タグボートは取り扱いアーティストの活動支援のために提携しているアート・イン・レジデンスの紹介を行っています。
海外、特に成長目覚ましい中国・上海の郊外の朱家角にあるアーティスト・イン・レジデンスで滞在制作をした新藤杏子について今回はフォーカスをしたいと思います。
現地にて約3カ月の経験をした新藤杏子ですが、今回の海外滞在を経て生まれた作品は10月11日(金)-11月14日(木)に阪急メンズ東京7階tagboatギャラリーで開催される加藤智大×新藤杏子 展「Over possessive」で見ることができます。ぜひこちらもお楽しみいただければ幸いです。
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本展展示作品の多くは、私生活では夫婦である加藤と新藤、そして二人の愛息の家族三人で滞在した中国・上海で制作されました。
風光明媚な土地、混沌とした社会でたくましく生きる人々。日本とは異なる環境で新藤は大いに刺激を受け、そしてたくさんの新しい作品が生み出されました。
そんな新藤による上海滞在レポートです。展示をご覧いただく前に、もちろん後ででも、作品への理解が深まります。ぜひご覧ください。
6月から3ヶ月間、上海のSHUN ART GALLERY主催のレジデンスに夫、息子と共に参加して来ました。レジデンスプログラムの概要は1ヶ月に1枚作品を一枚寄贈するというもので、計3枚の作品を寄贈、その他に、レジデンス施設での展示を行ってきました。
レジデンス施設の場所
レジデンス施設の場所は上海市内からバスで1時間半の青浦区にある朱家角という古い水郷街で(古鎮というそうです)明清時代の建物がそのまま残る明媚な場所です。観光地ではありますが、市内から離れていたこともあり、中国で暮らす人々の日常生活を垣間見ることができる興味深い場所でした。
制作と中国の話
朱家角の水郷を散歩していると本当に多くの人々が朝から働いています。
朝ごはんに玉蘭という小籠包屋によくいっていたのですが、そこは朝の5時からお昼までの朝ごはんを食べられる場所があり、女性たちが働いています。
中国では女性が本当によく働いています。
朱家角では家族経営のお店を多く見かけました。3〜4歳くらいの子供が店の中で手伝いをしたり遊んでいたりする中で親やおじいちゃん、おばあちゃんに至るまで働いています。
夫は印刷屋を使っていたのですが、そこで印刷を待っている間、そこの子供と息子が一緒に遊んだりなどしていました。中国の人々はとてもエネルギッシュで生き生きと働いています。
日本にいる時は、ニュースから流れてくる社会主義の中で情報を統制された生きにくい場所だと思っていて、ネガティブイメージばかりを考えていました。
もちろん、国家の歪みのようなものを感じる部分も非常に多くあります。
例えば、完治していない傷をそのままにした人が非常に多いこと。
例えば片目が見えなくなっているおじさんやおばさん、骨折した指をそのまま放っておいて変形した指を持つ人。
中国で知り合った人に聞けば、病院では診察券を持つのにもお金がかかるため、貧困層の人は病院に行くお金がないのではないかと聞きました。
驚いたのは、日本では信じられないことですが、住んでいる場所や仕事をしている場所もオーナーが変わればすぐ立ち退かなければならないと言う暮らしの理不尽さです。
この3ヶ月、現地の人に紹介してもらって現地の私立保育園に週2回預けていたのですが、私たちが帰る月に、突然閉鎖が決まりました。オーナーが変わり、経営者とオーナーの反りが合わず、払えない額の家賃値上げを提示し、立ち退かなければならないと言うことだったのです。
ありえない!と思いますが、中国ではそんなことは日常茶飯事だということでした。
そんな理不尽さを孕んだ国で生きて行くと思うと、気力が削がれてしまい恨み妬み嫉みでいっぱいになりそうですが、そんなことに構っていたら生きていけないと言わんばかりに皆エネルギッシュに次を探せばいいよといって、享受しながら生き抜いているのです。
このレジデンスが始まった時、私は中国のおばさんたちをたくさん写真に撮って描こうと考えました。その熱量の多さ、強さは、そういった混沌の中で子供を産み育てていったおばさんたちがとても魅力的に思えたのです。
私たちの生まれる少し前に文化大革命があり、その最中に生きていた人たちです。
あらゆる価値観が一気に変容し、ルールが一気に変わり、そこで生きていかなければならない理不尽を許容し、たくましく生きて行く姿がとても愛おしく見えます。生きることの強さを目の当たりにしたような気持ちです。
おばさんたちの服はとんでも無く派手で、柄柄の服をとにかくきて、街を練り歩いています。
自分がここにいるぞと大声で叫んでいるようにも見えます。
いい感じのおばさんを見つけるとオバハントと称し、写真を撮り、それをドローイングに書き留め、作品化しました。
中国について思ったいろんなこと
上海の都市部に行くと、とんでもなく豪奢で、大きい建物がいっぱいあります。もちろん、とんでも無くボロボロの家もその中にあって、本当に混沌とした街です。いたるところで大工事が行われ、空気も悪いです。が、大きい公園がいたるところにあり、そこには健康器具が置いてあり、夕方になるとおじいちゃんおばあちゃんが出てきて、運動したり、カードゲームや麻雀をやって楽しんでいます。中国舞踊をおばさんが集団でやっていたり、社交ダンスのようなものを踊っていたりしています。
中国のほとんどのお店で電子マネー(WeChat Pay)が使えます。ボロボロの、こんなところじゃ使えないだろうと思うようなお店まで、WeChat Payです。
朱家角で道端でおばさんが野菜を売っていたりしたのですが、それも電子マネーで買うことができます。息子の通っていた保育園では、逐一保育園からWeChatで連絡があり、どんな生活をしているのか、どんなことをしたのかをグループチャットで連絡が来ていました。ITの進み方は本当に激しく、驚いたことの一つでした。
そして人々は皆優しいです。
わたしは家族で行ったので、本当に優しさに触れることが多かったように思います。
中国の人は子供にとても優しいです。バスや電車で息子に席を譲ってくれるし、うるさくても文句を言われることはありません。
到着した日に、食事を何処で取っていいかわからずバーガーキングに入ったらそこは電子マネーしか受け付けず、途方に暮れていた時、息子の分だけ買ってあげようか?と申し出てくれた若い青年がいました。涙が出そうなぐらい優しい出来事でした。
子供は宝宝(バオバオ)と呼ばれ、非常に大切にされていることを強く感じました。
国力=人の多さと良く学生時代に授業で聞いていましたが、強い国を作っていく中国のあり方を考えさせられました。特に、少子化問題が取り沙汰される日本との差を感じる部分でした。
その反面、子供の誘拐については本当に皆から注意を受けることが多かったです。
子供は労働力やお金になるということで、人身売買もある、ということも聞きました。
中国に行って思ったことは「混沌」の一言に尽きます。
貧富の差、子供の扱い、どれをとっても明るい部分と暗い部分が混在しています。日本ほど安全ではないし、色々疑わなければならない部分はたくさんありますが、それを内包しながら、強い生命力で持って動いていく営みを3ヶ月の間ですが、体感として感じれたことは非常に尊い経験として刻むことができたと感じています。
加藤智大×新藤杏子 展 「Over possessive」
2019年10月11日(金)~11月14日(木)
営業時間 :11:00-20:00
*最終日11月14日は18:00までとなります。
*他、館の営業時間に準じます。
入場無料
会場 :阪急MEN’s TOKYO ギャラリータグボート
〒100-8488 東京都千代田区有楽町2-5-1 阪急MEN’s TOKYO 7F
オープニングパーティー:10月11日(金)18:00-20:00
加藤智大×新藤杏子 展 「Over possessive」展覧会ページはこちらから。