2020年、突如として世界中を襲ったコロナ禍。アート界も大きな打撃を受けました。
アーティストにとっては、活動の場が激減し、展示に様々な制限がかかるなど、以前のように思うように活動を展開できなくなりました。
しかし、そんな中でも状況に応じて柔軟に変化しようとし、活動を続けているアーティストがいます。
今回は、コロナ禍が始まる前と比較し、制作の根幹にあるテーマが大きく揺るがされ、転換を迫られたアーティストの、コロナ禍における「いま」の生の声をご紹介します。
●2018年のOumaへのインタビュー
元獣医師という異色の経歴を持つアーティスト・Ouma(オーマ)。
2013年から個展をはじめ、作品を通して人の心を癒すことをテーマに制作。生命の最小単位である「細胞」をモチーフとし、細胞というミクロの世界を通じて社会の在り方を探っています。
この動画が撮影された当時も、「癒し」とは何か?というところを追求し、観る人が体験できる、人が関わって作ることができる、というところに重きを置き、大規模な体験型の作品を主に制作していました。
自分を取り巻く周囲の環境、社会が変わっていかないと本当に人を癒すことはできないという考えから、「インターネット社会でどんな知識も共有できる時代に『自分だけのもの』を持っておく必要はないのではないか?」と思い、個人が何かを所有せず、必要なものをみんなで共有するために、「名前をなくすこと」が理想とする社会につながるのではないか、という考えに至ります。
「解剖学の仕事は名前を付けることだ」という養老孟司の言葉を挙げ、例えば顔のパーツは全て便宜上名前がついているが、顔の中の全ての細胞はつながっているということから、「名前をなくす」=「自分と他者の境界が曖昧になる」つまり、社会全体を一つの生命のようにとらえる、ということを作品制作のテーマとし、それを作品を「体験」することによって考えてもらうことを狙いとしていました。
この動画の撮影当時(2018年)も、世界中でアーティストインレジデンスに参加するなど海外でも精力的に活動の手を伸ばしており、当時開催されていた日本の展示会場では大型のインスタレーションを展示していました。
作品の本体から垂れ下がる紙紐は鑑賞者が自由に触ったり、結んだりして良いというもので、会期中も人が関わることで、刻刻と姿を変えていくという作品です。
しかし、2020年現在、世界中がコロナ禍に陥り、アーティストとして作品の方向性や考え方の転換を迫られているとといいます。
集合生命 / Life Continuous
ミクストメディア、 720×700×h250cm、サイズ可変、 2018年制作
系統樹 / Phylogenetic Tree
紙にアクリルとペン、 1枚148×100mm 2017-、 全体のサイズ3.3×28.5m、2019
●2020年8月現在のコメント
元獣医師として、治療の代わりになるアートとは何か、という問いを起点に、これまでアート制作・発表を行ってきました。
この動画を撮影していただいた2018年頃から、個人を癒すためには個人を含む社会のことも考える必要があるのではないかと考えていました。
これを発展させて言語化したのが「社会治療」という概念です。
「社会治療」はヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻」を踏襲する概念で、すべての人を社会という生命体を治療する医師に変え、社会から治療される患者として捉える考え方です。
医療技術が向上しているのに、日本の自殺率は高いままという現状を踏まえることは、ヒトによって構成される社会が病気になっていると考えることもできます。
観光に来るには楽しいけど、長く暮らすには日本は苦しい環境なのかもしれません。
であるならば、個人に向かっていたこれまでの医療は、社会へも目を向け、社会の中の個人として考える必要があるのではないでしょうか。
それが「社会治療」です。
私はこれまで、人が作品に触れ、破ったり結んだりすることで全体が変化しつづける体験型のアート作品をつくってきました。
しかし、コロナウイルスの影響もあり、しばらくはそのような体験型のアート作品を発表することは難しくなってしまいました。
そんな中、これまで通り、人の想像力を引き出し、他者とのつながりを思い起こさせるような作品作りのほか、
物語によって「社会治療」という概念を伝えることを考えています。
物語は現実世界の街をモデルにし、登場人物がアート作品をつくります。
現実でも同様の作品をつくり、リアルとファンタジーの間をつなぐように作品が行き来しながら「概念」を伝えていくことができないかと考えています。
現代アートを楽しむのは、慣れていなければ難しいです。
鑑賞する側に手を伸ばすように強要するのではなく、もっとアートの側から、多くの人に手を伸ばしていきたいのです。
これまでは、それをリアルな「体験」に委ねて、体験から伝えようとしていましたが、
今後は、物体としての作品だけでなく、さまざまな方向から未来の医療概念としての「社会治療」が伝えたいと思っています。
その一つが物語です。
医療を専門家と患者だけの問題ではなく、多くの人がさまざまなレベルで自分ごととして関わっていけるように
また作品を通じて、治療研究費への支援や病気について伝えることなど、具体的な医療貢献ができるよう、引き続きがんばっていきます。
今後の活動も含め、ぜひ応援していただけると嬉しいです!
今後Oumaは、9月にSICF(スパイラル・インディペンデント・クリエイターズ・フェスティバル)に出展するほか、アーティスト支援プロジェクト「アートにエールを」に合格し、動画が配信されます。
秋以降は徐々に海外での活動を再開し、アーティストインレジデンスのためイタリアに渡航を予定しています。
作品を購入することは、新たな活動方法を模索しているアーティストへの、大きな支援となります。
是非、この機会にアーティストの作品をご覧いただきながら、今後の活動にご注目ください。
●最新作品
視覚的治療薬
アクリル・ペン・キャンバス・砂時計、 30x30cm、 2019