2022年10月14日(金) ~11月3日(木)まで、阪急メンズ東京のタグボートギャラリーで
個展を開催中の後藤夢乃さんにお話を伺いました!
|個展のコンセプト
「Venus in Furs」
今回の個展は、L・ザッヘル=マゾッホによる小説『毛皮を着たヴィーナス』から着想を得た作品や小説全体のエッセンスに関わる作品で構成されています。後藤さんはこの小説の核心は「治癒」にあると考え、この「治癒」というテーマに焦点を当てて描かれたのが《A Sancti flaing ad sanitatem sui ipsius》という作品です。最も小説のエッセンスが詰まった作品として、本個展最大規模の絵画になっています。
A Sancti flaing ad sanitatem sui ipsius
|描かれた女性たち
作品に描かれた女性たちは皆同じ存在で、そこから分裂しているというイメージで描いています。また神と人間の中間に位置する存在、菩薩のような存在として、あらゆる苦しみを静かに受け入れているのが女性たちの穏やかな表情から汲み取ることができます。
裸婦像ではありますが、性的な印象を持たせる意図は一切無く、あまり肉感を感じさせない、どこか少年のようにも感じられる身体を意識しています。
作品に描かれている女性たちは、後藤さん本人に似ている気もするので意識しているのか尋ねてみると、描かれた女性たちに後藤さんは親近感を感じていて、「意図している訳ではなくとも自然に自分に似てくるのだろう」とのこと。描き始めた時はへその緒で繋がっているような、非常に自分に近い存在ですが、完成が近づくにつれて切り離されていくそうです。梱包する頃には女性たちは自立した存在となっているのです。
|作家活動に一貫したテーマ
作品づくりにあたって常に考えているのは「対立する要素同士の調和」だと言います。
・・・光と闇、聖と俗、純粋と不純、穏やかさと激しさなど。
「聖なるものを聖なるものとして描くのではなく、神聖さを持って表した人物でも娼婦として設定したりと、人物を純粋にどちらか一方に偏った存在としては描かない」 (後藤さん)
今回の作品における女性たちは皆穏やかな表情をしていますが、実は「依り代」として苦しみを背負った存在です。その苦しみといった負の要素が絵画の随所に見られ、質量感を持って激しく渦巻き、ある種の禍々しさを呈している絵の具に表されています。「生け贄」というほど悲惨なイメージではなく、「依り代」と呼ぶのが適当で、穏やかさと苦しみや激しさの調和がここに見られます。
|現実世界と絵画をつなぐ
制作において、絵画世界と現実にいる人々をつなぐ効果をねらっている後藤さん。
それはさまざまなマテリアルを混淆し、幾重にも重ねて質量感を持たせた絵の具に表されています。絵の具が飛び出すようにのせられることによって、絵画は平面性を越えて、現実の空間や人々に働きかけます。そして、近景をまるで現実の地面と繋がっているかのように描いているそうです。
|なぜ過去の絵を引用するのか
例えば、今回の本個展最大規模の作品《A Sancti flaing ad sanitatem sui ipsius》はティツィアーノ・ヴェチェッリオの《マルシュアスの皮剝ぎ》を
《A Sancti flaing ad sanitatem sui ipsius》後藤夢乃 《マルシュアスの皮剝ぎ》ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
《La Venus del espejo》はディエゴ・ベラスケスの《鏡を見るヴィーナス》を題材にしています。
《La Venus del espejo》後藤夢乃 《鏡を見るヴィーナス》ディエゴ・ベラスケス
「魔術の再錬成」
過去の作品は過去の文脈の中で、神話や伝説などと繋がりながらファンタジックな内容を語ってきた後藤さん。それらに「現在」を融合し、ただのファンタジーではなく、現実と地続きなものとして再編成・再解釈する試みをしています。美術史の中で、自分の仕事は何に取り組んでいるのかを示す良い指標になっているそうです。
|今回の展示レイアウトについて
作品自体の持つ空気そのものがそもそも非常に濃厚なため、薄暗い照明は絵のムードを拡張させますが、そうした外的な要素はそこまで重要にはならないそうです。
今回はデパートという環境との折り合いを考えて、白い壁で明るい照明のある空間に設定しました。一つ一つの絵がゆったりと鑑賞できることを第一に考えた余白のある配置になっています。
|最後に
今回個展に出品された作品が完売するほど人気の後藤さん。会場で作品の購入はできませんが、後藤さん独特の重厚感ある展示となっております。ぜひ実物を見に阪急メンズ東京へお越しください。
後藤夢乃 「Venus in Furs」は 11月3日(木) まで!
▼展覧会詳細
http://tagboat.co.jp/yumeno-goto-venus-in-furs/
▼後藤夢乃アーティストページ
https://www.tagboat.com/products/list.php?author_id=1005570
インタビュー:眞岸
記事・校正:板橋、眞岸