キャンバスという枠に、どこまで自由が許されるのだろうか。
ももえの作品を前にすると、そんな問いがふっと頭をよぎる。
そこには、描かれるキャラクターの愛らしさだけではない、素材と表現がせめぎ合う「驚き」がある。
2025年9月、タグボートで開催される個展「affogato」は、そんな彼女の最新の挑戦と成熟が詰め込まれた展示である。
アフォガートのように、異質が混ざり合う
「affogato」とは、熱いエスプレッソと冷たいアイスが出会い、溶け合いながら新たな味覚を生むスイーツの名前だ。
そして今回の展示も、その名の通り、ふたつの異質な世界の出会いから生まれている。
一方には、ももえが幼い頃から親しんできた二次元の“キャラクター”。もう一方には、毛糸や曇りガラススプレー、木材や立体構造など、現実の質量を持った“素材”たちがある。
ももえはこのふたつを、絵の具で塗りつぶすのではなく、あくまで“組み合わせる”。
熱と冷が交わるように、平面と立体が衝突しながらも溶け合い、見る者の中に新たな感覚を呼び起こす。「描く」という行為だけで完結せず、「素材と対話する」ことで完成する作品たちは、まさにアフォガートそのものである。
触れたくなる「面白さ」をつくるということ
ももえの作品には、ユーモアがある。ただし、それは決して「笑い」を誘う軽薄なものではない。
むしろ、「ちょっとした気づきのズレ」によって生まれる、知覚の裏をかくような「面白さ」である。
たとえば、女の子のキャラクターが指で押した部分だけがキャンバスから浮き上がっていたり、左右の色が逆転したキャラクターが毛糸でつながれていたりする。
そこには、画面の中に確かな「違和感」が組み込まれている。
だが不思議と、その違和感は見る者に不快感を与えることはなく、むしろ「この子はどんな気持ちなんだろう?」と想像を促す装置になっている。
「自分が面白いと感じたことを、ちゃんと伝えられる形にしたいんです」と語るももえ。
素材の選び方、色の配置、キャラクターの表情――それらはすべて、鑑賞者が“引っかかる”ポイントになるよう精密に設計されている。
グラフィックデザインを学んできた経験が、作品全体に説得力を持たせているのだ。
素材とキャラクターの「対等な関係」
ももえの作品を語るうえで重要なのは、キャラクターが単なる「主役」ではないという点である。
むしろ彼女にとって、キャラクターは「素材と対等な存在」なのだという。
キャラクターを描いたキャンバスの一部に、毛糸や木材、曇りガラスのような異質な素材が加わると、鑑賞者の目は自然とそこに引き寄せられる。
だが、そのときキャラクターの存在が薄まるわけではない。
むしろ、フラットに描かれたキャラクターが素材によって“引き立てられる”ことで、作品全体がひとつの舞台装置のように立ち上がってくる。
言い換えれば、素材とキャラクターが互いに主張しながらも、共に世界観を構築しているのである。
この感覚は、個展「affogato」においてさらに明確になるだろう。
初挑戦となる100号の大型キャンバスや、空間全体を使った立体的な構成も予告されている。
キャンバスの“外”に向かって世界が拡張していく様は、観る者の身体感覚すら巻き込んでいくに違いない。
難解さを拒む、明快なメッセージ
「現代アートって難しい」と感じたことのある人にこそ、ももえの作品は刺さるかもしれない。
彼女自身、「現代アートはまだ勉強中なんです」と笑いながら語るが、その姿勢こそが作品のわかりやすさを支えている。
「ここが面白いんです」「ここがポイントなんです」と伝えることを、彼女は何よりも大切にしている。
だからこそ、作品には「伝えるための仕掛け」がちりばめられている。それは、キャラクターの表情であったり、素材の配置であったり、色の使い方であったりする。
作品は、ただ飾られるものではなく、「伝わる」ためにある――そんな強い意思が、ももえの作品には込められている。
「affogato」が開く、アートの未来
今回の展示「affogato」は、ももえにとって一つの転機でもある。
卒業を目前に控え、作家として歩む決意を固めた彼女は、これまで以上に「伝える」ことと「新しさ」を両立させた作品制作に力を注いでいる。
タグボートでの本展では、毛糸や木材といった素材を使った実験的な試みや、大画面でのインスタレーション的構成が予定されている。
それは「キャンバスに描く」だけではない、身体ごと作品世界に入り込むような体験をもたらすはずだ。
アートとは、感動や驚き、楽しさを“共有”する装置でもある。
ももえの作品には、その「共有」を可能にする明快さと、あたたかなユーモア、そして常に新しいことへ挑む柔らかな意志が宿っている。
スプーンを沈めた瞬間、熱と冷が混ざり合うアフォガートのように、ももえの作品もまた、異なる世界が出会い、溶け合うことで、私たちの感覚をやさしく揺さぶってくれる。
この秋、人と作品の「ちょうどいい距離感」を体感しに、「affogato」の世界へ足を運んでみてほしい。
2025年9月12日(金) ~ 10月4日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日の9月12日(金)は17:00オープンとなります。
※9月23日(火)は祝日のためお休みとなります。
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
【ももえ個展「Emotional Gravity」全作品事前抽選フォーム】
※受付開始までしばらくお待ちください。
応募期間:2025年9月2日(火)~9月8日(月)
当選連絡:8月9日(火)
オンライン作品販売開始:9月12日(金)20:00から
※ご購入には会員登録が必要となります。事前の会員登録をお願い致します。
※事前抽選で完売となった場合、オンライン販売はございませんので、ご了承ください。