制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの姉咲たくみさんにお話を伺いました。
ー今回ご紹介いただく作品はなんですか?
「地下原発都市」「東門からの脱出」「さらば建築」「南極遺構建築」「団地のイヌクシュク」の5作品を紹介します。
ー作品の設定についてお伺いします。作品の中に登場する「シェイプシフター」とは何でしょうか。
いつかの未来、人類がどこかへ消え去った地上には、人工母胎より生まれた人間”もどき”のシェイプシフターが地上に住んでいた。彼らは、自らを創り出した人類が遺した文明跡の遺跡から文化や記録、芸術、科学、技術などを発掘しながら自らの技術に活かしながら暮らしていた。それらを発掘する人たちを「遺構探査官」と呼んだ。世界最後の都市「エデン」は、遺構探査による成果により。繁栄の道に進んでいるかのように思われた。しかし、彼らの間で謎の奇病が蔓延しつつあった。
全身が黒く染まり、発病後に感染を撒き散らす感染者が現れ始めた。主人公のリリアは遺構探査官として働きながら妹のアリスと共に暮らしていた。そんなある日、アリスは謎の奇病を発症する。リリアはこの病気を治せるのは自らを造った存在、人類なら治療法が分かるかもしれないと考え、遺構探査の経験と知識を持って人類を探す旅に出かける。
ー最近は作品をタグボートに掲載する際に作品の説明をよく載せていますね。
元々ストーリー性の強い作品を作っていました。展覧会の時は解説文とストーリーを書いた文章も見せていました。
これまでタグボートに作品を載せる際は、簡単な解説文のみだけでした。しかし、それではこの作品は何なのかが分からないと感じており、思い切って載せました。
ー姉咲さんの作品は作り込まれた物語も魅力的です。解説が深まったことで、より背景が分かりました。
逆に説明しすぎかなと思いましたが、2015年のシェル美術賞に入選した際に、審査員から「初めて見たときにストーリー性を強く感じました」と評価をしていただきました。説明しすぎでも、そこは自分の作家としての特徴なので、隠さずに見せることにしました。
ー隠さずに見せることは素晴らしいですね。
作品とストーリーがどのように結びついて作られるのか気になります。
ストーリー構築は最初にシリーズ作品がどのような内容にしようか考えます。『シェイプシフター』シリーズは人類を探す旅がテーマです。最初は“人間もどき”のシェイプシフターが暮らす世界最後の都市エデンを脱出するところから始まります。
エデンは都市全体を巨大な外壁によって外界と隔てており、追放されたら二度と戻ることのできない場所です。主人公はあえて、自分達を造った人類が、病気の妹を治せるかもしれない。しかし、ほぼ見つかる可能性はゼロに等しい旅の始まりを描いたのが『東門からの脱出』です。
『東門からの脱出』, 2021年, 33.5×53cm
ー設定がしっかりしていて、そこから作品制作が始まるんですね。
昔から制作時はバック背景がないと描けませんでした。作家を始めてから、このスタイルは続けています。
ー他の作品についてもお聞きしてよろしいですか?
もちろんです。エデンを出た主人公は外の世界をあてもなく旅をします。
そこで最初の同胞に出逢います。主人公たちは家の中を片付けている彼を手伝います。彼はこれから新しい家を探す旅に出るところでした。今日は最後の夜、これまで暮らした家でパーティーを始めます。
ハメを外しすぎたのか、最後は家を燃やしてしまうという話です。
『さらば建築』, 2018年, 41×53cm
ー凄まじいストーリーですね。
詳しい内容は『さらば建築』に掲載されています。
パーティーが盛り上がりすぎて家を燃やしたとお話しですけど。アンドレイ・タルコフスキー、ブレードランナー2049、鋼の錬金術師でも家を焼くシーンがあります。家とは本来、自分達が休める場所であり安全地帯でもあります。
そこを燃やす行為は安全地帯の放棄、または気持ちの決別として表現しているのではないかと考えています。この作品もパーティーがきっかけで燃えていますが、この後ポリタンクを持った彼は家に戻ることはない。「思い出は灰に!!」と言って燃やしたという感じで描きました。
ー背景の描きこみが特に緻密ですが、次はどんな場面になりますか?
次は家を燃やした彼から人類の痕跡を見たことがあるという情報から向かった先で、ようやく手がかりを見つけます。
それが『団地のイヌクシュク』です。
『団地のイヌクシュク』, 2019年, 18.2×25.5cm
ー「イヌクシュク」とは何ですか?
イヌクシュクはイヌクティトゥット語から来ている言葉で、簡単に言うと石積みです。北アメリカの北極地域に暮らすイヌイット、イヌピアット、カラーリット、ユピクが作った標識(色々な言われがあります)です。狩場や道標などの目印として作られたイヌクシュクは、広大な雪の平原で場所を知らせる事が目的と思われています。
ー世界には面白いものがありますね。
こうした面白いものからもインスピレーションを得て、作品に落とし込んでいます。
ー続いての作品の紹介をお願いします。
続いては『地下原発都市』です。
円形状の地下都市に作られた原発が暴走を起こし、炉を抑えるために水没した都市に主人公たちはイヌクシュクの情報をもとに辿り着きます。都市の地下には巨大な鉄の扉が鉛で封じ込められた場所があるなど危険な所です。そこで新たなイヌクシュクを見つけて人類の情報を得ます。
『地下原発都市』, 2018年, 50×72.4cm
ーこちらの作品も内容が深いですね。
原発がテーマだけに放射能の恐怖を文章で表すためにHBO製作のドラマ『チェルノブイリ』や資料も色々調べました。
これまで原発を扱った作品も作ってきました。2011年の3.11の原発事故は自分の中で一つのテーマでもあります。
見えない恐怖、異常事態、作品における恐怖表現をこれからも追求していきたいです。
ー追い続けたいテーマ、良いですね。今後の展開が楽しみです。それでは最後の作品の紹介をお願いします。
イヌクシュクの情報から3人は南極点に着きます。そこには氷に空いた大穴に宙に浮く建造物がありました。
ついに創造主である人類に会うことになります。
『南極遺構建築』, 2020年, 41.5×60.8cm
ー終着点が南極とは意外でした。
10年くらい前に、GoogleアースでUFOがあると話題になりました。本当かどうかは分からないですが。
作品のアイディアとして面白いのと、人類未開の地、極限環境の世界はラストにふさわしいと考えて南極にしました。
設定の話をすると、南極で作中の服装はかなりの薄着です。本来ならしっかりとした装備を着せて描くべきだと思います。
あえてそこは「絵」なので通常の服装で描いています。
ー壮大なストーリーの解説、ありがとうございます。全体を通して、こだわりのポイントはなんですか?
こだわりはシリーズ作品なので「連続性」をどのように出すかを考えました。
ストーリーがあるので、キャラクター設定を行い、全体を通して同じキャラが登場することで描く場面は違うけれどキャラクターが同じだと連続性が出ます。並べて見ると、それがよく分かります。
ー並べて見ると連続性を感じますね、実物で見てみたいですが、直近で展示する予定はありますか?
展示に関しては9月3日(土)より、練馬区北町のAROUND ARCHITECTURE COFFEEで小個展『ディスカバリー建築展』を9月25日(日)まで開催予定です。こちらは土日のみの営業になります、平日はやっていません。
※展覧会情報は記事最下部に掲載
ーそれは楽しみですね、展示する作品についてお聞きしてもよろしいですか?
「地下原発都市」「東門からの脱出」「南極遺構建築」「団地のイヌクシュク」を展示予定です。
「さらば建築」は今回のHow to Makeに合わせての掲載になるので、出展はしていません。その他にも小個展では新境地になる作品も用意はあります。
ー小個展ですが、それでもボリュームはありますね。新境地が気になります。こちらはお聞きしてもよろしいですか?
勿論です。新境地については7月初めにアニメをゲームエンジンのUnityで作るイベントに参加しました。そこで初のディレクター作品の短編アニメを手掛けました。アニメーター1人、Unityエンジニア2人、サウンドクリエイター1人、私はシナリオ、絵コンテ、脚本、演出を担当、計5名で『UPLOAD REM』を製作しました。会場では映像と絵コンテ、資料などの製作工程を展示する予定です。
ーまさかのアニメ、楽しみですね。ちなみに会場以外で観ることは今後ありますか?
こちらは既にYouTubeにアップしています、良ければ観てください。リンクは画像下記になります。
『UPLOAD REM』動画視聴URL:https://youtu.be/cu5ZPXQzTwA
ー今回は色々とお聞かせいただきありがとうございます。
こちらこそありがとうございます。
今回はストーリー中心にお話しさせていただきました。これからもストーリー制作は続けていきながら新しい挑戦を繰り広げていきます。そして9月3日より小個展『ディスカバリー建築展』を開催します。
ディスカバリー(発見)と称した展覧会名のとおり、これまでの制作で見つけたことや空間に対しての考え、創作から得たインスピレーションの素になった資料などをお見せする予定です。
長くなりましたが、以上となります。ありがとうございます。
■小個展情報
《ディスカバリー建築展》
企画・監修:姉咲たくみ
会期:9月3日-9月25日
※基本土日営業、平日は営業しておりません
時間:10:30-18:00
会場:AROUND ARCHITECTURE COFFEE
入場:無料
住所:東京都練馬区北町3-21-4
在廊日:日曜(連絡いただければ土曜も在廊予定です。連絡先についてはFacebookのイベントページ、もしくは下記メールアドレスにお送りください)
展覧会リンク先:https://fb.me/e/1Nq0U5ZfP
作品購入について:
「地下原発都市」「東門からの脱出」「南極遺構建築」「団地のイヌクシュク」は会場内にタグボートのECサイトのリンク先をQRコードで設置しています。ご購入の方はECからご購入ください。お渡しについては会期終了後の9月25日以降になります。
姉咲たくみTakumi Anezaki作品ページはこちら |
長岡造形大学大学院造形研究科修士課程建築学領域を2013年に修了。
在学中から非主流建築(Fringe architecture)を専攻。その一方で独学でペン画を学び、2013年に超未来建築研究スタジオ ANOMaLY Studioを設立。超未来建築の形態と物語についての制作と研究を行っている。現在、東京、海外で活動している。
【個展】
2017年
反重力建築展 個展(アートコンプレックスセンター)
2021年
ディストピア建築展 個展(アートコンプレックスセンター)
【企画展】
2015年
悪の建築展(サイト青山)
2016年
悪の建築展 第2章:咆哮(サイト青山)
2017年
悪の建築展 第3章:俯瞰(サイト青山)
2018年
悪の建築展 第4章:前衛(サイト青山)
2019年
「悪の建築展:派章」TAGBOAT ART FES 2016 Independent、ヒューリック浅草橋
「群青建築展」アーツ千代田3331、東京
2020年
「悪の建築展:最終章 大祭」アーツ千代田3331、東京
【出展歴】
2011年
せんだいデザインリーグ
2012年
第三回建築コンクール
2013年
ジャパンサブカルチャー‐日本亜文化 (台湾)
2014年
SQUARE展 (ニューヨークSPACEWOMb Gallery)
2015年
MOVE展 in 上海 (M50 莫干山路50号)
第20回 日本の美術 全国作家選抜展 (上野の森美術館)
第20回 日本の美術受賞者展 (Royal Opera Arcade (ROA) Gallery ロンドン)
シェル美術賞2015(国立新美術館)
2016年
Flap! Asian Art Selection in Hongkong(香港)
第12回 世界絵画大賞展(東京都現代美術館)
2017年
三ヶ国合同展覧会『美の起源』(アーツ千代田3331)
2018年
「アートフェスタ ~株式会社ゼルス30周年記念展~」MDP Gallery、東京
「京都精華大学 建築学科三年後期演習最終講評会 ゲスト審査員」
2019年
「細密画展」CLOUDS ART + COFFEE、東京
「Rooms タグボート・グループ展」五反田TOC、東京
「2019 SHANGAI ART FAIR」上海
2020年
「SF建築展」喫茶ランドリー、東京
2021年
「タグボート アートフェア2021」東京竹芝ポートシティ、東京
「アート解放区 EATS 日本橋 -タグボート 」THE E.A.S.T、東京
「Non-address アート番外地」 阪急メンズ東京
【受賞歴】
2011年
関東甲信越建築学生連合Knot! 入賞
2012年
第三回建築コンクール 佳作
2015年
第20回 日本の美術 全国作家選抜展 人気アーティスト賞受賞
第28回 日本の自然を描く展 上位入選
シェル美術賞2015 入選
2016年
第12回 世界絵画展 入選