今回は、新ギャラリーにて開催していた個展「about a portrait」(2023年6月8日〜7月1日)の出展作品について、現代アーティストの増田恵助さんに様々なお話を伺いました!
インタビュー:隅田
増田恵助 Keisuke Masuda |
– 増田さんが描かれる人物はどれも可愛らしい印象ですよね。ギャラリーの外から作品を見て思わず入ってきてくださるお客様もかなりいらっしゃいます。
昔から可愛いものが好きだったんです。ガンダムのプラモデルを集めるにしても、普通のサイズのものよりミニサイズのものの方が気に入っていましたね。どの作品にも後ろにハンコを押しているんですが、それも可愛いと思うからというのが理由です。
– 確かに、猫だったりとすごく可愛いですね。しかも作品ごとにデザインが違いますね。裏側まで凝っていると作品の特別感が上がるように思います。人物たちはどのようなキャラクターをイメージして描いていますか?
自分は学生時代から漫画やアニメが好きなんですけど、そういう作品に出てくる主人公って大概10代くらいなんですよね。その影響もあって、まだ柔らかさの残る、成熟しきっていない人物像が自分の中で理想になっている感じがします。大人じゃつまらないんですよ (笑) 。
– なるほど。最近描かれているのはどれも中性的な人物ばかりですよね。展示されている作品を見ても、一見女性らしいものの、よく見ると巧みに境界がぼかされていることが分かります。
はっきりと性別を示さないというのは意識的にやっていますね。人は外見について何を持って性別を判断しているのかというのは常に疑問に思っているところです。
– 人物の造形一つをとっても様々なこだわりや考えが表れているんですね。
今回の個展では会期を通して本ギャラリー初となるライブペインティングを披露していただきました。制作の様子を間近に見られる貴重な機会になったと思います。制作用の自作のトルソも展示されていましたが、いらっしゃる方々の関心を集めていましたよ。
確かに何も見ずに描くことはできるにはできますよ。ただ光の反射や服のシワの再現などが難しくリアリティに欠ける仕上がりになってしまうのが問題で。生身のモデルは使いませんが、必ず写真やこういったトルソーなどを見ながら制作します。あとは単純に、実際の人間と違ってトルソーは使い勝手も良いので。
– 確かに、増田さんの作品は素材の質感の描き分けも見どころです。見事なネックレスの透明感も、本物を見本にしているからこそ可能な表現なんですね。増田さんの作品は人物だけでなく、背景も面白いと思います。特に花柄など、人物のリアルさに対して平面性が際立っているものが多い気がしますが。
全体の画面をより印象的に見せることを意識しているうちに、背景は人物との対比で自然と平面的かつ抽象的な方向になりました。これまで伝統的な肖像画の様式を意識して花柄を使うことが多かったんですが、最近はちょっと花柄は古いかも…とも思い始めてるんです。以前はウィリアム・モリスのパターンを使ったりなんかもしていたんですけど、やっぱり古いなと。
– では新しい背景を模索しようとなさっているんですね?
そうですね。今以上に平面性や抽象性を推し進めた表現ができたらと思っています。
– 背景といえば、今回は珍しくリアルな空模様をバックにした人物像も描いてらっしゃいますよね。これは平面性とはまた別の試みであるように思われますが?
それはそうなんですが、美術史上の肖像画を意識した上での表現という点では同じですね。空を背景にした人物像はルネサンス期の作品でかなり多く見られた形式なんです。
– なるほど。常に過去の作品とのつながりを意識して制作なさっているんですね。増田さんは2017年から「絵の中の絵」をコンセプトに加えて制作なさっていますが、今回の作品もきっとそのうちに入りますよね。
すでに出来上がっている模様をわざわざ改めて絵に描くのが昔から好きなんですよ。さらに言うと、布上の模様の歪みとか、あるはずの部分が見えなくなったりするといった効果が面白くて、模様や画像がプリントされた服を使って画中画のようにする「絵の中の絵」シリーズを始めました。今回個展用に描いた人物が着ている服も全てプリント入りですから、その流れのうちになりますね。
– 模様がプリントされた服を選んでいるのはそうした理由からだったんですね。そうしたコンセプトとはまた別に、お客様からは「可愛い」と評判をいただくことが多い要素でもあります。最後に、服の繋がりで個人的に聞いてみたいと思ったことなんですが、どの人物も割に存在感が強めのネックレスを身につけていますよね。何か理由があったりするのでしょうか?
そうですね。好きな漫画シリーズに「ジョジョの奇妙な冒険」があるのですが、そこに出てくるキャラクターの服装だったり、数年前のグッチのコレクションだったり、色々な自分の気に入ったスタイルからの影響が強いです。やっぱりこれも好きなものから来てますね。単純に金属だったり半透明だったり、異素材的モチーフを画面に入れるとアクセントになるからというのも理由の一つですが。
– そんな背景があったんですか。増田さんの人物のユニークさを加速させていますよね。緻密に描かれているので、綺麗さに思わず目を引かれてしまいます。お話を通じて表現の裏側にある多様なアイデアに触れることができ、作品の面白さがさらに増したように思います。そして何より、増田さんの制作の根底には様々なものへの「好き」という思いがあることが見えてくるようです。増田さん、貴重なお話をありがとうございました!
増田恵助「about a portrait」
2023年6月8日(木) ~ 7月1日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊日:日月祝
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F