制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの佐藤弘隆さんにお話を伺いました。
佐藤弘隆 HirotakaSato |
今回ご紹介いただく作品を教えてください。
『睡蓮沼の二人』という作品です。
《睡蓮沼の二人》2008
その作品のモチーフを選んだ理由はなんですか?
身近な所で見聞きたことを元に世界観を作りました。
あるカップルがいて、二人はとても仲が良かったのですが、彼女の方は楽しい時でも急に具合が悪くなることがありました。そんな時、彼は心配そうにし、彼女は申し訳なさそうにしていました。
何か、いつか良くなるとか、いつか幸せになるとかじゃなくて、今の状態を包み込む安らぎの風景を想像しました。それで、吐しゃ物が金魚になって、沼の中を泳ぎ回り、昼間にしか咲かない未草も日が暮れる頃まで二人を照らすように咲き続ける風景をつくりました。
その作品の色は、なぜそのような色にしましたか?
未草は昼間に咲き、午後には花を閉じ水面下に沈むのですが、二人を待っているかのように夕暮れ時まで咲いているようにしたかったので、デイフォーナイトという昼でも夕方の雰囲気が出せる撮影方法を使いました。
《睡蓮沼の二人(部分)》
その作品はいつ、どのように思いつきましたか?
この作品を作ったのは、もう14年くらい前なのですが、当時パソコンのハードディスクを作る工場で働いていて、毎日同じ作業なものだから、ふと頭の中で想像の風景の中にいたりして、そういう時に思いつきました。昔ダンサーインザダークという映画を見た時に、ビョークが演じる主人公が工場で働いている場面で、頭の中でミュージカルが始まるんですが、こういうことってあるよなと思いました。
なぜかこうゆう時にイメージが浮かびやすいなっていう時がいくつかあって、映画館で映画を見ている最中、車で旅行に出かける時の行きの運転の最中、あと単調できつい仕事をしている時です。
その制作現場を選んだ理由はなんですか?
埼玉県のふじみ野市というところに小さな一軒家を借りています。一階に一部屋、二階に一部屋なので、これ以上小さな二階建ては無いんじゃないかと思うくらい小さな家です。制作と趣味と機材や作品の物置が一緒になってます。今は仕事がカメラマンをしていて出張が多く、作品撮影も野外が多いので、都内にも地方にも出やすいこの場所が便利で住み着いています。
アトリエ風景
その制作現場で気に入っている点は何ですか?
近くに川沿いのランニングコースがあって、気分転換したい時はすぐに走りに行けるのが気に入ってます。
その作品に使っている材料はなんですか?
FUJIFILMのPROVIA 100というフィルムを使っています。
作品に使うフィルム
その材料を選んだ理由はなんですか?
色んなフィルムを使ってみて、これが一番自分の世界観に合った色だと思いました。
色が濃く重く出る、黒がしっとり黒い所が理由です。色って、赤、黄、青の順に退色していくでしょう、だからこのフィルムを開発した人は長期間アーカイブすることを考えてあらかじめ濃く重くしたんじゃないかと私は勝手に思っています。最終的にはフィルムをスキャンしてパソコンで完成させるのですが、フィルムはスキャンしても特有の色の重さは残っています。
その材料の気に入っているところや困っているところは何ですか?
フィルムや現像の値段が高くなっているのと、フィルムの種類も少なくなってきて、いつか手に入らなくなるかもしれないんだけど、最後までこの技術の結晶を使っていたいと思います。
その作品に使っている道具はなんですか?
この作品の時はPENTAX 67というカメラを使いました。
長年愛用し、苦楽を共にしているカメラ
どんなところが気に入っていますか?
カメラもフィルムも20年位同じ物を使っています。
例えば、歩いている時と、自転車に乗っている時と、車に乗っている時では、気が付くこと、感じることが違うみたいに、このカメラは撮るのに少し時間がかかるのですが、このカメラを使っている時の時間の過ぎ方が好きです。
その作品の制作にとりかかる前に、準備することは何ですか?
スケッチを描いて、イメージに近いロケーションを探しに旅に出ます。
それと、モデルを探します。スケッチはモデルに撮影内容を伝える為でもあります。
イメージスケッチ
制作にかかる時間はどれくらいですか?
最初のロケーション探しから、撮影、フィルムの現像、スキャン、パソコンでの編集、テストプリント、本番プリント、全部の期間を入れると4カ月位です。仕事の合間に進めているので結構長めのこのペースでやってます。
大きな作品はまず小さくプリントして色を確認
その作品を完成とするのはどのような形になったときですか?
空間、空気、距離感を大事にしていて、特に作品の前に立った時の作品の中の人物との距離感、触れられず、気付かれずそっとしておける距離感が出てるなと思った時です。
感覚的には作品の世界の中の空気がこっちまで染み出してきて、ふっと風が吹いてくるような気がした時は作品になったなと思います。
私は作るのに結構時間がかかるので、完成した時は、やっとこの作品から解放される!と思って少し体が軽くなったような気分になります。その時が一番気持ちが良いです。でも、それが長くは続かなくて、作品を作っていないと人生に張り合いがない気がしてそのうちまた始めます。
完成した作品は自分では飾りません、梱包したまま壁に立て掛けてあります。制作中にさんざん向き合ったのと、苦労を思い出したくないからです。
撮影日記
制作しているときはどんなことが頭に浮かんでいましたか?
制作はいつも自分で考えて自分で実行しておきながら、浮きも沈みもしつつ心揺さぶられています。
自分で作った波に自分で飲まれているような感じです。
作品にはいつも期待があって、この感じ伝わってほしいと思って作っています。
制作の中で、好きな作業・得意な作業は何ですか?
最初のロケーション探しは、地方の道の駅で車中泊しながら数日旅します。その段階は一人旅のようで気楽です。
困難な点はどんなことですか?
野外での撮影は用意するものが多く、特に山の方とか遠出した時は、忘れ物が怖いですね。撮影日は期待と緊張でドキドキしていて、ただでさえ脳みそが熱くなって前日寝不足だったりするので。
制作工程でこだわっていることは何ですか?
季節と時間に人を合わせることです。
その作品はどんな人に観てもらいたいですか?
観客には、自分が今いる地平の延長線上のどこかに、こんな所があるんだ、こんな状況の人がいるんだと思いながら作品の中の広々とした空間で、しばらく佇んでほしいです。
この作品では、自分ではコントロールできないけどこうなってしまうっていう人に向けています。
作品ごとに、こんな状況の人に向けて作っているというのがあります。
撮影中の佐藤さん
佐藤弘隆 HirotakaSato |
私は、日本海に面した海の近くの小さな町で生まれ育ちました。
そこは、夕方から夜への移り変わりがドラマチックで、その色彩や、夜の海の黒い広がりが、私の美意識に影響を与えています。
私の作品は写真作品です。
絵画的に構成した作品と、ある人物を四季を通じて撮り続け編集した作品があります。
私達の出来事に対して何事も無かったかのように過ぎ去っていく季節、その残酷性と、無関心さゆえの寛容さに美しさを感じます。
【略歴】
1975 新潟県糸魚川市生まれ
2000 東京造形大学卒業_Zokei賞
【個展】
2000 版画展 (Gallery Natsuka,Tokyo)
2004 For Mother (Gallery Rocket,Tokyo)
【グループ展】
2000 Goka Soshina (Kanazawa Citizen’s Art Center,Kanazawa)
Corpus 17 (Gallery Place M,Tokyo)
2002 Escape Round (Gallery Mairo,Kanazawa)
2004 GEISAI #6_Rocket賞 (Tokyo Big Sight)
2006 GEISA I#10_山本現代,Girls Walker,Steady Study賞
2011 ひまわり展 (Minamisoma Public Library,Minamisoma)
2018 Shenzhen International Art Fair (Shenzhen,China)
2022 Independent Tokyo_タグボート特別賞、ヒロ杉山賞 (Tokyo Portcity Takeshiba)
【写真集】
2018 BABI (Self₋Published)
2022 “BABI de Boon”T-shirt designed by HARUNO (Self₋Published)