現在、国内外のアートフェアが中止または延期となっており、今後は海外なでど開催されても観光ビザでの現地訪問が難しく、入国解禁となっても一時的に隔離されることがあり実質的に参加できない状況である。
そのため、かなりのギャラリーがアートフェアに出展できないことが原因で海外の売上が吹っ飛ぶことになった。
海外売上が全体の50%を超えるというところもあり、そうなると減少した分を補うために国内市場の開拓が必要となっている。
これまで海外での売上に頼っていたギャラリーは国内の顧客獲得合戦へとシフトしていくことになる。
しかしながら、そもそも日本国内には現代アートの購入者は多くなかったため、数少ない顧客の奪い合いはすぐに限界が見えてくるだろう。
そうなると、これからは新しい顧客層の開拓が急務となることは必至だ。
もちろんそこでは、ネットを中心とした市場から動きが始まるのは言うまでもないだろう。
コロナ後の日本のアートマーケット
日本のアートマーケット規模についてその数値を勘違いしている人が多い。
一般社団法人アート東京が調査した「日本のアート産業に関する市場調査」ではアート市場は3,590億円となっているが、この数字は日本画、近代絵画、工芸品を含んでおり、現代アートの売買に関しては、実際には400億円程度しかない。
アート系スタートアップ企業が、投資家に対してマーケット規模を大きく見せるためにこの3,590億円という数字が一人歩きしているようだが、実際の現場から見るとそんなに大きいはずがないことは誰もが知っている。
世界のアート市場は約7.6兆円であり、この金額はあくまで現代アートの数字である。
日本画、近代絵画、工芸品は海外ではアンティークのカテゴリーに区分けされるため、海外でのアート市場の意味は現代アートだけだと理解しておこう。
つまり日本の現代アート市場が約400億円であれば、世界の0.5%にすぎないということだ。
ということは、0.5%しかない国内市場で勝負することは少ないパイの取り合いとなるのである。
さて、日本のGDP(国内総生産)が世界のシェア5.5%なので、アート市場0.5%は先進国の中では極端に低いことが分かるだろう。
逆に言うとそれだけ日本のアート市場は成長余地があるということであり、これまで国内市場をほっといて海外の市場を取りに行っていたことを我々アート業者は猛省して新たな顧客開拓を急がねばならない。
新しいコレクターの姿
富裕層にアートに興味をもってもらえれば着実に優良顧客になりえるのだが、現状のままギャラリーが展覧会を開催しているだけでは彼らを取り込むのはハードルが高い。
30-40代の富裕層は情報のほとんどをネットを通して入手しているので、美術鑑賞の雑誌、メディアだけでは対象が広がりづらいため、ギャラリーが新規顧客を取り込めなかったのは事実である。
展覧会に来てもらうことだけを目的としていたやり方には早々に見切りをつけて、ネットを通じてアート作品や作家を直接知ってもらうことに舵を切り替えていくことが今後は求められる。
新規顧客はこれまで利用していた媒体や口コミでは通用しないため、アート思考などの教養系、または投資関連のネットメディアから引っ張ってくることになるだろう。
新たなコレクターは30-40代のプチ富裕層でアートを投資として考える層が多くなるであろうし、彼らは国内の若手アーティストをメインとした購入層となるに違いない。
また、今後開拓される顧客層は従来の美術館やギャラリーで鑑賞する層とは違うことから、アートの楽しみ方についててもこれまでとは違うだろう。
これからのコレクターは学芸員や評論家からの作品説明などに惑わされずに、自分の価値観で作品を評価する時代へと変わっていくだろう。
美術史の系譜や作家のコンセプトの意味を探るアプローチだけでなく、コレクター自らが多くの作品と対峙して自由に感じるスタイルが当たり前になっていく。
つまり上からのお仕着せによって作品を理解する時代から、鑑賞者側が主役となり個人が感じる見解や共感が重視される時代にうつっていくのだ。
新しいコレクターは基本的に自分の趣味嗜好へのこだわりと個人所有欲が強いということについてはこれまでと変わりがないだろう。
コレクター心理を正しく理解していれば、共同(分散)保有やサブスクリプション(月額レンタル)といった今流行りのビジネスモデルは現在のコレクター規模では成立しにくいことが理解できるはずだ。
日本のアート市場がもし現在の10倍くらいの4,000億円程度まで拡大すれば、様々な形態での新しいビジネスモデルも出てくるだろうが、まだマーケットが小さい日本はそのような新しい仕組みには時間がかかるだろうと予想される。
まずは新規顧客をこれまでとは違うメディアから取り込み、若手アーティストの作品情報と作家情報のコンテンツを増やしながら、着実に一点ずつ売っていくことが日本のアート市場の拡大につながるのだ。