11月の上海では、アートフェアや現代アートの展覧会が目白押しだ。ART021など主要アートフェアを訪問するために世界中からコレクターやアートファンが訪れていた。
ART021の開催は今年で7回目。
アートフェア内では、先日開催されていたアート台北のように巨大インスタレーションを見せる場もあり、緩急のある構成で見せていた。
その一方、今年で6回目となるWest Bund Art & Designでは、より洗練された展示が見られた。
日本でも国立新美術館での個展が開催されたばかりのクリスチャン・ボルタンスキー作品が展示されていた。
サザビーズが開催する展覧会はアンディ・ウォーホルとジャン・ミシェル・バスキアの二人展。日本ではなかなか見ることのできない大型作品を存分に展示していた。
日本のアーティストである松山智一はKOTARO NUKAGAにて個展を開催し、作品が完売するなど大きな反響を呼んでいた。
West Bund Art & Design が開催されているウェストバンド(西岸)の近くにはギャラリーが立ち並び、上海の大手ギャラリーであるShanghArtや、日本からオオタファインアーツなどが出店している。
更に、パリの美術館であるポンピドゥー・センターが、2024年までの5年間限定でこのウェストバンド地区に設置された。広大な建物に、西洋の近代美術史を網羅した大御所から現代のメディアアート作家まで幅広いラインナップで展示されている。
燃油タンクをリノベーションした美術館TANK SHANGHAIでは、展覧会「原力寺」が開催されており、映像を織り交ぜたインスタレーションが設置されていた。今後もウェストバンドはますます盛り上がるエリアとなるだろう。
明圓美術館などが近くにあるShun Art Galleryでは、タグボートのアーティストである新藤杏子の個展が開催されていた。
上海の街の女性を題材に取った作品である。
このギャラリーがあるフランス租界の区域は、洋風の建物が立ち並ぶ瀟洒なエリアである。
さて、アートフェアやギャラリーでは平面、立体などの作品なども見ることができたが、美術館ではなんとほとんどの作品が映像だった。
K11という美術館では、企画展の作品のほとんどがVRを含む映像作品。
Rock Bund MuseumではHUGOBOSSのASIA ART 2019入選者展が開催されており、大きなスクリーンや液晶を複数駆使して大胆に見せる作品が展示されていた。
また、Rock Bund Museum の近くにあるPerrotinの上海支店では、今回のアートフェアでも人気のあったジャン・ミシェル・オトニエルの立体作品や、ピエール・スーラ―ジュの大型平面作品が空間をフルに使って展示されていた。
ところが、数多くの美術館が意欲的な展示を開催している一方で、敷地を余らせていたり、十分な集客ができる企画展が開催できていなかったりと、運営に問題を感じる美術館も見受けられた。
今回訪れたYuz Museumでは、アートウィーク中であるにも関わらず、SNSで拡散され目玉作品となっているRain Roomが故障し修理中であったり、建物の一角でしか企画展が開催されていなかったりし、館内は閑散としていた。
日本と比べて広大な美術館は数多くあるものの、その中に入る企画が追い付いていないのである。
しかし、今回上海を訪れて強く感じられたのは、香港のように欧米アートマーケットのやり方をそのまま持ち込むのではなく、アジアローカルのアートを世界にアピールしようとする気概を感じさせる展示が多いということだ。上海は本当の意味でアジアのアートの中心地であり、強力な発信地なのだ。
中国本土はネット検閲など情報規制がますます激しくなり、店舗や交通機関での支払いも電子化されてるなど、更なる監視社会化が進んでいる。都市部では音楽の歌詞も検閲が厳しくなっているようだ。
しかしアートマーケットは規制に対抗するかのようにますます白熱し、世界からも注目が集まっている。
日本からたった数時間飛行機に乗るだけで、世界のアートマーケットだけでなくアジアのアートマーケットの両方を展望することができるのだ。
ポンピドゥーセンターも兼ね備え、アート熱が加速する上海。
プロを志すアジアのアーティストにとって、今後ますます可能性の広がる地となるだろう。