今回は現代アートを取り扱うビジネスを行うにあたって、国内のみならず、海外に向けてどのように戦略を立てるべきかということについて述べていきたい。
さて、現代アートのマーケットの国内需要については期待ができないということを前回申し上げた。
今後日本が超高齢社会になっていく中で、マーケットが若干伸びたとしても微増がよいくらいでその伸長率は米国や中国と比較すると微々たるものとなるだろう。
日本以外の世界のアートマーケットの成長率を比較するとその差は益々拡大しつつある。
すでに日本国内に内需があるのならよいのだがまだしも、内需がない中で今後も期待できないということは、イコール外需頼みにならざるを得ないということだ。
海外に目を向けないということは日本という本当に小さいマーケット規模の中でのシェアの奪い合いとなってしまうのだ
そうなると、対外的な需要を目的としたビジネスに打って出るしか道はない。
まずは日本で地固めをしてから海外に出ていくなんてことを考えていては、すでに時代遅れとなるのだ。
さて、アートの需要を急拡大している中国とそのハブ機能としての香港と、アセアンやインドといった成長余力のあるエリアまでのハブ機能を持つシンガポールの二都市が現在アジアのアートシーンを牽引している。
両都市は地理的に成長する経済圏のハブ的機能を持っているだけでなく、税制や言語、行政の支援などあらゆる面でアートの拠点としての有利さがある。
アートバーゼルの持ち株会社であるMCHグループがシンガポールで来年11月から新しいアートフェア「ART SG」を開催するのは当然の流れと言えよう。
昨年失速したアートステージ・シンガポールを完全に補う形で、今後アートバーゼル香港に次ぐアジアのアートフェアへと成長するに違いない。
アジアのアートの拠点として、東京にその役割を期待しても体制的に無理なことはすでに周りが理解しており、香港、シンガポールに次ぐ国際的な現代アートに特化したアートフェアが開催される可能性は今のところ全く考えられない。
したがい、行政や外部環境に期待することなく、外需を取り込むために何ができるかを今から考えなければならないのだ。
米国ではトランプ大統領が指揮をとり、英国がEC脱退という昨今の一連の流れをアートマーケットとの関連性で考えると、納得できることが多くある。
まずどちらの国も内需については長期的に期待をしているわけではない、ということである。
米国は現状では内需の規模が世界最大なのでそれだけで十分に成り立つ産業があるのは事実である。
アートもすでに自国の需要だけで多くのアーティストを食べていかせるだけのマーケット規模だ。
しかしながら、米国は需要が旺盛だったゆえにアートの価格は既に高騰しており、海外の作品と比較すると米国アーティストの価格は相対的に高くなているのだ。
日本と米国では、同クラスのクオリティの作品の価格が2倍ほど違うと考えてもよいだろう。
そうなってくると、当然米国のマーケットは日本をはじめその他の価格が割安なアートに目を向ける可能性もあり、すでに割高な自国のアートを買うことに躊躇する人も出てくるだろう。
米国や英国の方向性は、国内のサービスで競争力のある分野は外需向けにサービスをしっかりと確立し、今後拡大する外需を取り込もうということだ。
一方、海外との価格競争の中で自国内の産業の中ですでに割高で優位性がない分野は、雇用確保のためにしっかり守っていくいうことである。
今後グローバル競争に勝てるのは一部の先進的な産業のみに絞られ、そこではしっかり勝っていき、それ以外の競争優位がない産業に従事する中間層の没落を少なくするという判断なのだ。
そう考えると日本のアートはすでに割安なのだがら、チャンスが目の前に転がり込んでいるようなものだ。
外需に一気に目を向けて、その環境づくりをしなければならない。
作品を海外向けにプロモーション強化するのはもちろんであるが、外国人のアーティストが四季のある豊かな自然環境にある日本に来てもらい、作品を滞在制作してもらうことも考えられる。
ただし、現状の日本では、税金、法制度、インフラなどは内需をメインとした考え方のままとなっており、海外からのアーティストの移住などはまだまだハードルが高いだろう。
一方で、米国や英国のトップギャラリーは香港やシンガポールに現地ギャラリーを設立し始めており、日本のギャラリー勢の進出数は少ない。
理由はおそらく両都市はすでに家賃が高く、日本の規模の小さなギャラリーでは固定費が高すぎて割安の作品を販売するのでは経営が立ちいかないからだろう。
しかしながら、インターネットをうまく活用することで、高い家賃を払うことなく、また面倒な法規制やインフラの整備といった問題を超えた部分で勝負することも可能だ。
しかしながら、ネットの力だけでアートマーケットを世界に拡大させることは難しい。
アートはやはり実際にこの目で見て、体験することが重要であり、そこで生まれる共感とか感動がなければマーケットを動かすことは出来ないからだ。
インターネットはあくまでもリアルの作品を補完するための強力な武器として使い、メインとなるのは作品を見せる機会を作っていくことである。
海外のアートフェアに出展することだけがグローバル戦略なのではない。
アートフェアで海外のギャラリーとの競争に労力を使う以外にも効果的な戦略はあるはずだ。
次回はそのような具体的な戦略について述べていきたいと思う。