日本の現代アート市場のプチバブルが弾ける中で、国内アート業界が今後どうなっていくのかを先週に引き続き具体的に占っていきたいと思う。
我々が予想するに、プライマリー市場(ギャラリーやアーティストから直接販売される場所)とセカンダリー市場(オークションやアートディーラー間の取引)の両市場において以下のような様々な変化がこれから起きることとなるだろろうと予想する。
プライマリー市場の変化
新作のアート作品の価格はここ2-3年と同じような速度で上がり続けることはなくなるだろう。
そもそも2021、22年のオークションの価格の高騰に基づいて上げてきたギャラリーの価格の方が異常だったのだ。
一部のアーティストやギャラリーは、値引きやプロモーションをすることで販売促進をしなければ、従来と同様の売上を確保することが難しくなってくるとも考えられる。
これは逆に購入者側から見ると、これまでよりリーズナブルに作品を購入できるチャンスがあるということだ。
新作の制作数の減少
アート市場全体の需要が低下すれば、アーティストは新しい作品を生産するペースを落とさざるを得なくなるだろう。
こういう時期なので、多く作りすぎても在庫になってしまう可能性が高いからだ。
過去2年のアートのプチ・バブルで短期間に大量の作品を制作してきたアーティストが、今度は時間をじっくりかけて作ることで、より良い作品が生まれることにつながるだろう。
つまり不況期こそが大量生産にとらわれない、手間暇をかけた本物の作品が出てくる時期であるということだ。
セカンダリー市場の変化
オークションやディーラー間取引において、既存の作品の価格が下落する可能性があるだろう。
特にこの数年で異常な高額で取引されていた作品や注目アーティストの作品は、大きな価格の下落を見せることがありえる。
オークション相場において、購入者と売り手の間で価格に対する見解の乖離が広がると、取引が成立しづらくなるのだ。
そうすると取引量そのものが減少するのだが、一方でコレクターの行動も変化するだろう。
バブルが崩壊すると、コレクターの中でも投資としてのアートの購入から、純粋に愛好家としての購入に方針をシフトする人が出てくると思われる。
オークションハウスも高額な作品の売却が難しくなれば、中価格帯の作品や新たな市場をターゲットとするような戦略変更を迫られるので、比較的リーズナブルな作品を中心としたコレクションをする人にとっては有利に展開する時期なのだ。
アーティストにとっての変化
上記のような市場の変化があると、アーティストにとっては途中で作品を作るのをやめる人が出てくるため、継続して制作をする作家にとってはライバルが減るということが起こる。
また、オークションに連動したプライマリー価格の大幅な上昇が望めないことは、投機的なコレクターが減って、本当のアートファンとか長期的な視点でコレクションする人だけが買ってくれることにつながっていく。
つまり、バブル崩壊は市場が浄化されることで市場の「正常化」が進むこととなるのだ。
作品に対する正しい評価が付き始め、これまで短期のブームで異常な価格が付いていた作家が淘汰されていく時期なのだ。
ギャラリーも新規の作家を取り扱いとして追加することが減るので、ギャラリー所属が決まらない作家は自分で作品を直接販売せざるを得なくなるだろう。
作家によるセルフプロデュースが増え、その手法が洗練される中で、セルフプロデュースで既に売れているアーティストをギャラリーが選ぶという方向に変わるだろう。
例えば、音楽業界でYoutubeの登録数が多いアーティストや、再生回数が多い曲である事実を確認してから、音楽事務所がスカウトをすることが一般的になりつつあるのと同じだ。
ギャラリー側もある程度売れる見通しのあるアーティストを自社に所属させて、所属済みの作家たちとの新陳代謝を計るようになるだろう。
勘と経験だけでアーティストを選ぶのではなく、リスク回避も含めて販売実績を元にスカウトする手法へと変わっていく方向へと進むに違いない。
以上のように、アート市場のプチパブルの崩壊は、これまでの行き過ぎた業界の膿を出すことによって、正常化された安定の市場を作り出す元となると我々は考えている。
さて、これまでタグボート代表の徳光は、2016年から7年間にわたり毎週欠かさず新しいコラムを書き続けてきた。コラムの本数としては350本ほどとなる。文字数にすると70万字を超える。
このコラムをきっかけに二冊の書籍を出版することにもつながっているし、多くの読者がアートに関する知識を得ることに尽力できたのではと自負している。
今回を最後に毎週の連載は終了とし、これからは必要に応じて都度コラムを執筆することとに変更となる。
長きにわたり連載をご拝読頂いたことに深く感謝したいと思う。
タグボートは昨年に続き、今年も福岡に上陸してアートフェア「ART HAKATA」を開催します。
■ART HAKATA by tagboat 開催概要
開催期間:2023年9月20日(水)~26日(火)
営業時間:10:00-20:00 *最終日は18時終了
会場:博多阪急 1階MEDIA STAGE ※博多駅直結
入場料:無料
オンライン販売:2023年9月20日(水)12:00より販売開始いたします。
出展作家(五十音順)
AKIKO KONDO、秋山あいれ、アンタカンタ、アンディ・ウォーホル、石川美奈子、工藤千紘、鈴木ひょっとこ、都築まゆ美、三塚新司、村上隆、山口典子
※展示内容は一部変更になる可能性がございます。
【ART HAKATA by tagboat」特設サイト】
https://www.tagboat.com/artevent/ART_HAKATA/
タグボート代表の徳光健治による二冊目の著書「現代アート投資の教科書」を販売中。Amazonでの購入はこちら