アート思考というものを考えるときに、重要なことが二つある。
一つが発明であり、もう一つが社会性ということなる。
この二つがアート思考の重要なファクターであり、この考え方をもとにビジネスをするときのヒントにもなるだろう。
まず、アーティストとは世の中の人がこれまで見たこともない作品を作るということが重要である。
一言でいうと、これまでにない作品を「発明」するということである。
アート界において、他の誰かが作ったものに似た作品は、いくら一生懸命時間をかけて作ってもオリジナリティがないうことで評価の対象とならないことが多い。
ピカソにそっくりとか、草間彌生そっくりの作品を作ること自体はさほど難しいことではない。
しかし、それは創造性の欠如であり、いくら本人が満足して作っていても他人の真似事でしかない。
アートとは創造性がもっとも重視され、その創造性こそが価値の原点となる。
アーティストは常に「発明家」でなくてはならず、自分が作ったものが他の誰かに「似ている」というのは屈辱的な評価なのだ。
しかしながら、アートにおける発明は難しい。
特許のような登録制度がないため、だれがその著作権をもっているかがすぐに分からないからだ。
もし似たような作品を作ってアートとして売っているとすぐにバッシングされるだろうし、創造性がないアーティストという烙印を押されることとなる。
一方企業活動を例にすると、発明的なサービスを作っても、それが特許登録に時間がかかったり登録できないものであれば、すぐにそのサービスを真似た企業が大量の広告費用を使って市場のシェアをとってしまうこともあるのだ。
つまり、先行企業が新しいサービスをつくっても、そのまま生き残るためには後ろからのライバルが追い付かないくらいまでに事業を拡大せねばならず、追随するサービスを出し抜く体力が必要となる。
一般企業はサービスを真似た二番煎じでも、それを受け入れる顧客がいれば大丈夫であるが、アートはそうはいかない。
オリジナリティが全てであり、他と何がどう違うのかをきちんと説明できる必要があるのだ。
自分自身で何かを生み出すことなく、何かあればどこかのコラボレーションぐらいしか企画を考えない人には、アート思考のもつオリジナルなものを「発明」し続ける考え方は重要になるだろう。
さて次にアート思考として重要なのは社会性である。
マルセル・デュシャン以降、アートは単なる美しいとか技術的に素晴らしいといった視覚的な評価ではなく、アートが意味する思考やコンセプトを楽しむ時代へと変わっていったのはご存じだろう。
そうなるとアート作品のもつコンセプトというものが、人に衝動を起こしたり、深く思慮させたり、感動させたりするものになっていくのだ。
そして、最終的にはアートの力で社会を動かすことができるのか、という命題に行きつくこととなる。
しかしながら実際にはアートだけで社会を変革したり解決ができるわけではない。
とはいえアートは人々に社会の課題に対する気付きを分かりやすくする手助けとなりえるのだ。
アートを見ることによって、社会に内在する課題がなんであるかという理解を深めることだってできるのだ。
ときにはアートのコンセプトを知ることで人々が生きる意欲を高める力にもなる。
このようにアートには人々の感性を刺激し、変化を起こすことを促す力がある。
アートのもつ社会性とは、世の中に届けたいとアーティストが願うことから始まるのだ。
つまりあくまでクライアントが特定しない一般的な課題を読み取る糸口を作るのがアート思考であり、それに対して、特定されたクライアントやユーザーの課題を解決するといった具体的な手法がデザイン思考なのだ。
漠然とした問題を分かりやすく伝えるためにアートが存在するのであり、具体的な解決方法は政治家や企業などに任せたほうがよい。
しかしながら、評論するばかりで具体的な行動を生まない人たちに惑わされないよう、アートの力が人々の行動を促す起爆剤となることもあるのだ。
アート思考をビジネスなどで使う場合には、スタートアップ企業が事業を進めるときのオリジナルなアイデアとか、社会の課題を分かりやすく伝える方法論などに使えるだろう。