アートをビジネスにすることは、企業にとって新しい価値創造の可能性を広げる挑戦である。
しかしながら、アートビジネスは特有の性質を持ち、一般的な商業ビジネスとは異なる視点が求められる。
特に、新規参入の段階では「実験的にまず始めてみなければ分からない」という姿勢が重要である。その中で、深堀りできる可能性を見極め、持続可能な仕組みを構築していくことが鍵となる。
それが最終的にアートによる企業のブランディングをより魅力的にし、富裕層ビジネスに繋げることが可能となるのだ。
アートビジネスの特性
アートビジネスの中心には、アーティストが制作した作品が存在する。
企業はその作品を通じて価値を生み出すが、ここで重要なのは、アーティストを搾取する形にならないことである。
つまり、アーティストを顧客としてそこからお金を取ることがメインとなるビジネスモデルは避けるべきなのだ。
アートビジネスが成功するか否かは、「作られた作品をどのように売るか」にかかっている。
また、アーティストの努力に見合った対価を支払わなければ、長期的にビジネスを維持することは難しい。
作品が売れなければ、アーティストに金銭的な還元を行うことはできない。これはアートビジネスの最重要ポイントであり、持続可能性の基盤でもある。
従い、アートビジネスを発案するにあたって、作品制作の大元であるアーティストへの金銭的な還元が長年にわたって可能かどうかを真っ先に考えたほうがよい。
もうひとつ重要なこととして、アートのECを始める企業は多いが、アート作品はネット上で販売することは可能であるものの、実物を見せることで販売率が大きく向上する特性があることを知っておく必要がある。
作家にとっては売れなければ作品は在庫となるので販売率は非常に重要なのだ。
顧客が実際に展示作品を目にし、触れられる環境を整えることが、販売の成功につながる。
コストを抑えた実験的スタート
企業がアートビジネスを始める際、大規模な投資は不要である。
少額で進められることにメリットがあるのだ。
展示場所については、新たに建物を用意する必要は全くない。既存のスペースの内部を白く塗り、何もないホワイトキューブとして利用するだけで十分だ。
装飾品を付かないシンプルな空間こそが作品の魅力を引き立てる。
また、プロモーションにおいても、InstagramなどのSNSを活用することで、低コストで効果的な情報発信が可能である。大型メディアを利用する必要はない。
さらに、アートの販売は情報ビジネスの側面を持つことを覚えておくとよい。
販売において重要なのは、作品の背景やコンセプト、将来的な価値について十分に情報を開示し、顧客に納得してもらうことである。
作品のコンセプトについてストーリーテリングができて顧客の頭に焼き付けてもらうこと、将来的な価値が上がることを確信、納得してもらえる説明力が重要であり、ここが中途半端になると販売率が下がってしまうのだ。
ビジネスモデルの一例
以下に、少額から始められるアートビジネスのモデルをいくつか提案する。
◆ポップアップギャラリーの運営
短期間で運営可能なポップアップギャラリーは、コストを抑えつつ話題性を生む効果的な手法である。これからの成長が望める若手アーティストと連携し、倉庫、ショッピングモールの一角を借りて展示を行うことで、顧客に直接作品を見てもらう機会を作る。
◆ SNSを活用したオンライン販売
Instagramを活用し、アーティストの制作過程や作品の魅力を発信することで、顧客とのエンゲージメントを高める。オンライン販売サイトと連携し、手軽に作品を購入できる仕組みを整える。
◆企業ロビーでのアート展示
自社オフィスや店舗のロビーをアート展示スペースとして活用する。顧客や社員に向けたアートのPR効果を狙うと同時に、作品の販売機会を創出する。
◆アートワークショップの開催
絵画や陶芸、写真など、アートを体験できるワークショップを企画する。参加者に作品を制作してもらい、アートの楽しさを共有する場を提供することで、ブランドイメージの向上が期待できる。
※アートプリントやグッズ販売アート作品をデジタル化し、ポスターやTシャツといったグッズに展開するのも手っ取り早いアートビジネスではある。オンデマンドプリントを利用することで在庫リスクを最小限に抑えることが可能であるが、アーティストとしてはそれをメインにやりたがらないという問題がある。
アートビジネスを始めるにあたって、最初から完璧を目指す必要はない。まずは実験的に始め、小規模な成功体験を積み重ねることが重要である。
その中で、ビジネスを深堀りする可能性を見極め、アーティストとの信頼関係を築きながら、持続可能な仕組みを構築していくべきである。
少額から始められるモデルを活用しつつ、アートの魅力を最大限に活かした取り組みを行うことで、企業にとって新たな価値を創出することが可能となるであろう。
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