新年あけましておめでとうございます。
今年も毎週このような形でアートに関するコラムを書いていきたいと思いますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
さて、多くのアート業界の人が「もっとアートを身近に」とか、「ギャラリーの敷居を低く」と訴えているのを耳にします。
アートというものは一部のお金持ちが買うものであるという固定観念を何とか変えようとしているのでしょう。
しかしながら、日本国内ではアートの民主化についての進むスピードは海外と比べると、ウサギとカメくらい違っていて、日本のアート市場の拡大は全体として遅々としています。
その原因が相続の税制問題であるとか、アートの購入を税控除に使えないということも一部はあるかもしれません。
しかしながら、アートを正しく理解して税制を変えるような政治的な動きは進むことなく、一向によくなる兆しは見えてきません。
一方で、ブロックチェーンやAI、サブスクリプションモデル、シェアリング・エコノミーなど、いま流行りのビジネスモデルをアートに絡めて資金集めが忙しいスタートアップも増えてきております。
それでも、新しいビジネスモデルを導入することによって具体的にアートの市場がどう大きくなるのかを説明できるものはまだ見えておりません。
そういった中でタグボートはアートの民主化を実現するための方法はひとつしかないと思っています。
愚直に一人でも多くの方にアートを買ってもらうことであり、これ以外にアートの民主化を達成できる手段はありません。
つまり、現状の日本ではアートを買ってもらう人の数を増やす努力がまだまだ足りないということだけだと思うのです。
日本にいるすべての人がアートを買う対象ではありません。
どんな人がアートを買うことに興味を持つ人か、どんな時にアートを買いたいと思うのか、どんなアートを欲しがるのか、様々な心理状況を細かく理解することが我々のような業者にとっては重要です。
ギャラリーは業者同士の横並びを気にしながら、どのようなアートフェアに出ると見栄えが良いのかなど考えている余裕はないのです。
アートを買うことで何ができるのか、人々がアートを買うことでどんなことが起きるのかを想像しなければ、アートの市場が伸びるはずがありません。
アートビジネスについてはこれまでと同じことをずっと続けていてはだめだと思うのです。
常に新しいことにチャレンジし続ける必要があります。
つまり従来のように毎月展覧会を開催して、そのためにDMを配布して集客するようなスタイルが限界を迎えているということです。
このスタイルだけ売り上げが伸び続けている優良ギャラリーはそれでよいのですが、ほとんどのギャラリーはこのスタイルがまだ日本では認知されていないということを理解しないといけません。
美術館であれば、多くのメジャー・メディアを通じて大規模展な覧会が宣伝されていますが、ギャラリーは専門誌に掲載したりSNSで拡散させる程度であり、一般の人にはその展覧会が開催されていることすら知らされていないのです。
つまり、美術館に比べると圧倒的に見に来る人が少なくマイナーなままになっているから、誰も気が付かないということなのです。
日本人は世界でも美術館にもっとも多く足を運ぶ国民と思っているかもしれませんが、それは印象派の巨匠だったり、エジプトの秘宝とかの展覧会であり、現代アートについてはさほど多くありません。
さらにギャラリーとなると行く人がほとんどいないのです。
うまくいかない仕掛けをずっと使っている釣り人のようなもので、常に創意工夫で新しいことにチャレンジしないとアートの市場は変わることはないでしょう。
生き馬の目を抜くIT業界では、チャレンジし続けることしか進化がないわけですから。
いま、アートの民主化に必要なのは絶対量としての作品を見せる機会の拡大にあります。
そんなことを言うと「アートは量だけでなく、質の高い作品を厳選する必要がある」という人も出てきます。
アートの質は工芸品ではないので時間をかけて丁寧に作られたものが質が高いわけではありません。
ではアートの質とはどのように決まるのでしょうか、アートの質とは何でしょうか。
それは見た人が決めることであり、見た人が面白いと思えればその人にとっては質が高いアートなのです。
そういうと、質を測る物差しがないではないかと思うかもしれません。
そもそもアートとはスポーツなどと違って明確なルールのない戦いであり、何が優秀かという絶対的基準がないので、見た人が質が低いと思えばそうだろうし、面白いと思えればそれは質の高いアートと個別の価値基準ということになります。
アートの質はルールがないのだから、主観的なものでしかないのです。
そこがアートの良さなのです。
しかしながら我々は美術評論家やキュレーターといった専門家の考えをそのまま受けて、アートを客観的な基準に任せている場合が少なくありません。
オークションハウスの落札価格やアートフェアでの売れ行きといった情報をたよりに作品を買っているコレクターもいます。
それが悪いとはいいませんが、これからは個人が尊厳を持ち、自分がよいと思うアーティストを個別にサポートしていく時代へと変わっていきます。
それこそがアートの民主化だと思うのです。
一部の富裕層が高額な作品を買いあさる時代から、少額投資の大きな集まりが大きな市場を作っていくこととなります。
そうなる未来が近くまで来ていることをタグボートは意識して、新たなマーケットを自ら開拓していきたいと思います。
今年、タグボートは日本で最も作品をリアルとバーチャルの両面で国内外で見せていくギャラリーとなります。その準備はすでに出来ております。
微力ながらアートが民主化するために前進していきますので、今年もよろしくお願いします。