制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの松森士門さんにお話を伺いました。
松森士門| Shimon Matsumori |
今回ご紹介いただく作品は何ですか?
タイトル「人工・色気」です。
この作品のモチーフと、それを選んだ理由は何ですか?
雨の日に車のテールランプが地面に伸びているのを目にし、それが記憶に残っていました。その光景がモネの「日の出」と結びつき、身近にあるものから巨匠の絵を再解釈しようと試みテールランプを描きました。
作品の色は、なぜそのような色にしましたか?
太陽とは違い人口の光を描くので、赤が不自然なくらい浮いてくる方が面白いと思い、ベースには補色となる緑を敷きました。
周囲の色は色々試したのですが、途中からは分かりやすく綺麗な色より濁って見えるくらいが丁度いいなと感じました。なので補色同士の黄色と紫を混ぜ下の色が透ける程度に汚す事にしました。
作品細部
作品に使っている材料はなんですか?
油彩での制作では主にクサカベ、ホルベイン、マイメリの絵具と溶剤を使っています。
品質が良く、発色が良いので選びました。
その材料で困っている点は何ですか?
油絵制作全般で言える事ですが、値段が張ることですね。
材料でこだわっていることは何ですか?
メーカーによって透明色、不透明色の発色や質が違うので、絵の具を重ねるタイミングに応じてメーカーを使い分けるようにしています。
作品細部
作品に使っている道具はなんですか?
筆は一般的に扱われている豚毛の筆を使い、刷毛は羊毛刷毛やニスなどの塗装用の物なんかも使います。
絵の具の含みが良いのと、多少手荒く扱ってもへこたれないからです。
作品の制作にとりかかる前に、準備することは何ですか?
特に準備すると言う程ではないですが、強いて挙げるなら、必要になるであろう画材の在庫確認と体調管理です。
年々健康の大切さを実感するようになりました。
その作品は、どのような手順で制作しましたか?
基本的には描き始めるまでどういう絵にするか決めず直接描き出すのですが、今回はメインの配置や地の色のイメージは持っていたのでそこから手をつけました。その他は常に描いては消してと行き当たりばったりでした。
そのような手順になった理由はどうしてですか?
気持ちに余裕ができたからだと思います。
以前は完成イメージを明確に持ち、目的地まで最短距離で描きあげていました。
ですが、制作を続ける中で予定調和的な作業がつまらなくなり、もう少しその時々の自分に委ねてもいいのではと思うようになりました。
見切り発車なので全てが上手くいく事はまだ少ないです。ただ、前日の作業を見返した時にダサいタッチがあっても「こんなタッチ置いちゃって昨日の自分は可愛いなぁ、今日の自分が何とかしてあげよう!」みたいに自分を認める事で、結果的には作品に広がりを持たせられるようになったと感じています。
制作工程
どのような場所で制作していますか?
古いアパートをアトリエとして利用しています。
その場所を選んだ理由は何ですか?
家から徒歩で通えて家賃が安かったからです。それと僕はとても暑がりなので、内見をした時にエアコンが付いていた事が今思い返すと決め手だったかもしれません。
ただし、壁が薄く音が漏れるので、大きい作業音(キャンバスを張る等)を立てる時は隣人が在宅中かの確認が必要です。
制作にかかる時間はどれくらいですか?
最近の制作だと1,2ヵ月くらいはかかります。1日での制作は3〜4時間くらいで長くないのですが、複数の作品を同時進行で描いては乾かしてを繰り返しているので、何やかんや時間がかかっています。
その作品を完成とするのはどのような形になったときですか?
筆を入れる必要が無くなったときです。これまでの作業が響き合い、全体の調和が生まれたと感じた瞬間だと思います。
やりきって「完成したから筆を入れる必要がない」っていうのとは僕の場合は違うかもしれません。
制作の中で、好きな作業・得意な作業は何ですか?
大きなストロークで描ける作業が好きでした。大きく腕を動かす中で、瞬時に筆の軌道をイメージしながらコントロールする緊張感と、それがキマった時の高揚感は堪らないですね。
逆に、嫌いな作業・苦手な作業はありますか?
プロセスを考えすぎ枠組みの中で作業をしているなと感じる時は、筆の運びや画面が固くなってしまうので嫌だなと思うことはあります。
制作工程でこだわっていることは何ですか?
途中段階で失敗とまでいかなくても、違和感を覚えたら容赦なくぶっ壊す事です。
極力無難な絵にならないように、気付きを増やせるゆとりを持って向き合うよう心がけています。
作品のどこに注目して観てもらいたいですか?
透明色を多く使い積層しているので、画像だけでは見えてこない光が透過した時の色の見え方を肉眼で捉えてもらいたいです。
どんな人に作品を観てもらいたいですか?
これを読んでくださっている方は美術に興味を持っていただけていると思うので、もちろん観て欲しいです。
ただ、アートは美術に興味がある人の為にあるものではないので、興味が無い人にも何となくでも記憶していただけると嬉しいです。
*本作品は2022年3月開催予定のtagboat art fairにて展示・販売予定です。
松森士門| Shimon Matsumori |
1996年生まれ
2020年 東京藝術大学 卒業
作品の鮮度を大切にしているというその制作方法は、エスキースを描かない真っ白なキャンバスに筆を置き、
その日のうちに完成させるようなライブ感あふれるものだ。
その勢いや瞬間の感情は、大胆な構図や躍動感のある筆跡に現れている。
まだ藝大を卒業したばかりの若手だが、常に作品と社会との関わりを模索し留まることを知らず進化し続けている。