アーティストとは「芸人」である。
「アーティスト」と聞くと、どこか格好よくて特別な存在に思えるかもしれない。
でも、実はそれほど遠い存在ではない。わかりやすく言えば、「芸人」である。
お笑い芸人、ミュージシャン、画家、イラストレーター……すべて、自分の持っている「芸」で生きていく人たちだ。
だから「芸人」と言っても何もおかしくない。
自分の芸を職業として、人に見せて、お金をもらって、それで生活していける人。そういう人こそがプロのアーティストなのである。
だが、アーティストになることは、絵を描いているだけでなれるものではない。
たとえば、運よく作品がギャラリーに見いだされて展示してもらえるようになったとしても、それだけで「職業アーティスト」とは言えない。
それはまだ「準備段階」であるし「素人」にすぎない。プロとは、自分の芸でしっかりとごはんを食べていける人のことなのである。
つまり、現代のアーティストにとって、作品をつくることはとても大切だが、それだけでは不十分である。作品以外の「もうひとつの仕事」がとても重要になってきている。
その一つが「発信する力」である。
かつては、アーティストが自分を世の中に知ってもらおうと思ったら、美術雑誌に広告を出したり、誰かに紹介してもらったりするしかなかった。
広告を出すにはお金もかかるし、紹介がなければなかなか人の目にも触れなかった。
でも今は違う。
SNSを使えば、自分の作品を、世界中の人に自分の言葉で届けることができる。
InstagramやX(旧Twitter)などで、どこにいても、誰でも自分を知ってもらえるチャンスがあるのだ。
そうなると、アーティストとギャラリーの関係も変わってくる。
SNSがあることで、作家自身が人を集めたり、ファンとつながったりできるようになった。
だからギャラリーに任せきりにするのではなく、作家とギャラリーがそれぞれの役割を持って協力し合うことが大切になっている。
そして、プロを目指すなら、まずは全部自分で一通りやってみるのがよい。
作品をつくって、写真を撮って、SNSに投稿して、展示会を開いて、お客さんと話す。
そうやって一通りのことを経験しておくと、将来ギャラリーに所属したときに「こういうことは自分でできる」「ここはギャラリーと一緒にやりたい」と、ちゃんと話し合いができる。
自分の道具は自分で使ってみる。その経験が、のちの大きな武器になる。
さて、アーティストがよく苦手とするものがある。
それは「営業」である。
「作品を買ってください!」とお願いするのは、たしかに勇気がいるし、押しつけがましく感じることもある。
だが今の時代、営業とは売り込むことではなく「対話」である。
お客さんや関係者と会話する中で、展示のチャンスが生まれたり、コラボレーションが始まったりする。
自分の活動の幅を広げていくためには、人と話すことが何よりも大切なのである。
そして、もうひとつ大切なことがある。それは、「やりたいこと」と「求められること」は、いつも同じとは限らない、ということだ。
どんなに自信のある作品でも、それを見た人がどう思うかは別の話である。
だからこそ、展示などで人と直接話してみることが重要だ。
「すてきですね」と言われたからといって、それが本心とは限らない。
目の前に作家がいれば、本当のことを言いにくいという人も多い。
だから、作品についての感想をただ聞くのではなく、「次はこんなことをやってみたい」と話してみるといい。
すると相手の反応や目の動きから、「それ、見てみたい」と思ってもらえているかどうかが見えてくる。
それが、未来につながるヒントになる。
アーティストは、ただ作品を作るだけの存在ではない。自分の芸をどうやって人に届け、どうやって世界とつながるかまで考える。
そこまでが、今のアーティストに求められている「もうひとつの仕事」である。
そしてそれは、芸人と同じく、人を喜ばせたいという気持ちの表れでもある。
自分で考え、自分で動き、自分の芸で人とつながる。
それが、これからのアーティストにとっての、新しい当たり前なのである。
上床加奈「Red」
2025年6月20日(金) ~ 7月8日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F