前回のコラム『アートはなぜ高いのか?価格の仕組みを解説する』では、作品の価格を決めるのは作家のブランドがもっとも大きな要因であることについて述べた。
ブランディングを高めるために価格をどう設定するかがアーティストの価値や立ち位置を決める重要な要素になるという話をした。
しかし、それだけではブランドは完成しない。
価格設定だけでなく、アーティストのブランドがどのように形成されるか、そしてどのように広がっていくのかを考える必要がある。
アートの世界では、昔と今でブランドの作り方がずいぶん変わってきた。
アーティストが有名になるには、大手ギャラリーと契約し、国際的なアートフェアに出品し、美術館に作品を収蔵してもらうことが必要。さらにはオークションで高額落札され、著名コレクターに作品を持ってもらい、美術評論家やメディアで評価を得ることが大事だと言われた。
これは、美術のプロたちに「この人はすごい!」と認められたアーティストだけが進める特別な道である。
でも、この道はとても狭く、お金や人脈、そして運がないと入り込むのは難しい。
しかも、この道を歩める日本のアーティストはごくわずか。
なぜなら、こうした舞台に立つためには、世界のメガギャラリー(ガゴシアンやPACE、デヴィッド・ツィルナーといった名だたるギャラリー)と契約しなければならない。
しかし、これは日本の高校野球選手がメジャーリーグに入るのと同じくらい難しい。
では、日本のアーティストがブランディングのために今すぐにできることはないのだろうか?
答えは「ある」。
しかも、すぐに始められる方法だ。
ポイントは、大衆を味方につけること。
現代アートの世界は、一部の専門家やコレクターだけのものではない。
SNSの時代になると大衆がアートを語り、消費し、拡散する力を持っている。だからこそ、大衆の目に触れ、大衆に支持されるブランド戦略が重要となる。
最近ではアートがどんどん身近になってきた。
今までは評論家や著名コレクター、美術館が「どのアートに価値があるか」を決めていたけれど、今は一般の人たちもアートを楽しんだり、買ったりするようになっている。
特に、SNSが広がったことで、アーティストが直接ファンとつながり、自分を知ってもらう機会が増えてきた。
こうなると、ブランドの作り方も変わる。
「限られた人に認められる」のではなく、「多くの人に応援される」ことが大切になってくるのだ。
最近、日本では「推し活」という文化が流行っている。好きなアイドルやアーティストを見つけて、ずっと応援し続ける活動のことだ。
アートの世界でも、まだ有名でないアーティストを見つけて応援し、一緒に成長していくことを楽しむパトロン的な人たちが増えている。
アーティストにとっても、この流れに乗ることが大事だ。
SNSを使って、自分の作品を発信したり、制作の裏側を見せたりしながら、ファンと直接つながることができる。
そうすることで、ただ作品を買ってもらうだけでなく、長く応援してくれる人たちのコミュニティを作ることができる。
また、アートを買う人たちも変わってきている。昔はアートといえば、お金持ちの投資対象というイメージが強かったが、今は「もっと手が届きやすいアートがほしい」と考える人が増えている。
だからこそ、アーティストは「どんな人に届けたいか」を考えながら、作品の価格や売り方を工夫することが大切になってくる。
アートの価値は、「特別な人だけが決めるもの」から「みんなで育てるもの」へと変わっている。
この新しい流れにのって、アーティストが自分のブランドを作り、育てていくことが、これからの時代には必要になってくるのだ。
2025年2月21日(金) ~ 3月11日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日2月21日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:2月21日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト手島領、南村杞憂、フルフォード素馨による3人展「Plastics」を開催いたします。「Plastics」では、表面的な印象や偽りの中に潜む本質を提示した3名のアーティストによる作品を展示いたします。