弊社主催のアートイベント「Indepnedent Tokyo 2022」において、約180名の参加者の中から見事タグボート特別賞を獲得したアーティスト6名の展覧会「Independent Tokyo 2022 Selection」を、2023年1月6日(金) ~1月26日(木)まで開催いたしました。
今回は、その6名のアーティストの方々にお話を伺いました。
1995年沖縄県出身のHAYATO MACHIDAさん。
独学で絵を描き始め、21歳時に留学していたNYで照屋勇賢氏と出会い、帰国後にアーティストとして活動を始めます。両価的感情をコンセプトに、近年は感情や感覚が素直に反映した顔のあるお花のモチーフを中心に作品を制作しています。
|今回の出展作品について
日常のひとこまをテーマに制作しています。
「Party」は都会的な賑やかな東京をイメージ。
「ロックンロールは、、、!」は神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴りやまない」を聴いたご自身を絵に描いています。
「サンデーモーニング」は、日曜日の休日という安らぎと、明日が来るという憂鬱な気分を持ち合わせた複雑な気持ちを、片方の窓には豪雨、片方は家族との朝食風景として描いています。
「最後の帰り道に」は「死」というものを考えることについて制作した作品です。
背景には沖縄の伝統工芸「紅型」の型紙を使った技法で模様を描かれている作品も多く、エネルギッシュさを感じ取れます。
Party
ロックンロールは、、、!
サンデーモーニング
最後の帰り道に
|my flowerとは(お花のモチーフ)
どの作品にも登場する顔の付いたお花「my flower」は、元々昔から落書きとしてよく書いていたもので、MACHIDAさんご自身を投影したようなモチーフです。数年前は、現在とは違う雰囲気の沖縄独特の鮮やかな色彩の作品でしたが、徐々に沖縄の印象・雰囲気が強いことがコンプレックスになり、落書きで描いていたmy flowerを描いている方がより自分の思い、気持ちに寄り添っていると感じ、my flowerをモチーフに描き始めたのがきっかけだそうです。
そんな全てのmy flowerには、白色で涙が描かれています。常に社会の中で自身がマイノリティとしての存在に葛藤し、社会から否定されても生きていくことをやめることはできない、やめたくない。そんな複雑な感情を持つことで流れる「涙」ですが、その「涙」が自分を勇気づけてくれるとMACHIDAさんは言います。そのような両価的感情を白い花びらにも似た「涙」として表現しています。
「涙」というものは悲しみや辛い出来事を経験をしたときに出てくるものですが、涙を流したあとに気持ちがすっきりして軽くなっているように、MACHIDAさんにとって「涙」は前に進もうというポジティブな気持ちにさせてくれる存在です。
|白い花びら
my flowerとは別にすべての作品に共通して舞うように描かれている花びらも涙のような存在です。
MACHIDAさんはお花が好きで多くの作品に登場しますが、ある時、人間は蕾がひらいた一番綺麗とされる状態のお花を花束にしてプレゼントしたり生け花をして楽しんでいるけれども、それは実はすごく残酷なことかもしれないと気付きました。
そこでMACHIDAさんは花が満開となる絶頂期ではなくそれ以外の期間に目を向け、花が枯れて朽ちても、いずれ土に還りまた異なるものに生まれ変わるという前向きな考えとして、お花を作品に登場させています。
|今後挑戦したいこと
作家として作品を売って食べていくにはどうしたら良いのかというところからスタートしたというMACHIDAさん。画力を気にされており、さらに基礎を磨いていくため、今後はもっと多くの作品を描いていきたいそうです。沖縄にもギャラリーはいくつかありますが、沖縄を出てもっと自分を知ってもらうために活躍したいとお話してくださいました。
昨年はindependent tokyoに出展した際に東京での展示の機会を得ることができましたが、今年はさらに東京での展示を増やしていきたいと具体的な抱負を掲げてくださいました。また、20代のうちに個展を開くことが目標です。今年はアーテイストインレジデンスのため韓国へ1か月間滞在されるとのことで、日本だけではなく海外での活動にも挑戦されます。
MACHIDAさんは物事に対する相反する感情を常に意識して考えている印象を受けました。
SNSも積極的に活用されているため、そのような作品以外の発信によって今を生きるアーティストを身近に感じることができます。
《HAYATO MACHIDAさんメッセージ》
▼HAYATO MACHIDAアーティストページ
https://www.tagboat.com/products/list.php?author_id=1007640
2008年 東京藝術大学絵画科油画専攻卒業
2022年 Independent Tokyo 2022 準グランプリ受賞
卒業から10年以上絵画制作から距離を置いていましたが、2020年の新型コロナ流行をきっかけに活動を再開。デジタルツールでドローイングを行いながら、線を描いて消すという絵画の根本とも言える行為を、アナログ技法と交差させながら研究しています。
|出展作品について
「Overlap」シリーズと「painting」シリーズをミックスした展示を行いました。
|素材について
キャンバスだけではなく、変形の木製パネルに作品を描いている海岸さん。今はシナベニヤと合板に描いていますが、側面を削る作業にとても時間が掛かるため、MDF(木材の原料チップを粉状に繊維化してから成形した板)にしてみようか模索中です。最近、アクリルとアクリルガッシュの違いを知ったそうで、素材については日々勉強のようです。
※〈アクリル〉耐水性であり、耐久性が高く、透明感のある画材。
〈アクリルガッシュ〉マットな質感と不透明性、発色の良さ。
|影響を受けているもの
長い間京王線沿いに住んでいた海岸さん。そのため京王百貨店の鳥のモチーフが描かれた紙袋を持っている人をよく見ていたので、作品に登場する白い鳥は何かしら影響を受けているのかもしれない、とお話しされていました。
海岸さんは自分の中のかっこいいと思うものやこれまでの経験、環境などと向き合う形で制作を続けています。今後は出展する展覧会を自分なりに絞って、さらに密度の高いものにしていきたいとのことです。これからの活動にも大注目です。
《海岸和輝さんメッセージ》
▼海岸和輝アーティストページ
https://www.tagboat.com/products/list.php?author_id=1007530
絵画的に構成した作品と、ある人物を四季を通じて撮り続け編集した作品を制作しています。
|展示作品について
今回は、男女の仲をテーマにした3作品を展示しています。
メインとなる『睡蓮沼の二人』に登場する睡蓮の風景は、長野県にある小さな湖で撮影されました。ですがこの湖ではボートを浮かべたモデル撮影の許可が取れなかっ
モデルの女性が口から金魚を吐いている場面。これは実際本当にモデルさんが口に入れて吐いた瞬間とのことで衝撃を受けました。
2匹の金魚を映した『番う』は、『睡蓮沼の二人』で撮影で放った金魚を佐藤さんが飼っていたところ、最後にオスとメスの2匹が生き残り、2匹が丁度重なった瞬間を撮影しました。
のちに、生き残ったメスが卵を産んだそうですが、オスが先に死んでしまったため、孵化することが出来なかったという切ないストーリーでした。
『夜の名前』は、源氏物語に登場する「後朝の別れ」(きぬぎぬのわかれ)という言葉が元になっています。
衣を重ねて掛けて共寝をした男女が、翌朝別れる時に、それぞれ身につける衣から派生して、朝の別れや男女や夫婦の離別を表す言葉として使われていたそうです。また、当時19歳だった女性のモデルさんの人生についても含まれた作品です。
作品の背景には、モデルさん含め、そのような女性の自己肯定感の不足、エアポケットのような不安定な心、一夜を共にした男女に訪れる夜と朝の間の不思議な時間帯を彷徨う浮遊感などを写し出しています。
それらを表現するため、最初は海にベッドを持って行き、モデル撮影をしましたが、波にさらわれて、うまくいかなかったそうです。
後日、自宅の室内に黒い防水シートを敷いて水を溜め、
|現実ではありえないような写真、構図はどこから浮かぶのか。
一見普通の見方だと可哀想であったり不幸だと捉えられてしまうような人たちを、不幸だと思ってほしくないという気持ちから作品が生まれると言います。
例えば『睡蓮沼の二人』において、カップルの女性が具合が悪く吐いてしまう場面は、多くの人は汚いと感じてしまうと思います。しかし美しいという言葉にとても広い意味があるように、吐く場面を美しいと感じたいという気持ちが込められています。
自分が手を貸せるわけではなくそっとしておきたいような、かつての自分を肯定しているような、佐藤さんご自身も言葉にするのが非常に難しいと言葉に詰まらせるテーマでした。佐藤さんは、その言葉に表現できない距離感を宮沢賢治「なめとこ山の熊」に登場する狩猟と熊のワンシーンに例えて、とても丁寧にお話してくださいました。みなさん是非調べてみてください。
|今後挑戦したいこと
工場やコンビニなどで働く外国人技能実習生をモデルに作品を制作したいと語る佐藤さん。工場での撮影になるため、将来金銭的に余裕ができたら挑戦したいそうです。
《佐藤弘隆さんメッセージ》
▼佐藤弘隆アーティストページ
https://www.tagboat.com/products/list.php?author_id=1007550
仏教、山岳信仰、自然崇拝への関心から、自然界の中で獲得する自らの身体的・精神的経験にもとづいた作品制作を行っています。
|展示作品について
今回の展示では、2シリーズの作品を出展してくださった椎橋さん。
「The Origin」シリーズ(2016年~)と「空 / Relativity」シリーズ(2019年~)
「The Origin」シリーズについて
日本、韓国、中国の山岳地帯で撮影された写真を和紙や韓紙といった伝統的な紙にプリントし、手作業でコラージュした作品。山(=生命が生まれる場所)が解体、再結合され、普遍的な生命の形として表現されています。
「空 / Relativity」シリーズについて
山が切り抜かれた空の写真がレイヤー状に組み合わされており、それぞれ異なる場所、時間をもつ「空」の微妙な関係性が鑑賞者の想像力に働きかける作品。
|制作秘話
写真では伝わりづらいですが、作品が完成するまでに壮大なストーリーと長い時間が流れている点も魅力的な作品です。
椎橋さんの制作は、山に登ることからスタートします。登山中に気になる風景を撮影。撮影した写真を和紙や韓紙に印刷して、コラージュしていきます。そして、コラージュした紙を岩や山々に沿ってデザインカッターでカットしていきます。和紙だけだと自立しないため、さらにボードに貼り合わせ、木枠を付けます。
お話を聞いているだけでも時間の掛かる果てしない細かい作業です。一見デジタル作品にも見えますが、写真を手作業で切り抜き、貼り合わせるというアナログなコラージュの手法を用いています。
|作品制作で意識していること
写真をコラージュする時に、実際に山を登っているような感覚で、次のルートを探すように写真を組み合わせているそうです。作品を完成とするタイミングは椎橋さんの中にあるといいます。
|今後挑戦したいこと
「The Origin」シリーズはそれぞれ一つの作品ではありますが、シリーズということもあり、複数でひとつにもなり得ます。シリーズ作品を掛け合わせたような大きいインスタレーション作品を制作したいとお話して下さいました。
《椎橋良太さんメッセージ》
▼椎橋良太アーティストページ
https://www.tagboat.com/products/list.php?author_id=1007660
作品はアナログとデジタルを行き来し、多くの独自の手法を用いて制作されています。
| 出展作品について
Independent 2022でも出展していた「SozoroCollection」を展示。
「SozoroCollection」とは何にも囚われずあらゆるものを気の向くまま「そぞろ」に描いた作品です。
|作品制作について
独学でデザインを勉強し、現在はアートディレクターとして活躍しているYOKOYAMAさん。
作品を発表したのはindependent展が初めてで、初出展にしてタグボート特別賞を受賞し、実力を発揮。YOKOYAMAさんの作品を象徴する波の作品「THE WAVES」は、作品を発表する前からずっと作り溜めていたそうです。
「SozoroCollection」はすべての作品が、16:9または1:1でつくられています。これはキャンバスのアナログをデジタルにした時、デジタルをアナログに起こした時にサイズが同じになるようにわざとこのサイズで制作されています。
independent 2022ではキャンバスの作品と一緒に映像作品も展示されていました。
|制作において困難なこと
モチーフの作品を繋ぎあわせるのが一番難しいそうです。
|今後の作品制作について
キャンバス作品だけではなくて、デジタルを使ったインタラクティブな作品を制作したいとお話してくださいました。
▼TAKAYUKI YOKOYAMAアーティストページ
https://www.tagboat.com/products/list.php?author_id=1007650
明るく軽い色彩や質感に惹かれ、自身で選び取ったそれらを組み合わせ、浮かび上がる景色を切り取って描かれています。
|今回の出展作品を選んだ理由
岡村さんは、弊社主催のIndependent Tokyo 2022にてタグボート特別賞、小山登美夫審査員特別賞を受賞されました。
今回の展覧会にはIndependent Tokyo 2022の出展作品の他に、最新作「encounter」を出展しています。賞を受賞した際小山登美夫さんとお話しする機会があり、小さい作品だけでなく、大きい作品を描いて作家の世界観を表現することを勧められたそうです。そこで今回100号サイズの大型作品「encounter」を展示しました。
|作品それぞれの題材
「encounter」の題材となった場所は南フランスの鷲の巣村の植物園。
岡村さんは断崖の上に築かれたこの町を訪れ、植物園の中で咲く沢山のサボテンはまるで「美しい楽園」と感じたそうです。
その時見た風景を自分の中で分解し、再解釈をした作品が「encounter」です。キャンバス上には赤いサボテンの花や、現実にはいなかった蝶が飛びます。植物園という自然と人工的なものの中に自然のサイクルを見出し、蝶と花の出会い、受粉をここに描いています。
|旅について
南フランスやギリシャなど、旅先でドローイングをする岡村さん。小さなスケッチブックは旅に欠かせないアイテムです。「自然のある場所を選んでいます」とおっしゃる岡村さん。旅先は国内外を問わないそうです。見たものそのままではなく、岡村さんのフィルターを通し、独自の表現でドローイングをしています。この風景をミックスし、下絵へと繋がっていきます。
|絵具について
「flower」は油絵具とアクリル絵具が使用された作品です。大学時代油画を専攻していたこともあり、絵具の持つ美しさから、グラデーション部分は油絵具の重厚感、アクリル絵具の軽さを使い分けています。
|完成するタイミング
例えば絵画は「えのぐの塊」だとすると、作品タイトルが表すものがイリュージョンしたところで止めるそうです。「やりすぎない」ことがポイントです。形が立ち上がったところで完成になります。
▼岡村一輝アーティストページ
https://www.tagboat.com/products/list.php?author_id=1007670
インタビュー:鈴木、関口、眞岸
撮影:鈴木、関口、眞岸
記事・編集:板橋、眞岸