アーティストは美大を卒業してそのまま就職をしなければ世間に放り出されることになる。
アーティストとして生きることを決意した若者にとって厳しい現状がそこに待っているだろう。
ひとまずは貯金を取り崩しながら自宅兼アトリエで作品を制作し、それを発表する場として貸しギャラリーを借りることになるのだ。
しかしながら実態として、貸しギャラリーで展示してもそこに本格的なコレクターが来ることはないし、コマーシャルギャラリーのオーナーが見に来るケースもほとんどないのだ。
そういう状況で、決して安くはない貸しギャラリーのレンタル代を払うことの意味合いが薄くなっているのだ。
とはいえ、何もしないままでいると誰もその作家の存在に気付かないのであり、どこでもよいのでとにかく作品を発表することが目的化してしまうことが世間に放り出されたばかりの作家にはよくある。
アーティストとして生きるということは、学生や一般のサラリーマンとは違ってライフスタイルそのものを変えなければならない。
作品を作るだけで食べていくための環境をどのように作るのかということだ。
例えば、アーティスト・イン・レジデンス (※)以下 レジデンス)という方法があるが、美大ではレジデンスの存在はもちろんどのように参加したらよいかなど一切教わることがない。
さほど売れないアーティストが食べていくためには、アトリエを持ちながら生活コストを下げなければならない。
日本、特に東京では家賃などの生活コストが高く、普通に生活しようとすれば、アーティストとして生きることがすぐに破綻しかねない。
レジデンスであれば、多くのアーティストが世界各地から集まり、居住空間とアトリエを無償で与えられる。
アーティストを支援するNPO団体や企業などが社会貢献事業としてレジデンスを運営しているので、アーティストとして生活しようとすれば、このようなレジデンスに無償で住みながら作品を作れる環境はうってつけだ。
実際にレジデンスで世界中を旅しながら制作活動をしているアーティストは世界規模で見ると少なくはないのだ。
多くのアーティストが様々な国で常に行われているレジデンスをチェックして応募し続けているのだ。
ただし、応募はすべて英語で記入する必要があるし、現地でのコミュニケーションも英語または現地での言葉に限られるだろう。
さまざまな環境に身を置いて制作することは作家としての経験に厚みが出るし、特に海外のアーティストとの交流や切磋琢磨できる意味合いが大きい。
日本人同士だけでは体験できないような海外作家の思考、表現方法を学ぶことができるだろう。
作家をサポートする側の立場としてはレジデンスのような方法があることを作家に伝えたり、英語のレジュメ作成を補助したり、または自らレジデンスとしての場所を提供するということもあるだろう。
さて、レジデンスで制作することは作家としての経験値は上がるだろうが、それだけでは作品を世の中に知らせていくことは難しい。
発表する場所がギャラリストやコレクターの目に留まるところでなければキャリアがスタートしないからだ。
従い、サポートする側は優秀な才能を見つけたら、自身の知るコマーシャルギャラリーのオーナーを紹介したり、作品を購入することで直接アーティストをサポートすることもあるだろう。
しかしながら、そもそも日本にはコレクターの絶対数が少ないことと、コマーシャルギャラリーのオーナーに紹介しても気に入ってもらえるかどうかは分からない。
アーティストとして生きていくには常に自分がコマーシャルギャラリーのオーナーや有望コレクターに見つかるような環境に身を置く必要があるのだが、そのために著名な公募展やアワードで入賞以上を獲得し続けなければならない。
やるべきことは公募団体展にお金を出して出品することではない。
そこでの入選などの賞は団体展の枠内では箔がつくのかもしれないが、コマーシャルギャラリーのオーナーは団体展の展示を見に行かないので見つかるはずもないのだ。
このような状況に日本のアーティストは置かれており、一部の賞レースに強いアーティスト以外はギャラリストに見つかる術がないように思われる。
しかし、それを払しょくするためにあるのがタグボートが提案しているシステムであり、それはポートフォリオレビューとブース型アートフェアなどだ。
次回以降、そのシステムの意味合いと、今後アーティストにとって必要な武器についてもお話したいと思う。
※ アーティスト・イン・レジデンスとは、各種の芸術制作を行う人物を一定期間ある土地に招聘し、その土地に滞在しながらの作品制作を行わせる事業のことである。(Wikipediaより)