は、その人口比でみてアートはあまり買っていない。
やはり、サラリーマンが自分の小遣いをやり繰りするだけではアート購入にまでたどり着かないということだろう。
ただし、デザイナー、メディア関連などクリエイティブな職業の方は仕事や趣味の一環としてアートの購入予算を捻出しているのかと思われる。
これはタグボートでアートを購入される方の時間帯が、通常のネット販売で最も売上が上がる午後10時~11時という夜間ではなく、平日の昼間によく売れるということで証明される。
経営者や自営の人が昼間に仕事をしながら自分の裁量でアートを買っているということだ。
このようにデータを分析することで、購入者像が少しずつ見えてくる。
次週はその購入者の心理がどのようなことに影響されてアート購入に結び付くかを科学していきたいと思う。