◆現在開催中の足立篤史個展『archive』から展示作品のご紹介です。
(-8/1まで、有楽町駅前、阪急メンズ東京7階tagboatギャラリーにて)
今回は、“Bottom”シリーズ4作品をご紹介します。
全作品1m以上。迫力がありながら、繊細な作品達です。
このシリーズを読み解くのに、まず、チェックしていただきたいのは、タイトルです。
詳細な緯度と経度を意味していて、作品のモチーフと深い関係がある“地点”を示しています。
「Bottom- 26°12’45”N,127°40’51”W」(ミクストメディア(1940-新聞・絵具) 、101x101cm)は、
那覇近郊の海。
那覇近郊の海底にクジラの骨のように、玉砕した戦闘機が眠っているというイメージ=記憶を基に制作した作品です。
「Bottom- 52° 52′ 01.84″ N,4° 08′ 00.88″W」(ミクストメディア(1945年新聞・絵具) 、50x101cm)は、イギリス、北ウェールズの海岸。
この場所で、2007年、65年間砂に埋もれていた戦闘機が海水浴に訪れた観光客によりみつかりました。まさにこの作品のようにそこにあったそうです。異常気象で砂が洗われ、長い眠りから姿を現しました。
ちなみに、この飛行機は、P-38ライトニングという機種で、アメリカのロッキード社が開発した双発単座の戦闘機です。“ライトニング”は稲妻という意味。このとき見つかった機体は現存するP-38では最古のものだそうです。
「Bottom- 32° 31′ 07.38″ N,129° 13′ 28.14″E」(ミクストメディア(1940-新聞・絵具) 、101x50cm)、長崎の五島列島です。
ここは、第二次世界大戦終戦直後、アメリカ軍が武装解除のため、24隻以上の日本の軍艦を爆撃し、沈没させたといわれる地点。
海底に静かに横たわるクジラの骨のように、軍艦が眠っているイメージから制作した作品です。
最後に、「Bottom- 28°13’0” N, 177°22’0”W」(ミクストメディア(1940-新聞・絵具・アクリルキューブ・ LED) 、100x30cm)は、ミッドウェーです。
ここは、ミッドウェー海戦が行われた地点。
1942年6月の戦いで、日本軍は空母4隻、航空機300機を失う大打撃を受けました。その後、アメリカ軍に主導権を渡すこととなり、太平洋戦争のターニングポイントとなりました。
また、この作品は立体作品で、中から照らすLEDライトで、航空機の残骸のシルエットが浮かび上がります。上部からは、蝋がしたたり、まるで戦闘機から漏れた油、はたまた無念の涙を表すかのようです。
全て第二次世界大戦と直接的な関係があるモチーフと地点です。
これは、横須賀市で生まれ育ち、毎年、自衛隊や米軍の基地開放に出かけていた作家のバックグラウンドと深く関係があると思われます。
“記憶を記録する”という一貫したテーマで制作する足立。
この“Bottom”シリーズは、全ての作品が、モチーフと同様、1940年代の実際の日米英の新聞で覆われています。当時の記録と共に、空気感まで伝わるよう。
戦争という重いモチーフですが、“紙”を使うことにより、戦いを終えて、海底(=bottom)で静かに眠りについているような、静謐な安らぎも感じられます。
この“紙”でできた戦闘機や軍艦のBottomシリーズ、どんな捉え方、感じ方をされるかは、ご覧になる方のバックグラウンドで大きく異なると思います。
ご家族と、ご友人と、お一人で、じっくりと観ていただきたい作品です。
有楽町駅前阪急メンズ7階tagboatギャラリーにてお待ちしております。
*全ての作品、写真撮影OKです!