川﨑夏美 |
作品を作り始めたのは何歳頃ですか?きっかけはありましたか?
我が家は5人姉妹で、末っ子だった私はいつも姉たちのまねごとをしていたので周りに比べて精神的な成長が早かった気がします。絵も同じように歳の離れた姉が自由帳やチラシの裏に描く女の子や動物のイラストを真似してよく描いていました。友達に上手いねと言われるのが嬉しくてそこからたくさん描くようになりました。当時はらくがきのようなものがほとんどだったので作品という意識はありませんでしたが、それが原体験となり今に至っています。
アーティストを志したきっかけは何でしたか?
子供の頃から漠然と、大人になってもずっと絵を描き続けていたいと思っていましたが「アーティストになりたい」とはっきり思ったことは一度もないかもしれません。絵を描くことが他のことよりも好きだったので、マイペースながらもずっと続けてこられたという感じです。
作風が確立するまでの経緯を教えてください。
大学時代に巨大な丸太から作品を作る彫刻の授業がありました。ひたすら丸太を削り続ける中で作品が現実世界に接続されていくような感覚が鮮烈にあり、絵画でも同じようなことができたら面白いだろうなと思ったことが今の作風につながっています。制作工程においても絵の具を重ねたり削ぎ落としたりしながら進めるため、カービングやモデリングといった彫刻的な意識が強いですね。
『lupinus01』273×220mm(3号)acrylic on wood panel
作品を発表し始めたのは何歳頃ですか?発表するまでにどういった経緯がありましたか?
大学在学中から発表をしていましたが卒業後は仕事との両立が難しく発表をしていない期間がありました。当時は仕事にやりがいを感じつつも制作から逃げている気がしてずっともやもやした日々を送っていましたね。
昨年生活環境が変わったことをきっかけに本当は自分はどう生きたいのかを見つめ直し、やはり制作にしっかり向き合おうと思い会社を辞めて作家活動を再開するに至りました。
アーティストステートメントについて語ってください。
私の制作は「存在」への関心と深く結びついています。絵画が媒介機能を果たす時、その存在自体がとても不確かであると感じるのです。
絵画の実在性(物質性)と媒介性はどのように関わるのか。そうした問いを軸とし、モチーフのさまざまな要素の抽出・解体・再構築をすることで鑑賞者が絵画の内側と外側の世界を行き来する仕組みを構築します。
作品はどうやって作っていますか?技法について教えてください。
絵の具を幾重にも塗り重ねた後、全体をサンディング(ヤスリがけ)して画面を作り出しています。漆の「研ぎ出し」という技法を絵画に展開したものです。
近年の制作で共通しているのは、ヤスリや彫刻刀で削る・絵の具が完全に乾く前に布で拭き取ったり洗い流すなどマイナスのアプローチがあるということです。一度描いたものを削ぎ落とすことで、絵の具の物質的厚みと色相を不一致にさせて少し不安定な画面を作るようにしています。
作品制作で困難な点や苦労する点を教えてください。
常に意識していることは心地良い絵にならないようにすることです。色彩や構図のバランスを取りすぎないようにしています。あと一筆で完成しそうだと思ったら、その手前で止めるようにしています。
今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
既存のマテリアルに捉われない作品作りをしていきたいです。最近は蠣殻から石灰を作って絵の具に混ぜたり、端材を加工して支持体にしてみたりしています。
川﨑夏美 |
1989年広島県生まれ。京都市立芸術大学を卒業後、広島を拠点に活動。
2024年「Independent Tokyo 2024」審査員特別賞を過去最多の5つ同時受賞。
近年は散歩道の花壇や近所のお庭、公園の池や植え込みなど、
誰かの手によって作られた人工的な自然を「借り物の風景」と名付けモチーフとしている。
絵の具を幾重にも塗り重ねた画面をサンディング(やすりがけ)したり拭き取ったりすることで一見穏健に見える絵画の中にうっすらとした不協和音(居心地の悪さ)を生み出しながら、抽象と具象を往来するような作品制作を行う。