
3月13日(金)より個展「WIELD」を開催する牛木匡憲。文具メーカーやゲーム会社でのキャリアを経て、現在はサンリオや日清食品など数多くの企業コラボや広告を手がける注目のアーティストです。アナログとデジタルを往復しながら描き出される、力強くも繊細な「未来への希望」に満ちた人間像。その独自のスタイルが確立された背景と、今展に込めた想いを伺いました。
牛木匡憲 Masanori Ushiki
1981年、新潟県南魚沼市生まれ。
2004年、武蔵野美術大学 造形学部卒業。
文具メーカー、Web制作会社、ゲームメーカー勤務を経て、2014年よりフリーランスのアーティスト/イラストレーターとして活動を開始。NHK Eテレの番組イラストレーションをきっかけに、サンリオ、BEAMS、Red Bull、日清カップヌードルなど、企業やブランドとのコラボレーションを多数手がける。
広告分野では、トヨタカローラ、CONVERSE、GU、健康保険組合連合会、JR西日本などに作品が使用され、2022年からは3年間にわたり、イタリア全土の老舗百貨店 Rinascente の広告ビジュアルに起用された。
音楽分野では、でんぱ組.inc、YUKI、Little Glee Monster、マカロニえんぴつなどのCDジャケットビジュアルを担当。
2021年にはNintendo Switch用ゲームソフト『No More Heroes 3』にてキャラクターデザインを手がけ、海外を中心に多くのファンを獲得している。
作品を作り始めたのはいつ頃ですか?
そのきっかけや影響を受けた出来事があれば教えてください。
最初に作品を作り始めたのは、おそらく美大予備校の頃だったと思います。入学試験のための課題制作ではなく、予備校の文化祭で発表するために制作した作品が最初だったと記憶しています。その作品で賞をいただいたことが、その後の自主制作へとつながる大きなきっかけになりました。 初めての個展は大学在学中の21歳のときで、当時流行していたデジタルイラストを中心とした展示でした。

アーティストを目指すようになったのは、どのような経験や思いがきっかけでしたか?
絵を描いて生きていくための選択を重ねていくうちに、結果としてアーティストになっていた、という感覚が強いです。 「アーティスト」という立場を名乗ることは、ブランディングとしても機能しましたし、その立ち位置を意識することで、作品の方向性や姿勢が自然と整理されていったように思います。
これまで影響を受けた作家や表現はありますか?
(絵に限らず、漫画・映画・音楽など)
少年時代に育った環境が、現在の私の表現の根幹を成していると思います。 田舎の商店街で育ち、父はファンシーショップを営んでいました。自宅の通りを挟んだ向かいには街で唯一の玩具屋があり、漫画やアニメ、特撮などの男児向けカルチャーに日常的に触れていました。 一方で、自宅の裏手には歴史のある比較的大きなお寺があり、そこが遊び場でもありました。古いものと新しいもの、その両方に囲まれて育った感覚があります。 また、冬は雪深い土地だったため、毎日のようにスキー場に通っていました。カラフルなウェアと白い雪景色のコントラストが、現在の色彩感覚に強く影響していると感じています。

現在の作風に至るまで、どのような試行錯誤を重ねてきましたか?
影響を受けたものや、転機となった経験があれば教えてください。
私は制作の基盤となる、性質の異なる二つのスタイルを持っています。展示ごとにそのどちらかを選ぶこともあれば、今回の個展のように、それらを掛け合わせて展開することもあります。 今回発表しているシリーズは、コロナ禍の中で生まれました。あの時期、多くの人が生死のリアルを突きつけられたと思います。私自身も例外ではありませんでした。 私は特定の宗教や神を信仰していませんが、「自分にとって絶対的な存在とは何か」という問いが生まれ、それを描きたいという衝動に駆られました。そこから、未来を感じさせ、生き物として力強く輝く人間像を、自身のコンプレックスを重ねるように描くようになりました。

作品のアイデアは、日常のどんな出来事や風景から生まれることが多いですか?
制作の出発点は、紙と鉛筆によるドローイングです。 意識的にテーマを設定しすぎると表現が不自然になるため、自分でも由来がはっきりしない、無意識から立ち上がってくるイメージを大切にしています。 そうして生まれた最初のアイデアを、デジタル制作の中で検証し、可能な限り完成度を高めていきます。そして最終的には、再びアナログの工程で作品を締めくくります。 何かが生まれる瞬間として最も重要なのは、やはり紙と鉛筆によるドローイングだと考えています。
作品に共通するテーマやコンセプト(アーティストステートメント)について教えてください。
共通するテーマは、強い人間像と、より良い未来への希望です。 また、作品制作は常に自分自身の強度を高める行為でもあり、展覧会ごとに異なるアプローチに挑戦することで、表現の幅や深みを広げていくことも重要なテーマとしています。
今回の個展のコンセプトを教えてください。
今回は、コロナ禍で生まれた美人画シリーズを中心に構成しています。 動物や昆虫といった生き物を同一の画面に描くことで、人間という存在に対する私自身の倫理観を内包させ、未来に対する問いをより明確な形で提示することをコンセプトとしています。展示のタイトルWIELDは「未来を切り開くための力を持ち、使う人間」を意味します。WILD(野生)の真ん中にEthics(倫理)のEを入れてWIELDです。とても気に入っています。

作品を見る人に、「これを感じてもらえたら嬉しい」というポイントがあれば教えてください。
美しく、たくましい未来を感じてもらえたら嬉しいです。 若さや力強さに満ち、絶望を感じさせない世界が未来に待っている、そんな希望を受け取ってほしいと思っています。 等身大、あるいはそれ以上のサイズで人間像を描くことで生まれるエネルギーや迫力を感じてほしいですし、繊細な細いストロークが生み出す緊張感にも注目してもらいたいです。 このストロークは、絵の濃度や筆の種類だけでなく、筆の持ち方にまで工夫を凝らした独自のもので、容易に再現できるものではありません。
今後の制作において挑戦したいことや、意識していきたいことを教えてください。
今回のシリーズは、一定の完成度に達してきたと感じています。 今後さらに高みを目指すとすれば、より美しいストロークを描くための鍛錬を重ねていくことになるでしょう。 一方で最近は、美しさに加えて、勇気や強さを併せ持つヒーロー像にも再び関心が向いています。ヒーローを等身大のサイズで描くなど、新たな表現にも挑戦してみたいと考えています。

3月13日(金)から個展「WIELD」を開催します!
「WIELD」
2026年3月13日(金) ~ 4月4日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日の3月13日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:3月13日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F