制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの大山貴弘さんにお話を伺いました。
大山貴弘 Takahiro Oyama |
今回ご紹介いただく作品「珍宝虹色女王-紅-」のモチーフを選んだ理由はなんですか?
Drag Queenという、主にゲイ男性による女装パフォーマーをモチーフに制作しています。
具体的なモデルは居ませんが、この作品もDrag Queenをモチーフにしています。
『珍宝虹色女王像-紅-』全体
彼等・彼女等はセクシャルマイノリティであることから、長いあいだ社会から受け入れられずにいました。最近ではメディアでも見かけるものの、歯切れの良い物言いやキャラクター性が取り上げられる事が多いです。そこでDrag Queenの文化や歴史を美術的側面から再考察し、彫刻という確かな存在として表現し残していきたいと考えています。
初めて”Drag Queen”という存在を知ったのは、大学2年のときです。ある講義に、エスムラルダさんというDrag Queenの方が講師として登壇したんです。似たような人達は見たことがありましたが、”Drag Queen”だと認知したのは、これが初めてでした。しかしその時はDrag Queenの存在を素直に受け入れる事ができませんでした。当時はまだ自分自身のセクシャリティに戸惑っていたので目を背けていました。
幼い頃、姉の振袖が羨ましくて着せてもらった大山さん
大学時代はずっと木彫による人物像の制作を中心に制作していました。そして大学院の修了制作の時に初めてDrag Queenをモチーフに選びました。
選んだ理由は心境や環境の変化など、いろいろなことが重なってというのが正直なところです。
自分という人間にしか出来ない事をしてみようと思えたんです。Drag Queenの彫刻なんて誰も作って無いですからね。(笑)
大学院修了制作 『memento mori』
現在はどちらで制作していますか?
現在は岩手の実家にアトリエを設けて制作しています。
岩手の実家に構えているアトリエにて
周りは山々に囲まれて、よく言えば自然豊かで、悪く言えば…田舎ですね。(笑)
元々兼業農家だったので、作業小屋等を改装してアトリエにしました。彫刻家にとって制作場所の確保は必須です。広い空間、平らな地面、騒音対策等。ありがたい事に、その辺りはすんなりと確保出来ました。家族に感謝です。
街から離れ自然豊かな場所は制作には適していますが、展示となると作品搬送のコストが人一倍かかってしまいます。特に大きな作品は分解できるようにしたり、中をくり抜いて軽量化します。木彫はそうした加工が施しやすいし、技法も沢山あるので助かっています。
欲を言えばキリが無いですが、今の制作環境は私に合っていると思います。
作品に使っている材料は何ですか?
私は普段から楠(くすのき)を素材にしています。この作品も楠から作りました。
楠の丸太
加工し易く、割れや捩れも少ない。成長が早いため大きさを得やすい楠は、彫刻材に適しています。残念ながら岩手では入手しにくいため、学生の頃からお世話になっている山口製材さんから丸太を購入しています。
彫り心地というのはとても重要だと考えています。文字を書くにしてもノートの紙質や罫線の有無、鉛筆か筆か、もしくはタブレットか。その人に合う素材や道具があると思います。彫刻も同じで、自分のイメージをスムーズに投影できる素材や道具があります。僕の場合は楠がぴったりだったんです。
道具についても同じことが言えます。大まかな作業はチェンソーで行いますが、その後はほとんどが鑿(のみ)を使用して制作しています。研ぎやメンテナンスも自分で行うことで自分に馴染む道具になります。鑿自体は結構な本数がありますが、よく使用するのは”馴染んだ”5本くらいの鑿だけです。
作品は、どのような手順で制作しますか?
私はいつもドローイングを描いてから木を彫り始めます。
ドローイング
制作風景
ドローイングも作家によって様々ですが、僕の場合はかなり具体的な設計図の様に描きます。しっかりと”視える”ようにする事で、その後の制作がスムーズになります。
制作中は離れて作品をみることが多いです。作品に向き合っていると話をしているように感じる瞬間があります。”ここがまだまだよ”、”もっと美人に彫りなさいよ”って(笑)
この時間が1番好きですね。なのでついつい眺め過ぎて手が止まってしまうのが悪い癖です。
そうしているうちにフッと作品が話をやめて客観的に見える瞬間がきます。いつもそれを完成のタイミングにしています。
その作品はどんな人に見てもらいたいですか?
今を生きる人々、そしてこれから生まれてくる人達に見てほしいと思いながら制作しています。
『珍宝虹色女王像-紅-』部分
“Drag Queen”はセクシャルマイノリティの人達によって築き上げられた文化です。ましてその見た目の派手さから、否が応でも人の目に付き差別の対象とされてきました。そんな絶望の中でも、セクシャルマイノリティの人々の先頭に立ち、悲しみや苦しみを笑いへと昇華し、励ましてきた存在でもあります。
そんなDrag Queenの文化や歴史を美術的側面から再考察し、彫刻作品として表現すること。それは今を生きる人達にDrag Queenの魅力を直に伝え、何かしらの影響を与えることが出来ると思います。
さらに彫刻なら100年、200年と残していくことが出来る。そのときDrag Queenやセクシャルマイノリティの存在がどう変化しているかはわかりませんが、未来の人達に逆境の中で力強く生きてきた”人間の美しさ”を伝えることが出来たらいいなと考えています。
大山貴弘 Takahiro Oyama |
【 経歴 】
1993 岩手県生まれ
2018 東北芸術工科大学・芸術文化専攻・彫刻領域 修了
【 展示歴 】
2020.9 「MONSTER Exhibition 2020」入選/渋谷ヒカリエ8/東京
2021.8 「Independent Tokyo 2021」/東京ポートシティ竹芝/東京
2021.10 「岩手芸術祭美術展」現代美術部門 部門賞/岩手県民会館/岩手
2021.12 「Epilogue 2021」/Gallery Art Point /東京
2022.3 「中央公民館アートフェスタ2021」/盛岡中央公民館/岩手
2022.8 「Independent Tokyo 2022」審査員特別賞 /東京ポートシティ竹芝/東京