1977年岩手県に生まれた清水は、2008年に東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業しました。かわいらしくもシニカルな視点と、巧みな画面構成力で築いた作品世界が人気を呼び、アーティストとしてのキャリアを始めるや否やすぐに頭角を現します。
若手作家の登竜門とも言える展覧会「ワンダーシード」に大学卒業後3年連続で入選し、アート界の話題を集め、2016年に行われたタグボート主催のIndependent Tokyoでは見事にグランプリを獲得し、ニューヨークでの展示の機会を得ました。
着実にアーティストとしてのキャリアを築き上げるなか絶え間なく描き方を模索しつづけ、2018年、絵具を拭き取ることで、白と黒の中にモチーフが印象的に浮かび上がる現在の技法に至ります。渾身の新作で挑んだTAGBOAT AWARDでは見事グランプリを獲得し、海外での発表の場を広げました。
絶えず進化し続ける作家の現在の心境を伺いました。
清水智裕 Tomohiro Shimizu |
ー絵を描き始めたのはいつ頃ですか?きっかけはありましたか?
絵を描くこと自体は幼稚園の頃から好きでした。親や先生がほめてくれることでますますのめり込んでいったことを覚えています。
中学になってからは途絶えていましたが大学で理系に進んだとき、その反動からか急に昔の記憶がよみがえり、趣味で油絵を描き始め、絵画教室に通ったりしていました。
ーアーティストを目指そうと思ったのはいつ頃ですか?きっかけはなんですか?
以前はIT系の会社に勤務しており、システムエンジニアとしてプログラミング作業を行う毎日だったのですが、自分が何かをやったという実感がなく、そのことが強烈なストレスになっていました。
その会社を辞めるタイミングで今度は全く逆の、具体的なモノを作る仕事をしたいと思い、以前から趣味だった絵画を本気でやってみることにしました。
いわゆる“油絵”のイメージとは違う村上隆さんや奈良美智さんなどの現代アーティストの仕事を知ったことも大きかったです。
ー作風が確立するまでの経緯を教えてください。
以前はキャンバスに隙間なくびっしり描きこむスタイルでした。そのやり方に行き詰ったとき、逆にどんどん消してみようと思いついたのが、絵具をふき取って形を浮かび上がらせる、という手法でした。
ですが、自分が実際に作り上げたいイメージは日々変化していきますので、それに合わせて手法自体も変えていく必要があります(実際、現在も少しずつ変わりつつあります)。
そのため、生涯一貫した作風というのは自分の場合、確立できないのではないかと思っています。
ー作品を発表し始めたのはいつ頃ですか?発表するまでにどういった経緯がありましたか?
会社を辞め、美大に入り直した当初から展示をしたくて仕方ありませんでした。ですが、大学ではアカデミックなことは教えてくれても、実際に職業としてどうすればいいかを学ぶことはできなかったので、在学中から公募展に応募したり、コンクールに参加したりしていました。その結果、東京都主催による公募事業である「トーキョーワンダーウォール」で入選し、個展をすることができました。大学3年の頃です。
その過程で、コンセプト作りやDMの製作、展示の広報活動などを、手探りながらも行っていくことで、自分の作品をただ作るだけではなく、世間にアピールしていく必要性を実感しました。
大学在学中、公募展に出品した作品
2008年・初個展での作品
卒業後すぐの展示作品
2009年頃の作品
2010年頃の作品
ーアーティストステートメントについて語ってください。
外出自粛要請が続き、展示の機会が失われ、それでもいつか陽の目を見ることを信じてただただ制作を続けていると、次第に自己言及的になっていきます。
描くとは何か、筆で絵具を塗る意味とは、そしてこの状況でもなお作業をやめない自分とは …等々に思いを巡らすうちに、その思考のプロセス自体を提示することが、現状と、現状に翻弄される自分の表明になるのではないか、と考えるようになりました。
何を思いどのような経路をたどって出来たものなのか、その作業の流れそのものを鑑賞者も目で追える作品を作っていきたいと考えています。
2011年・シンガポールでの展示風景
2014年・東京での展示風景
2016年・台北での展示風景
2021年・東京での展示風景
ー作品はどうやって作っていますか?技法について教えてください。
キャンバスの全面をまず絵具で塗りつぶし、その後、布やヘラなどで少しずつ拭き取って形を浮かび上がらせていく、という手法を取っていますが、頭に浮かんだイメージをもっとダイレクトなかたちで提示したい、という考えに現在シフトしつつあります。メモ帳のすみに何の気なしに描いたスケッチや落書きに新鮮な魅力を感じ始めており、それゆえ描き方自体も今後は変化していくかもしれません。
制作過程
インスピレーションのもととなるメモ
ー作品制作で困難な点や苦労する点を教えてください。
私の場合、まず描きたいイメージが先行するので、それが思い浮かんだきっかけは何か、どんな現状を反映しているのか、ということを後から考えるのですが、その分析に苦労します。
ー今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
作品をより短期間で仕上げて量産するにはどうすればいいか、ということをずっと考えています。
緻密さや写実を売りにしていない自分にとってはなおさら“量”は大きなポイントになってくる。
同じクオリティを保てるのであれば、それまでの画材や手法に固執する必要もないと思っています。
また、“自分の作りたいものを作ること”と、“売れる作品を作ること”は両立しうるし、両立を目指すべきだと思っています。
売れ筋や流行りというものに背を向けるのではなく、いまの時代を映す作品を作ることが現代アーティストであるなら、いまの時代の動向は常に睨んでおきたいです。
清水智裕 Tomohiro Shimizu |
清水智裕
1977年、岩手県出身
2008年、東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業。
’08~’10年まで「ワンダーシード」にて連続入選し注目を集める。近年の個展に「Wanderlust」(’16年、Pon Ding/台北)、「THE 4TH CROSSROADS HOTEL」(’18年、銀座三越)、「FACELESS」(’18年、Azabujuban Gallery)など。シンガポールや香港での展示参加も。
Independent TOKYO 2016 グランプリ受賞。