浮世絵と日用品を織り交ぜた作品が人気を博している鈴木ひょっとこ。2025年1月8日より開催される個展「state of flux」に向けて、創作の背景と今作に込められた想いを伺いました。
鈴木ひょっとこ Suzuki Hyottoko
2003 武蔵野美術大学造形学部油絵学科入学(三年次転学科)
2007 武蔵野美術大学造形学部映像学科アニメーション専攻卒業
2019 illustration誌(玄光社) 第210回TheChoice 入選
2020 illustration誌(玄光社) 第215回TheChoice 入選
2021 個展「ebullient」森美術館ショップ
2022 個展「Spin on」tagboat / 阪急メンズ東京
2023「ONE ART TAIPEI」JR東日本大飯店台北(台湾)
「名画の旅 江戸から現代まで -リアルアート体験 美術館へ行こう-」足利市立美術館
個展「彼方&release」六本木ヒルズA/Dギャラリー
2024「Affordable Art Fair HongKong」香港会議展覧中心 (香港)
浮世絵に描かれたユーモア、風刺表現に影響を受け、時代と共に変化していく家電製品や飲食物といった消費される生活用品をモチーフに、現代と昔とが融合した、アニメーションのような躍動感やストーリーを込めた「家電図」シリーズをはじめとする絵画を発表しています。
― 今回の個展「state of flux」のタイトルに込めた想いを教えてください。
「state of flux」は、重要な出来事等があった後で、行動の新しい方向性を決める前に何をすべきか、という不確定な状態を表す言葉だそうです。
2024年は個人的に悲しい事が続き、その対応で描けない時期がありました。混乱の中でも前を向いていきたい気持ちと、それらの経験から以前とは変化していった考え方が自然とそれぞれの絵に滲み出たので、これらの一つのテーマにはまとまらない新作群を表すのに相応しいと思いました。
― 昨年の個人的な体験が今回の作品制作にどのような影響を与えましたか?
コロナ禍の時期からは特に、作品をご覧になる方も描いている私自身も、気持ちが明るくなる作品を、ということを心がけてきたので、意識的に負のイメージを連想しないモチーフや色調を選んでいたのですが、今回はそういった制限を緩めて、自身の気持ちを癒す為に描くことで、無意識に浮かんできたイメージも絵に投影されたと思います。
個展メインヴィジュアル「家電図 ターンテーブルへ舞い散る」制作風景
― 制作の過程で「生と死」をテーマに向き合う際、どのような感情の変化がありましたか?
最初は悲しみと距離が取れませんでしたが、段々とそれらの感情は不慮の出来事に対処しきれない人の弱さなのだな、と客観的に眺められるようになりました。また、メキシコでは死をポジティブに捉えるという価値観があるそうで、特に「骨の窓」にはその考え方を取り入れようと試みました。
当たり前すぎて日々忘れがちな、改めて私に残された生の時間を大事にしなければ、という思いを再確認できました。
4枚組作品『骨の窓』
― これまでの人気シリーズ「家電図」や「スイーツ」と新作との違いについて教えてください。
これまでの私の作品はポジティブな中に隠し味的にブラックな要素を含む、という傾向がありましたが、今回はその逆でポジティブな要素が隠し味の側になっているというのが大きな違いだと思います。
また、数枚で一組みという表現や、人の感情の表出をモチーフにするのは今回が初めてじゃないかと思います。
4枚組作品『顔の穴』
― 浮世絵から受けた影響は、どのように作品に反映されていますか?
今回も浮世絵のパロディのスイーツの新作を含みますが、それ以外の作品にも水の描写、(薬など)無生物の擬人化、背景のグラデーション、群衆の人物の出立ち等の表現に反映されています。
― 作品に用いる鮮やかな色彩やユニークな構図はどのように発想されていますか?
鮮やかに見えるのは画材のアクリル絵の具の持ち味のカラッとした発色と、絵の中に濃淡のコントラストがある為だと思います。
構図は、歌川広重のいくつかの極端に近寄った構図の浮世絵等の影響があると思いますし、私が元々アニメーションを制作していたこともあり、映像の一部を切り取ったイメージで発想する場合も多いので、それをユニークな構図と思っていただけているのかもしれません。
制作風景
― 今回の作品群はオムニバス的な性格があると伺いました。それぞれの作品に込めた想いを少し教えていただけますか?
誰かの死を悲しむことができるのは、生きている人間だからこそ、ということを「顔の穴」の連作に、もし死後の世界があるのなら、そこへ渡った人は、自由になって案外楽しく過ごしせるのかもしれない、という気持ちを「骨の窓」の連作には込めています。
― この個展を通じて、鑑賞者にどのようなメッセージを届けたいですか?
今回は一つのテーマに沿った作品群ではないので、絵それぞれに込めたメッセージは異なりますが、例えば「家電図ターンテーブルに舞い散る」は暗闇から明けていく時のイメージであり、わだかまりは時間が消し去ってくれることへの安心感と無常感、(作品の中の船上の人々のように)時に委ねて今を楽しもうという想いを込めています。
― 今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
今回は無意識にポジティブとブラックの要素のバランスが入れ替わったことで、これまでこうしなければ、と思い込んでいた表現の枠から広がった気がするので、今後はそれらを絵によって意図的にコントロールした絵作りができるようにしたいです。
また、来年にかけて海外の方のご利用が多い場所での展示も予定しているので、日本的なユーモアをいかに海外の方に伝えられるかを、工夫したいと思います。
鈴木ひょっとこ Suzuki Hyottoko |
鈴木ひょっとこ「state of flux」
2025年1月8日(水) ~ 1月25日(土)
営業時間:11:00-19:00
休廊:日月祝
※初日1月8日(水)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:1月8日(水)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatにて、現代アーティスト・鈴木ひょっとこによる個展「state of flux」を開催いたします。
浮世絵のユーモアや風刺に影響を受けた鈴木ひょっとこは、家電や食品といった日常の消費物を鮮やかな色彩と独自の構図で描き、時代を超えた物語を紡いできました。本展では、人気シリーズの「家電図」や「スイーツ」に加え、作家自身の体験から生まれた新作を発表します。