深澤雄太は1996年東京都生まれ、2019 年東京藝術大学絵画科油画専攻卒業。
何気ない日常のワンシーンを鮮やかな色彩表現と大胆なストロークで叙情性豊かに美しく描き出します。
tagboatの新ギャラリーにて個展「soul」を開催する深澤雄太さんのアトリエにて、制作についてお話をお伺いしました。
インタビュー・撮影:眞岸花菜、植松苑子
深澤雄太 Yuta Fukazawa |
-作家活動をされる中で、嬉しいまたは悲しいと感じる時はありますか?
嬉しいのは、やっぱり作品が売れた時ですね。逆に悲しいのは、作品が売れた後に残る空虚感。それは自分のバランス感覚だなって思うし、嬉しいことがあるとすぐ悲しくなります。なんか嬉しい時程、後に振り返ってみるとすごい悲しい。具体的に何かって言われると困っちゃうけど。
-深澤さんはご自身のファンの方々をとても大切にされていると思いますが、ファンである通称「あおいさん」についてお伺いさせてください
僕は、一人対一人の人間として絵を売ってる商売をしているので、ただ同じもの、量産されたものを売っているという意識とはまたちょっと違う気がするんですよね。一個一個に想いとか、自分はこういう人間であるとか(を込めて)、自分を売る商売だと思うんですよ。ファンの方々は、それに付き合ってくれて、向き合ってくれて、認めてくれているからこそ、そこにお金を出して絵を買ってくれると思うんです。そういった人たちのことを顧客やお客様というようなカテゴリで括りたくなくて、自分が向き合った結果、「あおいさん」という呼び方になりました。ブログを見てくれていたりとか、Instagramをウォッチしてくれてたりとか。なんかもうそれって、ただ商品を買ったんじゃなくて、自分の一部のように思って触れてくれていると思うんです。
僕の言葉や絵がノイズだと感じる人はいると思います。強い言葉とかって、時に人を傷付けたりとか、そういう意味で解釈されてしまうんだという悲しさもあるんですが、一方で、ただそれに救われている人もいる。毒は薬にもなるって言うじゃないですか。薬って要は毒だと思っていて、アートも綺麗なものだけじゃなくて、汚いとされている「馬鹿野郎」、「こん畜生」みたいな感情も形を変えて絵になるようにすれば、薬にもなるのではないかと。そういう部分を全部含めて「美術だ」と僕は言っているんですけど、それを受け入れてくれた人は、お客さんじゃなくて「あおいさん」と呼んでいます。
自分自身の努力も不自然だと思うんですよ。努力するってことは本来無い自分を手に入れようとするという人間の欲望じゃないですか。だから、僕らは頭が痛くなったり、おなかが痛くなったら、薬を飲んで正常な形になったと思っているけど、それは全部自分を歪めているということ。植物とかも針金で縛り、人間が歪めたものを売って綺麗だと言っていますが、そういう闇を言葉にしてしまうとグロテスクなものになってしまいます。人が目を当てられないものを絵で美しく見せるというのが、僕たちのやることだと思っています。
植物も深澤さんにとって重要な存在。手前の水槽には可愛がっているウーパールーパーが。
-そういった感情は制作の時に自然と作品に込められていくものなのでしょうか。
制作中に作品と向き合っている時って正直何も考えてないんですよ。だけど、普段からこういうことを考えているということが大事だと思っています。(普段考えていることが)自然と絵に全部出ると思うんです。本当に身体一本。首の皮一枚という感じで、体当たりしていかないと絵なんて買ってもらえないと思っていて。その辺りを総称して「あおいさん」たちに立ち向かう為に、(あおいさんたちが)敵ということではなくて、人と人として向き合うにはそこまでやらないといけないと考えています。
-これから深澤さんの絵に初めて触れる方もどんどん増えていくと思いますが、そのような方にはどのように作品に触れて欲しいですか。
まず、感情的に好きか嫌いか。そして、好きだったら買ってみて、家に飾ってみて飽きてしまったら仕方がないし、ちょっと違うなと思ったら一度外して、3年5年後にまた蓋を開けてみて、それを飾ってみたらしっくりくるかもしれない。長い目でやっぱり見る楽しさというか、そういうのも大事だと思うし、それが現存している作家さんの面白味かなと思います。生きている人だからこそ、ブログやInstagramでの発信も続けられる。そして、その人が描いた作品を持っているということが重要だと思っています。
-「作品を買って暫くしてから飾ってみて、しっくりくることがある」と仰っていましたね。買った側の人の心境の変化であったり、生活の変化などそういうものを含めて、タイミングが合った時に初めて作品を受け入れられるということもあったりするのかなと思いました。
まずは、直観的にかつ感情的に見てもらってというところからですね。人は理屈的に考えようとしがちだと思うんですけど、そういうところは取り払って、作品を見ることに体当たりになってほしい。お客さんも、色々なものを全て脱いで、例えば社長さんとかも一回その「社長」というのを捨てて、一人の人として絵を見る。僕も「画家」というのを一回全部捨てて、一人の人間としてお客さんと話す。絵を見る時はそうしていいんじゃないかなって。多くの人は、無理に理解しようとしたり、わからないといけないみたいなことを考えがちなんですよ。この絵が分からない、この絵は分かるとか。そうして知ったかぶりをしてしまう方が恰好悪い。知ったかぶりをしないで、分からないものは分からないって言えた方が人としては僕はかっこいいと思います。
-タグボートで9月に開催する個展に向けて、現在の大まかな構想や作品のモチーフなどについてお伺いさせてください。
まず、国立市で感じたことを描きたいです。この1年は、その土地に住んでその土地の食材を摂ることで、そこに住む意味というのを考える1年でした。体調も崩しましたし、自分のメンテナンスという意味でも大事だなと思いましたね。身体を壊している中でも、例えば『火の鳥』などの漫画を読んだりゲームをしたりとか、そういう趣味の時間というのをちゃんと作りました。そういう時間があるからこそインプットとアウトプットが多分上手く出来ると思うんです。それだけの時間はあったと思うんですよね。あとの3か月は気合と根性で沢山作品を描きます。(※インタビューは6月に行いました)
(左)東京・国立市の谷保天満宮にて。
(右)《国立市の何でもない風景。》キャンバスに油彩、117x 91 x3cm、2023年 ※個展出展予定作品
-そうすると、モチーフは自然と国立市の風景になってくるでしょうか。
そうですね…国立市のものが多くなってくるし、あとは豊島(てしま)ですね。島との関係性というのが僕は結構強いと思っていて、すごく大事に思ってるんですよね、島を。ただ住んでいただけというのではなくて、その島で人と人との繋がりみたいなものも形成されますし、その形成したものを島の人に見てもらいたいという気持ちもあります。
-深澤さんと豊島の繋がりについて教えてください。
僕は中国・上海の朱家角という田舎町に1か月だけ滞在していたことがあるんですけど、その滞在中にコロナが起きたんですよ。急遽日本に帰らないといけなくなって、なんとか帰って来られて。そこから本当はイタリアのフィレンツェにいく予定だったんです。でも、まだ外出禁止令が出ていない時にちょっと豊島に行って息抜きで滞在していたら、「フィレンツェなんて今行けないよ」という話しになったんです。「それだったら、うちの近くの家が一軒空いてるから、そこに住んでみないか」というところから豊島との繋がりがスタートしました。そこから4か月くらいいたかな、豊島に。その間に食料を自分で採って来たり、魚を釣ったりして。あと、瀬戸内レモンっていう瀬戸内で育ったレモンを農家さんが持ってきてくれたり、その持ってきてくれたレモンを絵に描いてみたりとか、島での生活と自分が創る絵が響き合ってて、すごく創作意欲を掻き立ててくれたんです。それが僕にとっての島であり、憩いの場でもある。創作の源になって、息抜きをする場でもあって、日常の人間関係を忘れ去らせてくれるような、ある種の物理的に遮断させてくれる場所です。
-予期せず色々な状況が重なり、豊島に滞在することになって、結果的に深澤さんにとってとても大切な場所になったということなんですね。
(豊島に)山があるんですよね。ちょうど4月の春頃にその山に桜が咲いてたんですよ。その桜が咲いてるのを(作品名《舞い散る豊島の桜》)を描いんですけど、その絵が「KinKi Kidsのブンブブーン」というテレビにたまたま、「なんか絵ない?」って德光さんに言われて出ることになって、それを島の人に見てもらえたということがすごい嬉しくて。そういう奇跡が、奇跡というかそういう運命であったかもしれないけれど、何か重なっていって良い方向に行くっていうのが今後もあれば嬉しいなって思います。そういうストーリーがあったりする方が、自分が描いて、後からあの絵は良い絵だったんだなという気持ちになったりすることがあるかもしれません。
参考作品:《舞い散る豊島の桜》キャンバスに油彩、53x 53 cm、2020年
-深澤さんがアトリエをお引越しされたように、タグボートもギャラリーを移転しました。昨年度の個展とは異なるスペースで展示にされることになりますが、どのような展示にされたいでしょうか。
(タグボートの新ギャラリーの)天井が高いですよね、まず。4m半ちょっとくらいありますよね。だからそれに負けちゃいけないんですよね、作品が。その空間を、強い言葉で言うと「支配しないといけない」と思っていて。そこら辺はめちゃくちゃ大事にしたいなって思って。だからその空間の広さに作品が呑まれないように、作品に惹きつけられるような、ぐっと密度の詰まったものを展示しないと空間に負けてしまうというのがあります。
作品が大きければその空間を支配できるのかっていうと、そんな簡単な話でもないと思っていて、小さい作品でもちゃんと作品がパンッと見えてくるように、やっぱり強いものを描ききらないといけない。…これが言いたかった(笑)。大きいのを描けばいいっていう訳じゃないんですよね。
-以前「今回の個展が一つの潮目になれば」と仰っていましたが、深澤さんにとって今回の個展が持つ意味合いはどのようなものになりますか。
んー、正直全く考えてないんですよね、そこは。どんな意味になるのかっていうのは、今のインタビューもそうですし、タグボートさんと作っていくことになると思います。どんな意味を持つかって、決め打ちはしないでおこうと思っていて、こういうやつにして、こういうエピソードで、こうなってこうみたいな。終わった後から気づくものな気がする。「あー、こういう展示だったな」とか。「こういうことがエピソードとしてあったな」とか、後から見えてくるんじゃないかなと思っています。とりあえず、まずは作品をつくることがミッションだなと今日話していて思いました。
-事前に伺うのは野暮でしたね。
逆に、タグボートさんから深澤雄太にはこういうことを期待しているとか、こういうのをやって欲しいていうのはあったりしますか?
-深澤さんに自由にやっていただいて、納得の出来るものにしていただく、それを叶えられるように私たちがどれだけサポートできるか、みたいなところですね。やりたいだけできたなと思っていただけたら、私たちとしては一つの成功だと思います。
まあ、そうじゃないと僕が納得しないですしね(笑)。満足することはないと思うんですけど、やり切ったとは思うと思います。前回のタグボートでの個展(2022年3月)でもかなりやり切ってしまった気がして、「tagboat Art Fair 2023」と個展、「TAGBOAT ART SHOW」や「CORE」(共にグループ展)もありましたし、なんかねすごいやり切った感じになっちゃったんですよね。その後の空虚感ですよね。それは正直あったかな。
《晴天に木々が並ぶ風景。(国立市)》キャンバスに油彩、65x 53 x3cm、2023年 ※個展出展予定作品
-少し前にお話を伺った際に、「具象から抽象へと作風を変化させている。いわば過渡期になる」と仰っていましたが、それについて今後の方向性であったり、予感みたいなものはありますか。
んー、予感はないですね(笑)。何だろうな、その抽象画になっていくってことは、決してネガティブな意味ではないんですけど、ある意味、自分が変化したり進化するという肯定的な捉え方として抽象化していくんだろうなと思います。
細かく描けば描くほど分かる絵になってしまうんですけど、抽象化されていくことで、分からなくなった時に面白いと思わせるもの、例えば深澤雄太が描いたんだなと思わせる色合いだったり、作品が放つ雰囲気だったりというものを極めていきたいです。パッと見て深澤雄太の作品だって分かればいいですよね、どれだけ手を加えたからとか、そういうことで作品の判断基準を決定するところからちょっと脱したいという気持ちはあります。オリジナリティの追及ですね。
サイ・トゥオンブリー(Cy Twombly, 1928-2011)みたいに「シャッシャッ」って飛ばしながら、「俺はもうサイ・トゥオンブリー」だってなればそれでいいんですけど。そっちのほうが沢山の人から求められれば、描けますしね。ただ、楽をしたいっていうことではなくて、苦しみながら常になんかそういうことを模索していきたい。
-数多くの試行錯誤と苦労を伴うんだろうなというのと、それまで自身が培ってきた一つのタイプを変化させていくというのは難しいだろうなと思うのですが。
あー、でも、それは僕にとっては難しくないんですよね。それが楽しいんです。
-変化を楽しめるというのは強いですね。
飽きちゃうんですよね、同じことやってると。人が買った絵を飽きるっていうのはある意味失礼な話なんですけど、あおいさんたちはあおいさんたちで、そこはすごく深澤雄太の成長を期待してくれているということだから、進化や変化を肯定的に受け止めてくれる感じがするんですよね。
-深澤さんのファンは、「絵を通して深澤さんを見ている」みたいなところがあると思うので、変化している過程も一緒に楽しんでくれるんでしょうね。
だからその時の、その時にしか描けない絵、その刹那的なものの一部をコレクションできているという喜びがあると思うんですよね。
最近リセールとかでも、小さい作品であれば、お客様から「●●年の深澤雄太の作品が欲しかったんだ」とか、直接連絡が来たりもするんですよね。「どうしても欲しくて買っちゃいました」とか。「作家さんからしたら身入りが少ないかもしれないですけど」って言いながら。それでもすごく嬉しいですよね。そういった意味でも、リセールに対しての嫌悪感みたいなのが自分の中で少なくなってきています。リセールでは、過去のその時代にしか買えなかった深澤雄太の絵がまた買えるわけじゃないですか。そういった意味でどんどん循環させていかないといけないというのは、ビジネス的な視点ではすごく重要に思います。
-新しく深澤さんのファンになった方はやはり過去も知りたいと思われると思いますし、今はどうしても手に入らない、過去のある一時の深澤さんが閉じ込められているような作品は喉から手が出るほど欲しいと思うんです。そういう意味でも、リセールは機能するのかなと思います。
リセールの強みを突破できるかできないかって、ギャラリーの強みになると思うんですよ。タグボートで買って、例えばお金がない時にそれでも深澤雄太の新作が欲しいってなったら、深澤雄太の過去作品を買った時よりも高い金額でちゃんと売れれば、また新作が買えるんだとか、そういう風に投資の意味で回せると、お互い幸せになれると思うんです。
難しいですよね、リセールを売るのは。だって、みんな新作を買って応援したいはず。でもタグボートで活動して、100点以上売って、リセールが1,2点出てくる、そして今後も出てくるのは当然なこと。自分がもしキャリアを積みあげていっていないと、そのお客さんに損をさせてしまうというのは、自分のなかで煮え切らない部分がある。深澤雄太の作品買ったけど売れないんだなってなったら、それで離れていくお客さんがいるということも悲しいので。
-最後に、深澤雄太として、今新しくチャレンジしていること、そしてこれから挑戦したいことをお聞かせください。
より自分をコントロールするということですかね。チャレンジとはまた別なんですけど、最近、版画やシルクスクリーンを刷ったりとか、ジークレープリントを刷ったりとか、そういう流れにアーティストが走っていっている気がしていて。アーティストとして大きくなっていくにはそういうことは充分必要なのはすごくわかるんですけど、なんかそこは僕は抗いたいというか。そういうつもりで一応やって、その時が来たらチャレンジングな版画とかは視野に入れてますけど、現段階ではまだそこに抗ってる。その抗っているのをちゃんと伝えたいですかね。なんで深澤雄太はプリント作品を出さないのか、なんで深澤雄太はオリジナル作品にこだわってるのかっていうしぶとさみたいなのを、より多くの人に分かってもらえて、伝えられたらなって。
ある意味時代に逆行しています。風景画を描くっていうこと自体も時代とは逆をいっている。風景画を描くこと自体がちょっと時代へのアンチテーゼというか、皮肉じゃないけど、そういうものになってきています。自分はそういうポジションなのかなって。現代アートで風景画を描くということが普通のことなのに、(そうする作家が)いないっていう。
-確かに、風景画は一つの確立したジャンルなのに、現代アートの枠組みに入るとユニークなものに感じますね。
そこらへんで挑戦しているの作家は実はあまりいないので、知ってもらいたいです。抗ってるよって、挑戦してるよって。でももう、作家として7,8年やってきて同じことができているから、そこらへんは言えるかなって気がします。自分のやってきたことに対して絵は残るので。証明できているかな。
だから、自分は5年後10年後の未来をどうしているか、最近全く想像できないです。だけど、お客さんの中には深澤雄太の5年後10年後を想像している人もいて、その想像に沿えるような、もしくは超えられるような存在でなければいけないと思っていて、そういった意味で続けるってことが大事だと思うんですよ。ちゃんとコンスタントに、無骨に。それは作品の枚数を上げるとか、沢山作るとかそういう意味じゃなくて、自分の体調をコントロールするっていう。ちゃんとその展覧会がある日には力がある作品が出て来るとか。そういうことを愚直に続けてキャリアを積んでいきたい。
-深澤さんが継続して活動しているということを、今以上に多くの人に伝わるようにしていきたいですね。
個展が上手くいけば、一つの深澤雄太のキャリアになる。これで100人ファンができたとしたら、もっと高い値段の作品が取引できるし、僕もキャリアが積めるし、お互いにとってビジネス的な観点ではウィンになるので、まあ、そこらへんが上手くいけばね。バズるかな(笑)。
-深澤さん、貴重なお話をありがとうございました。個展は9月21日から開催予定です。お楽しみに!
展覧会情報
深澤雄太「soul」
2023年9月21日(木)~10月21日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊日:日月祝
*初日の9月21日(木)のみ17:00-19:00営業。
*オープニングレセプション:9月21日(木)18:00-19:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
深澤雄太 Yuta Fukazawa |