現代アートは進化している。
それは適者生存の言葉のとおり、今の世の中の動きについていけるアートが生き残り、それ以外は淘汰されるということだ。
また、アートはその時代において高く評価されて生き残った作品はその後にも保存され残されることとなる。
美術史的に重要であると評価された作品は文化財として保存され、その時代に人類がどのようなアートの歩みを行ったのかの証(あかし)となるのだ。
しかしながら、アートが生き残っていくためには、スポーツなどのようにルールが明確化された競技とは違い、その評価は個人によって大きく違う。
アートとは好き嫌いといった恣意的な要素が加味されることもあるからだ。
従い、一部の著名なキュレーターや評論家の意見などが重視されており、そのような絶対的権威に一般購入層が従わざるをえなかったのが現実である。
しかし、最近では状況も変わってきており、キュレーターや評論家でなくても誰もがアートを評価できる時代になってきている。
そういう時代において、今回はあらためてアートの進化論について考えていきたいと思う。
つまり、アートというものを俯瞰的に見ることによって、世の中がどのような潮流の中で進んでいるかを知ることができるのだ。
それによって、好き嫌いだけで購入するアートを選ぶやり方が将来的を見据えてアートのトレンドをしっかり掴みながらコレクションすることへとつながると考えている。
さて、ここでいう現代アートの進化とは、アートの「大衆化と民主化」および「マーケットの拡大」の3つである。
アートの大衆化
まずはアートの大衆化であるが、過去と比較すると現在ではとてつもなく多くのアーティストがアートの制作者として参加することになった。
欧米などの先進国以外の国でもアーティストの数が爆発的に増えている。
成長するアジアの新進アーティスト達は、自国の伝統的な美術品を意識せずに全く違う形で欧米のトレンドに沿った作品を作っている。
キャンバスに油絵といった従来の技法はすでに古典的なものとなりつつあり、平面の上に表現すること以外での方法が飛躍的に増えているのだ。
映像、立体、インスタレーション、パフォーマンスアートなど、絵が上手い下手に関わらず表現方法が多彩になったことで、それによって作品数が圧倒的に増えているのだ。
アーティストの数が増えるということは、そこでの競争も激しさを増し、クオリティの高い作品が多く作られることにつながっていく。
アートの民主化
アートの民主化は誰もがアートを持つことができてアートを楽しむ時代になっていくということだ。
これまでアートの収集家というと金持ちの道楽のようなイメージであったが、現在では誰しもが数千円から数万円単位でアートを買うことができて、さらにそのアートを売買できる時代になりつつある。
だれもがアートについて批評し、セカンダリーマーケットにも積極的に参加できる日が近づいているのだ。
このトレンドは間違いなく進んでおり、後戻りはできない状況にある。
アートが大衆化、民主化していくことで、アートに親しむことが容易になっているのは世界共通の流れであり、それを牽引しているのは、ネット社会が蔓延し、簡単にアートの情報が得やすくなっていることも原因となっている。
アートマーケットの拡大
最後はマーケットの拡大である。
日本にいるとアートのマーケットが拡大していることが実感しにくい状況にある。
実際にバブル期に比べるとアート作品の売買は減っているし、リーマンショック以降も回復傾向にはあるが当時の隆盛には及ばない。
従い国内のギャラリーは「日本にはコレクターがいない」とばかりに不平不満をこぼしているが、それは国内のマーケットしか見ていないからだ。
世界規模で見るとアートのマーケットは着実に拡大している。
しかもそのスピードは上がっているのだ。
特にアートの場合、各地でオークションを始めとするセカンダリーマーケットの成立以後は一進一退を繰り返しながらもそのマーケットに関わる人が増えており、マーケット規模が大きくなってる。
最近ではダヴィンチの作品が500億円以上で取引されたりしたが、それよりも現在すでに100億円以上の価格でオークションで落札された作品は30点を超えるという。
ここ数年でこの高値の作品数は一気に増えたのだ。
気軽に買える作品のマーケットが浸透する「大衆化と民主化」が進むと同時に、超高値の作品マーケットも進んでいるのだ。
この分野はすでに投資から投機へと進んでおり、高価な作品を持つことが新しいリッチ層でのステータスとなりつつある。
それが先進国だけでなく、新興国でも進んでいるのだ。
高くなりすぎたアート作品ではあるが、まだ心配には及ばないと考えている。
株式市場などで売買されるマネー全体の規模から見るとアート市場はまだほんの一部に過ぎない。
アートは本当にお金を持っている人から見ると投資ポートフォリオの数パーセントを占めるだけであり、彼らはほかのことに多くのお金に投資しているのだ。
土地と同じで唯一無二の存在であることがアートの特徴であり、だからこそ今後の価格が大きく暴落することなくマーケット全体が拡大しているのであろう。
さて次回はより深い考察の中で、アートの進化論を述べていきたいと思う。