この週末の4連休では、ようやくアートフェアなどのイベントが開催され、当たり前の生活に戻りつつあることを感じた。
天王洲にある寺田倉庫のテラダアートコンプレックスⅡという新しい倉庫ビルで開催された今回の「Art TNZ」は、今春や夏に開催できなかったアートフェア東京とアート大阪の二つの主催者が協力して行ったものだ。
ギャラリー計42軒が倉庫ビルの2フロアでアートフェアを開催し、同じビルで新設されたギャラリーのお披露目もされていた。
こちらはギャラリーを出展単位としたアートフェアであるが、同時期にワコールアートセンターが毎年開催しているSICFというアーティスト単位のアートフェアが表参道のスパイラルで開催され、85名ほどのアーティストが出展していた。
ギャラリーや美術館はすでに6月から展示をスタートしているものの、アートフェア形式は今回ではコロナ騒動が起きてから初めてで、国内では久々の開催であった。
art TNZでは入場人数を制限するために完全予約としていたため、全体的として人は少なかったが、閑散というほどではなく、逆に購入意識の高い若い層が増えていることを感じた。
一方、年配層はまだ来場が少なく、アートの購買層の若年化が期せずして起こることとなった。
若年化の顕著な例として、80年代の漫画を模したイラストなどに人気が高く、江口寿史などの存在を知らない世代がこぞって買っているような感じだ。
そればかりではなく、どちらかというとグラフィティやストリート系のアートに人気が偏っており、ストリートアートがひとつのカテゴリーとしてマーケットができている米国を日本風にアレンジしたものと理解できる。
ただし、作風は日本特有のガラパゴス化された雰囲気があり、これを海外にて展開するとすれば、村上隆のスーパーフラットのように、美術史における文脈をきちんと説明する必要が出てくるだろう。
いずれにしても、若年層の勃興が見受けられる中、アートフェアがこれまで通り開催された、ということの意義は大きい。
来年3月のアートフェア東京では、これまでと変わらない形で開催されることを望むばかりだ。
一方、アーティストを中心としたSICFの展示はこれまでのロビーであった場所を展示スペースにすることで、これまでの窮屈なブース空間が若干薄まった感じがした。
参加アーティスト数を減らしたこともあって顔ぶれの多彩さは薄れたものの、全体としての出展作家のクオリティは保たれていたように思われた。
おそらく来年はいつものゴールデンウイーク期間に開催されることで、以前の盛り上がりが復活するに違いない。
さて9月も中旬となると、それまで得体が知れなかったウィルスに対してただ怖がるしかなかった人も、様々な情報やデータを得ることで新型コロナウィルスが日本ではさして怖がるものではないという認識に変わってきているということが今回のアートフェアで明らかになった。
アートの購入層は柔軟に世の中の流れを見極められる人が多く、かつ知的にゲームを楽しめる層であるがゆえに、ワイドショーの内容をそのまま受けているようなタイプは少ないことを感じた。
そういう意味では、今年の冬から来年の春において、イベントを普通に楽しめるように世の中を変えていくのはアート業界が主導することになるのかもしれない。
自粛期間には不要不急とまで言われたアートではあったが、そのような世論をいち早く打ち破り、生きていく上でアートが必要なものであるという認識に変わってきたのだと言えよう。
art TNZ、SICFのいずれのアートフェアも、オンラインでの作品販売、会場を360 度見渡すことのできるオンラインビューイングを公開するなど、オンラインでも愉しめるコンテンツを同時開催していた。
このようにリアルとバーチャルを組み合わせた形のアートフェアがこれからは当たり前となっていくだろう。
今回2つのアートフェアを見た感想としては、アートを普通に楽しむことができる下地はすでにできつつあるということだ。
タグボートは今年12月19、20日の両日にIndependentの開催を予定しており、できればこれまでと変わらない盛り上がりを作っていきたいと思っている。
また、年明けの3月6日、7日にはTAGBOAT が単独で開催する「TAGBOAT ART FAIR」も予定しており、タグボートの取り扱い作家が広大なスペースで作品を展示・販売することとなる。
その時にはアートを気軽に楽しめるように世の中の意識が変わっているだろうと確信している。
タグボート代表の徳光健治による著書「教養としてのアート、投資としてのアート」はこちら