タグボートが主催する「Independent Tokyo」や、公募展「TAGBOAT AWARD」で選出されたアーティストのうち、タグボート代表の徳光健治賞として選ばれたアーティストは、これまでほぼ全員が売れっ子作家になっているという事実がある。
年間数千人におよぶアーティストの作品を見る中で、将来的にもっとも伸びる可能性が高い作家を選んでいるからこそ、タグボートとして自信をもって奨められるアーティストたちなのだ。
もちろん、タグボートとしても受賞したアーティストを会社として「推す」ので、売れないわけがないのだ。
さて、今年8月のIndependent Tokyoでは約180名のアーティストの中で、Itabamoeという女性アーティストを徳光健治賞に選んだ。
Itabamoeはすでにイラストレーターとしても活躍しているのだが、彼女のもつ「過去と未来を行き来しながら、いい女を描く」という世界観には大きな可能性を秘めていると感じた。
新型コロナの時代に国内アート市場では、過去のシティポップをなぞったイラストが現代アート作品として跋扈したが、それは80年代のリバイバルをトレンドとして見た今の30代の支持を受けたものだ。
さて、コロナ後の現在の世界はどうなっていくだろうか。
おそらく90年代のリバイバルをトレンドして捉える今の20代~30代が牽引していくことになるだろう。
シティポップとはちょっと違う、同じ資本主義社会を意識しても、少しよどんでいて、アンニュイで退廃的なものが出てくるのでは、と予想している。90年代のまだデジタルな世界になる前の有機的な若者文化が復活しそうな予感だ。
そこではまさに、Itabamoeの作品がクローズアップされていくだろう。
過去と未来を行き来する
世の中の流行は30年周期で再来するという説がある。
30年である理由が出産年齢の平均値なのかどうかは定かではないが、リバイバルというものはファッションなども含めてこの周期となっていることが多い。
アートは基本的に、常に新しいものの発見であるとはいうものの、その新しい作品の基礎にあるものはあくまで過去の作品をベースにしたものである。
このように、アートも過去のカルチャーを踏襲しながら、周期的に未来志向の作品が作られていくのだ。
さて、話は変わるが、漫画家の岡崎京子をご存知だろうか。
1980年〜90年代を代表する漫画家であり、その時代を生きる女性の姿を重ね合わせた彼女の作品は当時のカルチャーを刺激し、その後に数多く映画化がされている。
代表作としては、2012年に映画化された「ヘルター・スケルター」や、「pink」、「リバーズ・エッジ」などがある。
彼女の作品のテーマは資本主義社会のもつ裏の部分とその中に生きる若者の「愛」や「性」をリアルに描いている点だ。そこには、詩や小説のような文学だけでなく、当時の音楽をも含んだ独特の空気を作品にまとわせているのだ。
その岡崎京子を彷彿させる世界観は、そこから30年が経過したItabamoeの作品の中に感じることができる。
時代を生きてきた女性と、未来を標榜する女性の両方が彼女の作品からリアルに想像されるのだ。
岡崎京子の作品から30年の時を経て、我々は現代的な新しい意味付けをしながら、歴史が紡がれていくのだろう。
「いい女を描く」ことにこだわる
Itabamoeによると、彼女は「いい女しか描かない」と言う。
もちろん、外見の面での「いい女」ということではなく、その女性が纏っている雰囲気なども含めて彼女が感じる「いい女」を描いているのだろう。
一方、岡崎京子の作品には、「心身を蝕むほどに世の中の価値基準に合わせようとするキャラクター」が多く登場する。
ヘルタースケルターに出てくる「りりこ」はその典型で、彼女は壮絶な全身整形を繰り返し、世の中が「美しい」と決めた価値観にあうように自分を作り変えていく。
おそらく、30年前の時代の子供たちはそういった価値観によって翻弄されており、それに抗うためには、外見を変えるしかないと思い詰めていたのかもしれない。
そこには個性や自由、多様性などというものではなく、「空気」「雰囲気」「流行」など、見た目の価値観が強く形成されていたことは今もあまり変わっていないのかもしれないし、SNS映えによってより強調されることになったともいえよう。
Itabamoeの描く「いい女」が単純なルッキズムから進化した、あらたな「いい女」を内面から描いていくことに期待したい。
タグボートの新規取り扱いアーティストとして、今回は初めて2点の作品からデビューするのだが、かなりの争奪戦が予想される。
まだ価格がリーズナブルなうちに将来に期待して買っておくことをお勧めしたい。
Itabamoe |
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