土屋靖之 |
作品を作り始めたのは何歳頃ですか?きっかけはありましたか?
大学卒業後、就職し、仕事に慣れてきた社会人2年目に、近所のアートスクールに通い始めました。
当時、経理部に所属していましたが、経理の仕事は会計基準に沿って進めるため、自己表現の余地がほとんどありませんでした。そこで、仕事とは異なる形で自分を表現したいという想いが強くなり、それがアートスクールに通うきっかけとなりました。
アーティストを志したきっかけは何でしたか?
引っ越しを機に、「伝説の絵画教室」としてタグボートでも紹介されたことのある「ルカノーズ」に通うようになりました。(伝説の絵画教室「ルカノーズ」に行ってきた)
そこでは、現代アートに必要な技法や美術史を学びました。また、Independent Tokyoなどのアートコンペへの積極的な参加も勧められ、多くの方に観ていただき、ご購入いただける作品の制作を意識するようになったことが、作家としての道を志すきっかけとなりました。
作風が確立するまでの経緯を教えてください。
現在は「文房具が主役となる作品」を制作していますが、その作風に至るまでには多くの試行錯誤がありました。
私は広島出身でカープファンということもあり、最初はカープに関連した油彩画やアクリル画を描き、Independent Tokyoにも出展しましたが、まったく手応えはありませんでした。
翌年、同じく広島にちなんでお好み焼きの半立体作品を制作し、再びIndependent Tokyoに挑戦しましたが、これも見向きもされず、この二年間は、私にとって黒歴史です(笑)。
ただ、シュレッダーで裁断した色画用紙を使って、お好み焼きのキャベツを表現した部分には可能性を感じていました。そこで、シュレッダーや、他の文房具も取り入れて制作し始めたのが、「文房具が主役となる作品」シリーズの始まりです。
作品を発表し始めたのは何歳頃ですか?発表するまでにどういった経緯がありましたか?
先ほどお話ししたように、アートスクールの方針でアートコンペへの出展を積極的に勧められ、初めて参加したのが2018年のIndependent Tokyoでした。まさかその後5回も参加することになるとは思っていませんでしたが。
その後、大阪のUnknown Asiaなど、さまざまなアートコンペに参加する中で、真摯に制作に取り組むようになり、他の作家さんの作品に刺激を受けることが増えました。また、一緒に参加した作家さんたちが後に大きく飛躍する姿を見て、徐々に自分も作家としての意識を強めるようになりました。
アートコンペでの繋がりから、2021年頃から個展やアートフェアへのお声がけをいただくようになり、それが作家としての自覚を深めるとともに、作品のクオリティ向上にも繋がっていったと感じています。
アーティストステートメントについて語ってください。
文房具を使った作品を制作し始めた頃、ちょうどコロナ禍が始まりました。
リモートワークが広がり、すべてがオンラインで完結する時代となり、ペーパーレス化が進む中で、文房具が使われる機会も次第に減っていきました。
そんな時、「デジタル化によってビジネスの現場で存在感を失いつつある文房具たちに、アートという新たな活躍の舞台を提供する」というコンセプトが生まれ、私は自分の作品を「文房具が主役となる作品」と位置づけるようになりました。
このコンセプトは、文房具に限った話ではなく、人間の世界にも通じるものと考えています。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む現代では「10年後になくなる職業」といった記事を目にすることもありますが、私たち自身も新しいことに挑戦し続け、自ら活躍の場を切り開いていく必要がある、というメッセージも込めています。
作品はどうやって作っていますか?技法について教えてください。
基本的には、文房具そのものや、文房具を使って加工した紙などの素材を、キャンバスやパネルに反復・密集させて貼り付ける形で作品を作っています。配置の設計は細かく行う必要がありますが、作家としては珍しいと思いますが、私はExcelを使って設計しています。過去の経理の経験が活かされている部分ですね。
最近は、アクリル絵具とモデリングペーストを使って立体的な素材を作り、それをキャンバスやパネルに貼り付ける方法も採用しています。一見、革やゴムのように見えるものですが、実はアクリル絵具で作ったもので、それをキャンバスやパネルに載せるわけですから、私は「絵画」と定義し、「文房具が描く絵画」と呼んでいます。
その作り方についてよく質問を受けるのですが、アクリル絵具とモデリングペーストを混ぜたものをプラスチックシートの上に薄く伸ばし、乾燥させてから使用しています。この手法は、お好み焼きの生地部分を表現する際に使っていた手法を採用したもので、当時は見向きもされなかったお好み焼き作品の経験が無駄ではなかったと感じています。
作品制作で困難な点や苦労する点を教えてください。
テーマを文房具に限定していることから、「アイデアがいつか枯渇するのでは?」と心配されることがあります。しかし、私は思考、想像、妄想することが好きなタイプなので、時間をかけてアイデアを練り上げる過程は、苦労というより楽しみの一つだと感じています。
今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
これまでの作品は好みが分かれることも多かったかもしれませんが、今年から取り組んでいるアクリル絵具を使った「文房具が描く絵画」シリーズは、より多くの方に受け入れられることを目指して制作しています。手応えを感じていますので、このシリーズをさらに発展させ、定着させていきたいと思っています。
また、展示に足を運んでいただき、作品をご購入いただいた方には、ご購入作品の資産価値を高めることで恩返ししたいと考えており、そのためにも作家活動に一層邁進していきたいです。
土屋靖之 |
文房具が主役となる作品を制作しています。
デジタル化によってビジネスの現場で存在感を失いつつある文房具たちに、アートという新たな活躍の舞台を提供しています。
<個展>
2023年 Stationeries(大阪、gekilin.)
2021年 Bang the Bung(東京)
<グループ展>
2024年 100人10 2023/24(東京)
2021年 UNKNOWN ASIA EXTRA 2021(大阪)
2021年 NEO ART(オンライン)
<受賞歴>
2024年 Independent Tokyo 2024 タグボート特別賞
2024年 Emerging Artists Osaka 2024 ターナー色彩賞
2021年 UNKNOWN ASIA 2021 レビュワー賞(飯野マサリ賞・カルドネル佐枝賞)
広島生まれ、広島育ち、東京大学教育学部卒業