深澤雄太は1996年東京都生まれ。2019 年東京藝術大学絵画科油画専攻卒業。
何気ない日常のワンシーンを鮮やかな色彩表現と大胆なストロークで叙情性豊かに美しく描き出します。tagboatの新ギャラリーにて個展「soul」を開催する深澤雄太さんのアトリエにて、制作についてお話をお伺いしました。
インタビュー・撮影:植松苑子、眞岸花菜
深澤雄太 Yuta Fukazawa |
_昨年からアトリエをお引越しされて、環境の変化はどのような形で制作に影響していますか。
環境の変化ですよね。そうですね、まずこのアトリエが大体前住んでたアトリエが7畳くらいだったんですけど、今、18畳くらいになったんですよ。アトリエの広さが。倍以上になって、まあ大きい絵を描きたいってなって。自分の見合った範囲で、大きい絵を描きたいって去年発言したんですけど、今年はちょっとシフトチェンジして、もうちょっとその普通に飾れるサイズもしっかり描いていこうということをやっぱり考えて、今回展示に出すかなって感じですね。
_以前お住いの地域も自然が豊かだったかと存じますが、やはりそこは環境として重視されていらっしゃいますか。
うん、そうですね。部屋を広くすることによって自分の好きなものを置けるようになった。それは環境としてはでかいですね。画集とかも、目につくと「ああこういう作家さんいたな」とか意識するわけじゃないですか。そこからのインスピレーションだったりとか。植物もこうやって置けると、植物を描こうと思った時に、ちゃんと自分なりの腑に落ちた植物が描けたりするのかな。
アトリエに置かれている植物や図録
_植物は制作において資料的な力も発揮してくれますか。
発揮してくれているかは、分かりません(笑)。趣味なのかもしれません。
_ピカソの絵などが飾られているのも、これも画集とかを置いているのと同じ要素ですか。
シンプルに自分の絵は複雑に、足し算足し算になりがちだから、引き算で描かれた絵をそこに飾ってあるっていう(笑)。そうしたらもうちょっと気楽でいいんだって思えるので。
_あえてそこに貼っているのでしょうか。
そうそうそう、わざとそこに貼って、ああこのぐらい気楽にやっていいんだってなれるじゃないですか。なんかそういう感じ。特に深い意味は無いです。
_深澤さんが制作の中でほっとするタイミングはありますか?
んー、やっぱり絵が完成した時ですかね。完成っていう基準も自分しか決められないと思うんですよ。
_筆の置き所は本人しか分からないですね。
だから絵が完成すると、やっぱりほっとする。
_絵が完成するタイミングはそう頻繁に訪れるわけではないですよね。
だから、どうしたもんかって感じですよね。それで昨日、Instagramで「そろそろエンジェルが来ないかな」って(ストーリーに上げた)。
_エンジェルはそういう意味だったんですね。
(笑)。そう、エンジェルが来ないかなって。エンジェルが来てくれたら絵の完成って見えるんですけどね。
_色彩へのこだわりは深澤さんの制作における中核のひとつかと思いますが、最近のこだわりを聞かせていただけますか?
さっきもエンジェルが来ないかなって言ってたんですけど、エンジェルが来るとやっぱり感性が絵の完成に向かうわけなんですよ、自分がビビッとくる、今の感性で感じる色だったりとか。形の出し方だったりとか。腑に落ちてればいいんですけど、腑に落ちない色で完成させるっていうのはちょっと無いかなって。ちゃんと自分の感性が良いって言ってくれるまで待つというか、手を加えるんですけど。自分が納得しなかったら終わりではないじゃないですか。だからそこらへんは結構辛いところかな。
_その時々によって、また作品によっても違いますか?
作品によって一枚一枚違うから、だから、あんまり鮮度は落ちないと思うんですよね、絵の。同じ作業の繰り返しじゃないから。
_作品毎に新しい自分の腑に落ち方っていうのがあるっていうことなんですね。
_描く風景を選ぶ決め手みたいなものはあるのでしょうか?
それはやっぱり、行った土地であったりとか。後ろの絵なんかはもう何回か描いている構図で、お気に入りの構図なんですよ。
これは豊島で、下に道があって、海があって、空があるっていう構図なんですけど。やっぱり気に入っている構図はこうやって描いてみたりとかしながら、結構これって抽象化されてると思うんですよ。今回もっと作品が抽象化していくと思っていて、だから花とかを描いた時に、隣にこれとかこれがあってもおかしくないだろうとか。一個とりあえず描いてみて、そこからなんか出てくるっていうか。そこから作ろうって思うことがありますね。一枚の絵から反応して、複数の絵に反応していく感じはありますね。あと自分の土地感は大事にしています。国立に住んでいたら国立を描くっていう。
《瀬戸内のみかん畑》キャンバスに油彩, H117x W91 x3cm, 2023
これは実は瀬戸蜜柑なんですよ。ヤシに見えますよね。違うんですよ。ここに描かれてるやつって全部嘘なんですよ。全部嘘っていうか、なんていうのかな。僕が作っているから、実際と違う形になっちゃってるんですよ。だけど、絵の中では本当というか。絵の中での世界を考えた時に、細かく描くのが本来のみかんだったりするんですけど、絵の中でそれをやっちゃうと感性が反応しないな~とか、やり取りの中で絵具が積み重なっていく。それで今の状態がこれなんですよ。だけどこれはまだ描き途中です。これは半年前から描いてるから、その、なんか、完成させられるかどうかわかんない。
_今、筆の置き所で迷っているところはありますか?
手前の蜜柑を見せないといけないから、上の空間をどうしようかなっていう感じです。このままでいいような気もするし、完成って言われたら完成にも見えるし、ただなんかこう、動きとしてまだ手を入れる余地があるなら、手を入れてもうちょっと粘った方がいいなと思うし。あんまり人がこれ完成でいいよねって言ったの僕は信用してなくて、自分がちゃんと納得して、完成したなって思わないと。それ(納得していない作品)を世に発表しないことは大事かなって思います。
_自分が納得していないものを出してしまった後悔の気持ちは、引きずってしまいますよね。
僕は観ている人を舐めてないんですよ、観ている人の目を信じているからこそ、侮れないっていうかね、そういうものが市場に出ちゃうっていうのがね。
_以前伺った時は25分ルーティンをされていると仰られていましたが、今も続けられていますか?
あれはやめましたね(笑)。前は落語とかUVERworldとか、わりとロックなのを聴いてたんですけど、最近はラップを聴いています。鎮座DOPENESSさんとか呂布カルマやR指定、Creepy Nutsといったラッパーさんが好きで聴いてます。普段の制作の時はヘッドホンでやってますね。
深澤さんの制作中の様子
_制作中に音楽を聴くことは制作に作用しますか?
外界と遮断しているんでしょうね、きっと。外界と遮断して、そのリズムの中で筆を動かすっていう意味では、すごい役立っているものだと思います。自分の世界に入り込む。
_絵具の話しに戻りますが好きな絵具の種類や筆、メーカーなどのこだわりはありますか?
画材とかも飽きないように変えています。これはクサカベなんですけど、クサカベの量が多いけど安い絵具とか、量は少ないけど高いminoっていう一番グレードの高い絵具とか。持ってみると固さが違うんですよ。その質みたいな物って絵具が安いから安っぽいわけじゃなくて、その特性があるんですよ。透明色といって、透明に描ける絵具だったり、隠蔽度の高い塗りつぶせる絵具だったり、その絵具のメーカーによっても違う。同じ色って言って出してる色でも違うし、同じクサカベのminoでも色が一緒でも違ったりするんですよ。使ってみないと分からないですね。使うと自分に合っているなって(分かる)。
これはマツダ、レンブラント、クサカベ、マイメリ。(※絵の具の種類)
_こういう画材との出会いは、買ってみてという感じでしょうか?
そうですね、買ってみてって感じですね。まず、同じ黄色でも、透明になるか、隠蔽性が高い黄色かどうかとか。どちらかというと僕は透明色のほうが好き。ちょっと現代チックなほうが好き。お客様も多分透明色の方が好き。隠蔽色の下地の上に透明色が入っているイメージなんですよね。それを何度も繰り返しているから変な色合いになってくる、普通に一回じゃ出ない色になってくる。だから厚く塗って薄く塗ってを繰り返して、そこで僕のオリジナリティみたいのが出てくる。
_それは深澤さんにしか出せない色ですね。
そうですね、僕にしか出せない色ですね。
_色も同じ規定量で塗るわけではないと思いますし、一期一会ですね。
そうですね、その時その時にしか出せない色だったりしますね。だって季節も違うし、気温も違うし、湿度も違うじゃないですか。自分の内面とか、趣味とかも変わっていくわけじゃないですか。そういう吸収して出すみたいな、アウトプットみたいなのが毎回違う。すごく自分は飽きっぽい性格だと思っていて、飽きやすいんですよ、色んな物事に対して。だけど、絵だけは飽きない。まあそういう理由かな。なんかね、満足しないですよね。何事に対しても。だからいつも反発してるみたいな。そこをね、上手くギャラリーがあしらったり、受け止めたりとかしながら反応して絵を作ってんのかな。僕一人で作ってるんじゃないんだなって感じがします。
_絵具の盛り上がり、厚さはメディウムを使用しているのでしょうか?基本的にすべて絵具ですか?
具のみですね。メディウムはほんとに使わなくて、速乾メディウムとか使うと早く乾かせたりできるんですけど、そういうことは一切やってなくて。それはなんでかって言うと、鮮度が落ちてしまうからです。たぶん観ている人はわずかにしか分からないと思うんですけど。その僅かな色の綺麗さって自然乾燥じゃないと引き延ばせない部分があって、たぶんそれバレると思うんですよね。バレなきゃいいっていうと、そういうことではなくて、あるがままで乾燥させたいから、複数枚(並行して)描いたりするんですよね。
_同時並行で描かれる時は景色が頭の中で混乱することはないのでしょうか?
ないですね、それはないです。自分の世界で一枚の作品と向き合うので、一枚一枚違います。テンション感が似たようなものは、こっち描いたらこっち描こうみたいなのはありますけどね。
深澤雄太さんのアトリエ
_以前「固定観念を壊しながら、絵の上で表現するというバランス感覚が大事」と仰っていましたが、その感覚は今の制作にも通じるものがありますか。
ありますね。何事もバランス感覚だと思うんですよ。それって絵を描いていない人もバランス感覚を持っていて、例えば、ものを強く言ってしまった後には、柔らかめに言った方が良いかなとか。人って反応する訳じゃないですか、人に対して。だからなんか普段皆さんがとっているコミュニケーションと一緒のように、絵も一緒で、ちょっと強いアクションペインティングをいれたらちょっと横から支えてあげる、優しい仕事をいれてあげるとか。そういう対話って、絵も一緒だなって
_先程ピカソのお話をされていたように、足し算と引き算の話しにも通じるところがありますね。
その人のバランス感覚がその人らしさみたいな。
_何がバランスが良いと決めるかもその人の個性ですよね。
主観で描いているからこの絵が良い絵なんだなとか、この絵は悪い絵だなとか、みんな分けて考えられるし。
<インタビュー動画>
展覧会情報
深澤雄太「soul」
2023年9月21日(木)~10月21日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊日:日月祝
*初日の9月21日(木)のみ17:00-19:00営業。
*オープニングレセプション:9月21日(木)18:00-19:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
深澤雄太 Yuta Fukazawa |