大山貴弘は1993年岩手県生まれ。2018年東北芸術工科大学・芸術文化専攻・彫刻領域 修了。
“Drag Queen”(ドラァグクイーン)という主にゲイ男性による女装パフォーマーをモチーフにした、彫刻作品を制作しています。派手なメイクや衣装、転びそうなほど高いハイヒールを身につけ、女性性をオーバーに表現するDrag Queen。近年ではメディアで取り上げられることも多く、認知度は上がってきています、しかし奇抜な容姿やキャラクター性が取り上げられ、その文化や成り立ちを知る機会はまだまだ少ないのが現状です。
作家は、Drag Queenの文化や歴史を美術的側面から再考察し、彫刻という確かな存在として表現し残していきたいと考えています。
大山貴弘 Takahiro Oyama |
MONSTER EXHIBITION 2020(渋谷ヒカリエ)にて作品の解説をする大山さん
ー絵を描いたり、ものづくりをはじめたりしたのはいつ頃ですか?きっかけはありましたか?
小さな頃から絵を描いたりモノを作ることは大好きでした。きっかけは覚えていませんが、自分のイメージしたものが実体化する事が楽しかったように思います。
特に折り紙が好きで、大人向けの折り紙の本を買ってもらっていました。作りたいものは描いてあるのに難しくて作れず、よく周りの大人達に八つ当たりしました。
今でも根本的には変わっていないように思います。自分の中には自分にしか視えていない”美しい何か”があるんです。それを実体化させたい。けれど表現する手段や技術がわからない。今も悩みながら作品を制作しています。
「珍宝虹色女王像-pink-」
ーアーティストを目指そうと思ったきっかけはなんですか?
本格的に作家を目指したのは、大学院を修了して2年ほど社会人として働いた後でした。あるときフッと”作家として生きてみよう”と思って、そうしたら急に視界が開けたように感じました。それからの行動は早かったです。すぐに岩手に戻り、作品を作り始めました。そこから現在に至ります。あの時の感覚は今でも鮮明に覚えています。
岩手のアトリエ風景
ー作風が確立するまでの経緯を教えてください。
自分自身、作風は未だに確立している気がしません。木彫と人物像というキーワードは作品制作を始めた時から一貫している点だと思います。
まだまだいろんな事に挑戦したいと思っています。その中で僕にしかできないスタイルが自然と出来上がるのが楽しみです。
学生時代の作品。木彫による曽祖父の肖像彫刻
ー作品を発表するまでにどういった経緯がありましたか?
作品を本格的に発表したのは、2020年からです。作家としてやっていこうと思ってから半年ほど経った頃でした。元々作品を見せることに意欲的ではなかったんです。しかし作家として活動する以上は発表しなければ元も子もありません。そこで最初はコンペに応募し、渋谷ヒカリエのレンタルスペースに展示しました。買い物に来た方がほとんどで、ARTについて詳しい人は勿論少ない。そうした人達とのやりとりは妙に新鮮で、作品展示に対して抱いていた緊張感や苦手意識を薄れさせてくれました。未だに展示のときは緊張しますが。
Independent Tokyo 2022出展の様子 (審査員特別賞 三浦次郎賞・徳光健治賞 受賞)
ーアーティストステートメントについて語ってください。
『Drag Queenという、主にゲイ男性による女装パフォーマーをモチーフに制作しています。彼等・彼女等はの文化や歴史を美術的側面から再考察し、彫刻という確かな存在として表現し残していきたいと考えています。』
…というと小難しく感じますが、簡単に言うと私が感じたDrag Queenの美しさを表現したいんです。
セクシャルマイノリティの先頭に立ち、逆境の最前線で仲間を励まし続けた存在でもあるDrag Queen。そんな彼等・彼女等の美しい姿を彫刻として未来に残していきたいと思っています。
「珍宝虹色女王像群"RAY GO!” 」
ー作品はどうやって作っていますか?技法について教えてください。
チェンソーや鑿(のみ)を使用して、木を彫って制作しています。一本の丸太からそのまま彫り出すのではなく、いくつかの木のパーツを継ぎ合わせる”寄木造”と呼ばれる技法で制作しています。
平安時代の仏像制作をきっかけに確立されたと言われる寄木造は、丸太の大きさや形に捉われない造形を可能にします。また分解して運ぶことも出来るので、展示場所の選択肢も広がります。
制作過程
ー作品制作で困難な点や苦労する点を教えてください。
制作過程では大まかな形を決める作業が大変です。重たいパーツを何度も調整したり加工したりする作業は手間がかかります。しかし作品の基礎となる重要な作業なので、時間をかけて仕上げます。
また最近は作品発表の機会が増えたことで、他者と展示を作り上げる難しさを実感しています。同時に本気で誰かと何かを創り出していくことが楽しいと思えるようになりました。ここ数年は1人で作品に向き合う時間が多くなっていましたが、そんな自分にとって良い変化だと思います。
制作過程
ー今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
一つは、これまで続けてきた彫刻という手段で作品を創り続けたいと思っています。まだまだ彫刻で表現したいことがありますし、飽きっぽい僕の人生でこれほど続けられたことは他にないので。
もう一つは様々な表現方法に挑戦していきたいと考えています。絵画、版画、デジタル、パフォーマンス、映像、音楽等々。やりたい事は沢山ありますが、僕1人では実現は難しい。なので最近は理想を共有し合い一緒に実現させていく仲間が欲しいと思うようになりました。今後はさらにいろいろな人との出会いを大切にしていきたいと思います。
「珍宝虹色女王像-紅-」
大山貴弘 Takahiro Oyama |
【 経歴 】
1993 岩手県生まれ
2018 東北芸術工科大学・芸術文化専攻・彫刻領域 修了
【 展示歴 】
2020.9 「MONSTER Exhibition 2020」入選/渋谷ヒカリエ8/東京
2021.8 「Independent Tokyo 2021」/東京ポートシティ竹芝/東京
2021.10 「岩手芸術祭美術展」現代美術部門 部門賞/岩手県民会館/岩手
2021.12 「Epilogue 2021」/Gallery Art Point /東京
2022.3 「中央公民館アートフェスタ2021」/盛岡中央公民館/岩手
2022.8 「Independent Tokyo 2022」審査員特別賞 /東京ポートシティ竹芝/東京