タグボート取り扱いアーティストの皆さんに、インタビューに答えていただきました。
作品制作にまつわるあれこれや、普段は聞けないようなお話などが満載です。
毎週更新していきますので、ぜひぜひご覧ください!
小さいころから絵を描くのが好きでしたか?
絵に興味はずっとありましたが、継続的に描くことはしていませんでした。 描きたいという気持ちはあったけれども、マンガやイラストは少し違うなと思っていて、では何を描 けばよいのか、どのように表現すればよいか、ずっと、頭の中でもやもやしていたような気がしま す。美術がとても遠かったのだと思います。
美術の道に進むことになったきっかけは?
早稲田の第二文学部に在学中、シンディ・シャーマンや森村泰昌さんの作品などを参照しながら、 現代の身体表象はどのように変化しつつあるのか、という授業を受けたのをきっかけに、現代アートに興味を持つようになりました。
自分の意思で初めて美術館に行ったのが、なんと大学 2 年生の頃です。遅いですよね。2005 年の イサム・ノグチ展(東京都現代美術館)で受けた衝撃は、今でもよく覚えています。展示室いっぱい に大きな提灯型のライトがあったり、抽象的な彫刻があったり。 「これはなんだろう」と、作品と 1 対 1 で語り合う感覚が、とても新鮮でした。意識の積極性を 刺激されたというか、これまで使ってこなかった感性を使うような感じで、すごく充実した時間を過 ごしました。 それまでは繁華街にある雑多なものばかりが世界の全てだった私にとって、簡単に「消費」しきれない美術は、まるで別の仕組みで成立している世界をのぞき込むようで、あっという間に没頭しまし た。
初めて作品を発表したのはいつ、どんなときですか?
東京造形大学の大学院在学中に、学内で個展を開催しました。ちょうど新しい絵画棟が新設されるタ イミングで、それがとても素敵な建築でした。1F の入口横に、ガラス張りで三角形に近い形をした小部屋があって。 まだ建物ができたばかりだったので、あまり使われておらず、もったいない!と、毎日登校しながら 考えていました。私もどこかで個展をしたいと思っていて、試しに助手の方にお願いしてみたとこ ろ、すぐに OK を戴き、個展を開催しました。(東京造形大学は、たった 1 人の生徒の声にスムーズに対応してくれて、むしろどんどん提案して 欲しい、という雰囲気があったような気がします。大学院入学式での学長の挨拶が「使わなくなった食堂を使うアイディアや提案を大歓迎します」という熱意あるメッセージで、とても驚いた覚えがあります。)
制作する日はどのようなスケジュールで進めていますか?
絵の中の大事な要素を決めるような、集中力が必要な作業はできるだけ午前中に回して、午後は決めた 内容を実行していくような感じで進めています。 1 日に1つの作品を進めすぎると失敗することが多いので、複数を同時進行しながら、1 日 1 作品1,2工程ほどのペースで進めます。 途中で煮詰まった時などは、近くの小川に散歩に行って、鴨を見たり、植物や空を眺めてぼーっとしてか ら戻ると、その後の作業がとても捗ったりします。
作品の制作手順や方法などを教えてください。
私の作品は、モチーフとモチーフの表象を微妙にずらしながらも構造を辿ることで、名付けや前提条件など、見えないルールの存在を意識することをテーマにしています。
制作方法は作品によって様々ですが、モチーフの構造をトレースするところは共通しています。 庭園のシリーズは、テーマの場所に出向いたり、テキストを読んだり、リサーチから入ります。
新しいフランス式庭園のシリーズでは、フランス式整形庭園を、「装飾」と「構造」という2つのキーワ ードに分解して、そこから形を再構成しています。
① リサーチ→ ②言葉→ ③ドローイング→(④素材を使って見立ててみる)→ ⑤作品
大まかには、こんな感じのイメージで進みます。
作品はいかにも抽象のような姿をしていますが、具体的なモチーフがあります。 ただ、モチーフをそのまま描くのではなく、中途段階で、厚紙で見立ててみたり、ドローイングをしてみたり、ロープなどの異素材を取り入れることで線と面を転換していったり。モチーフの形を一度解体し て、面白いなと思う形態にしていきます。 最終的にできあがった形は、実際のモチーフと表面的には異なります。ですが、順を追って丁寧に見てい くと、第三者もモチーフだと理解ができる、そんな作品です。
色や最終的なイメージは、エスキースの段階でははっきりと確定しません。 今は、何種類か似たエスキースを色鉛筆で作っておいて、それぞれの良いところを、描き進めながら統合していきます。色鉛筆を使うのは、色や塗り方に自然とムラができるからです。 あまり予定調和的になりすぎないように、わざと「ゆらぎ」の部分を作るようにしています。
エスキースとドローイング
ドローイング
現在、力を入れて取り組んでいること
最近、フランス庭園のシリーズで、支持体の一部に柄布を取り入れ始めました。市販の布も使いつつ、最 新作では、柄布の柄を自分で作り、業者に発注しました。フランス庭園における「装飾性」に着目した結果なのですが、他のシリーズでも試してみることを現在検討中です。 庭園は、その共同体における時間の流れ方や、ものの捉え方を理解する糸口のうちのひとつだと思って
います。庭園に興味を持ったきっかけは日本庭園ですが、他の国の庭園もこの先リサーチする機会があ ればいいなと思っています。
これをきっかけに、フットワークも少し軽くなったようで、今年は立て続けに札幌と京都のアートシーンに触れてきました。東京には大きなギャラリーがあり良いものが集まっていますが、札幌や京都にも、各々のしっかりとした展望を持ちながら活動されてい る作家がいました。他国や、東京以外の日本を視野に入れながら活動することで、より、客観的な視点で 自分の活動を俯瞰できるようになるのではと考えるようになってきています。
帆布のドローイングとエスキース
将来の夢、みんなに言いたいこと
私自身、美術の世界を知るまでに時間がかかったので、きっと、私のように美術が必要なのに、手が 届いていない人がたくさんいるのではと思っています。美術がもう少し日常に浸透していくことで、 みんなの生活の質がより豊かになっていくといいなと思います。
この先、作品の中で取り組みたいテーマや、グループ展のアイディアなど、やりたいことはたくさん あります。制作についてさらに掘り下げていく一方で、自分 1 人でできる限界にはあまりとらわれず、様々なことにも視野を広げていきたいです。
展覧会風景 撮影 : 西山功一
個展「山と荒磯 dal segno」ART TRACE gallery, Tokyo, 2018
グループ展「雲のような線」SAKuRA gallery, Tokyo, 2019
1985年東京都生まれ 横浜市在住。
2008年早稲田大学第二文学部卒業、2012年東京造形大学大学院 造形研究科美術研究領域修了。
日常の裏側に存在する、見えないルールや制度、構造に関心を抱き、駅・工業製品・庭園などをモチーフに作品制作を行う。庭園のシリーズでは、庭の「構造」を言葉に置き換えた後に再構築し、ルール付けをするような作品を発表する。
2018年、シェル美術賞の第1回レジデンス支援プログラムにより、パリのCité internationale des arts に2ヶ月間滞在し、フランス庭園をテーマにした作品を制作。
■作家ホームページ (最新情報) http://oshironatsuki.com/
個展
2018年 オープンスタジオ「Rhapsody in French garden」Cité internationale des arts・パリ(シェル美術賞 レジデンス支援プログラム)
2018年 個展「山と荒磯 dal segno」ART TRACE Gallery・東京
2017年 個展「ossis」CLOUDS ART+COFFEE・東京
2016年 個展「pianissimo」ART TRACE Gallery・東京
近年の主なグループ展、他
2019年「雲のような線 Line, such as a cloud」SAKuRA gallery・東京、「懐古的機械主義Retro Machinism」TO OV cafe/gallery・札幌& Newld・東京
2018年「●●●」Rocky shore・東京、「3331 Art Fair 2018」アーツ千代田3331・東京、「布置を描く」ART TRACE Gallery・東京
2017年「ASYAAF 2017」韓国・ソウルDDP、「阿佐ヶ谷アートストリート2017」杉並区役所・東京、「OPEN TIME」ART TRACE Gallery・東京
2016年 「ホルベイン・スカラシップ選抜展VOL.3」REIJINSHA GALLERY・東京、など多数。
ワンダーシード 2015入選、第26回三菱商事アート・ゲート・プログラム入選、シェル美術賞2017入選、第26回ホルベイン・スカラシップ奨学生認定。