2019年8月に開催したアートイベント「Independent Tokyo 2019」。出展者の中からタグボートが選出したアーティストは、2019年12年にニューヨークのマンハッタンにあるWhiteBoxのグループ展に参加いたしました。
今回はニューヨークでの展示に参加したアーティストの一人、KamihasamiさんにIndependent Tokyo 出展からNYのグループ展までのお話を伺いました。
2018年の暮れ、アーティストの知り合いから〈Independent Tokyo〉というアートフェアの募集を聞いた。立体イラストレーターとして活動していた私は、出展作品が決まらぬまま、自身のプロモーションを兼ねて安易に申し込みを済ませた。
これまで、私はアートに対してネガティブな印象しかなかった。好きな作家や作品はあったが、アーティストが語る難解なコンセプトに抵抗を感じ、あまり深く入り込まないようにしていた。
しかし、年が明けて4月に入っても、私は展覧会に出展する作品が決まらない状況だった。あれだけ抵抗を感じていたコンセプトに意識が向くが、そうやって意識するほど手が動かない。展覧会の期日が迫る焦りの中、コンセプトなんぞを考えるのをあきらめ、単純に好きなものの組み合わせで作品を作ることにした。興味のあることを箇条書きにし、選び出したのがタイポグラフィーと建築。それを合体させて制作したのが、出展作品の『Typography house』だった。
Independent Tokyoの会期中は、作品の近くに極力滞在し、鑑賞者を観察しようと考えた。
友達同士で来場してきた女性2人組は、自分のイニシャルのお家を探し、作品に自身を投影しながら生活スタイルについて話していた。
建築を学んでいる学生さんは、作品を見ながら間取りを考えていた。
それぞれの鑑賞者が、作品コンセプトなんぞ気にせず、想像力を膨らませて楽しんでいる。なんだか言葉とは違う、作品を介した新たなコミュニケーション手法を発見した気分だった。
展覧会が終わり、思いもよらず入賞をいただきNYに行く機会をいただいた。
幸い、行きのフライトはTAGBOATの代表・徳光さんと同じ便。到着から市内を同行させてもらえることとなった。
徳光さんの行動は分刻みで動く。初日から次から次へとアーティストのアトリエや、美術館を訪れた。セッカチな私には、このテンポには心地よさを感じた。
2日目はチェルシーのギャラリーを訪問。大きなギャラリーを15分位で次から次へと巡った。華やかなギャラリーが乱立する中、〈Pace Gallery〉のプリント作品だけが置かれたフロアが、強く印象に残った。そこには私たち以外は誰も人がいなかった。レセプションに一人の女性が座っているだけだ。プリント作品は整然と並べられ、大型の作品は区切られた棚の中に立てかけられていた。滞在時間は10分ほどだったが、飾られた名画の中に、自分の作品を飾る妄想をしていた。
3日目は展覧会会場、4日目は個人で朝から晩までNYの代表的なミュージアムを巡った。
5日で組んだ旅程は、ほとんど美術に接する時間で終わった。
帰国後、ふらりと立ち寄った本屋で、今まであまり手にしなかった美術書を手に取り、そのうち何冊かを購入していた。気づくと、これまで嫌っていたアーティストの難解な考えを理解しようとする自分がいたのだ。徳光健治・著『教養としてのアート投資としてのアート』も含まれていたかな…。
Independent Tokyo 2019からNYの展示の半年間は、私のアートに対する考えを変える経験となった。